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しおりを挟む「この場所で済ませる、と言ったな? もし、私が納得しなかったら、どうするんだ?」
やはり一千万円では足りない、もっと金を用意しろ、とでも言い出したら?
どこか愉快そうな、加瀬だ。
章という人間を、試すような問いかけをしてきた。
「その時は」
章は途中で言葉を切って、スーツ前を開いた。
内ポケットに静かに手を入れ、そっと中を半分だけ取り出して見せた。
「……!」
よく喋るはずの小茂田が、絶句した。
加瀬も、目を見開いた。
そこには、木彫り用の切り出しナイフが、収められていたのだ。
「加瀬さんの命を、いただきます。もちろん、落とし前は付けますよ。私も、自害します」
もしここで決着がつかなかったら、きっと今後もずるずると金を要求される。
志乃に、危害が及ぶかもしれないのだ。
刺し違えてでも終わりにする覚悟を、章は決めていた。
「……何て男だ、君は」
確かに、こんな公衆の面前で。
しかも、白昼堂々に騒ぎになれば、ただでは済まない。
警察が動き、マスコミは煽り立てる。
仁道会の看板に、泥を塗ることになる。
それは、極道として生きる加瀬には、死よりも重い。
恩義のある組長に迷惑をかけるなど、決してあってはならないのだ。
ふぅ、と息を吐き、加瀬は立ち上がった。
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