浮気され離婚した大公の悪役後妻に憑依しました

もぁらす

文字の大きさ
27 / 63

※26話『熱に触れられて』

しおりを挟む


 次の瞬間——唇が深く重なった。

 「っ……!」

 さっきまでの慎ましい触れ方とは違う。

 求めるように。
 確かめるように。
 逃げる隙間なんて、最初から与える気がないキス。

 息を奪われる。
 考える力ごと、持っていかれる。

 レオニスの片手が腰を抱き寄せ、もう一方の手が頬を包み込んだ。

 指先が熱くて、震えていて、その震えがそのまま唇へ伝わってくる。

 「……ん……っ……」

 声にならない息が漏れた途端、レオニスの呼吸がわずかに荒くなる。

 唇が離れ、ほんの息の距離で囁かれた。

 「……足りない」

 低く、熱く、喉の奥で潰れた声。

 そのまま、もう一度口づけられる。

 今度は浅く、深く、また浅く。
 
 触れては離れ、追いかけるように重なり——余計に、逃げられなくなる。

 腰を抱く腕が、わずかに強くなった。

 「……セレーネ」

 名前を呼ばれた瞬間、胸の奥がひゅっとつまる。

 昨夜の色が蘇る。
 

 ——だめ。
 思い出しちゃだめ。

 頭ではそう言っているのに、身体が勝手に熱くなる。

 唇がふたたび落ちてくる。
 もう拒む時間すら与えず、深く潜ってきて——

 「……っ、レオニス……!」

 名前を呼んだ瞬間、レオニスの動きが一瞬だけ止まったけれど、また——さらに深く沈んだ。

 「ふ……」

 レオニスがかすかに笑った声が聞こえた。

 でも、思考が溶けて何も考えられない。
 ただ、抱き寄せられて、触れられて、息を奪われて——

 キスだけで、世界が反転していく。

 どうしてこんなに、翻弄されるのか。


 「もっ……」

 その呟きと共に、私の理性の最後の砦を溶かしていった。

 「やだ……」

 その小さな呟きが落ちた瞬間、レオニスの表情が、完全に変わった。

 唇が、もう一度深く重なる。その奥でひっこめた舌を吸い出される。

 「……っ、ん……!」

 今度は迷いがなかった。
 押し寄せる波のように、ゆっくり、けれど強く。
 完全に私の反応を確かめている。

 背中へ回された腕が、さらに逃げられないようにゆっくりと絡みついてくる。

 「……セレーネ……」

 名前を呼ぶ声が、喉の奥で熱に焼かれてかすれていた。

 「……本当に嫌なのか?」


 息が触れ合うほどの距離で、そのまま額がコツンと触れた。
 熱い呼吸が頬をかすめるたび、胸の奥がくすぐられるように震えた。

 「……っ、レオニス……離してください……」

 言いながら、息が震える。

 「……駄目だ」

 腰を抱く腕の力が強まる。

 キスが再び落ちてくる。
 今度は浅く、小刻みに。
 触れては離れ、また触れる。

 「っ……や……っ……」

 声を漏らした瞬間、遮るようにまた塞がれる。

 絡み合う粘膜に、理性が削られていく音がした。

 「嫌だというわりには……舌は絡みついてくる」

 低くそう言いながら、レオニスは私の顎をそっと指で持ち上げて——また、息を塞ぐ。

 「……ん……っ……!」

 逃げられない。
 抱き寄せられて、沈められて、どこまでも奪われていく。

 重ねているのは唇だけなのに、世界がぐらりと揺れる。

 ……身体が……

 胸の奥に熱が灯り、身体が勝手にレオニスの胸へ寄ってしまう。

 寄った瞬間、レオニスが私を抱きしめる力が強くなる。

 彼の指先が、私の髪をそっとすくい上げて、耳の後ろを優しく撫でた。

 「……ずっと触れていたい……」

 囁きながら、ゆっくりと私の肩へ手を滑らせる。

 ——肌を隠していた布に指先をかけると、さらりと腰まで落とした。

 素肌が、あらわになる。

 「……セレーネ……」

 唇が、鎖骨の上に触れた。

 「っ……!」

 レオニスの呼吸が大きく乱れ——そして、私の肩へ額を押しつけた。

 「……抑えられない」

 抱く腕が熱を帯び、私を押しつぶすほど強く抱き寄せる。

 「だっ……だめです」

 震える声でそう告げると、レオニスの腕がびくりと反応した。

 「……駄目ではないだろう」

 低く掠れた声が、耳元をかすめた。

 「甘い香りがする」

 「え……?」

 何のことか一瞬わからなかった。

 でも、レオニスの視線の先——露わになった胸の、昨日つけられた痕に気がついて、かっと顔が熱くなる。

 耳まで真っ赤になっていくのがわかる。

 「や、やめてください……」

 必死に身を縮める私に、レオニスはまるで当然のように答える。

 「恥ずかしがることなど何もない」

 「ありますっ!! 恥ずかしいに決まって——」

 「……セレーネ」

 レオニスの手が腰をなぞる。

 そのまま腰のドレスの中へ指を滑らせ、ほんのり残った香りの元を確かめる。

 「ちょっ……!!」

 「身体は正直だ」

 レオニスの息が肌にかかる。

 「やめっ……外から見えたら……!」

 慌てて視線を窓の方へ向けた瞬間。

 レオニスは当然のように言い放った。

 「見られて困るものではない」

 「こ、困ります!!」

 「なぜだ?」

 「なぜって……っ、そんなの……!」

 言葉が喉につかえて出てこない。

 夜の闇が馬車の窓越しに広がり、街道沿いには灯りもない。

 見られる可能性はほとんどないのに——

 って、そういう問題じゃなくて!

 必死で抗う私をよそに、レオニスは軽く息をついて囁いた。

 「……見えたなら見せてやればいいだろう?」

 
 へっ、変態!!

 顔を上げた瞬間、レオニスの瞳が月光を映し、湖よりも深い青に揺れていた。

 あ……この瞳。

 ……正気じゃない。


 「おまえは俺のものだと見せつけてやろう」

 「だれにっ……!!」


 レオニスはそっと私の頬をなぞり、目尻に触れるように指を滑らせる。

 「……顔が赤い」

 「だ、だから恥ずかしいって言って……!」

 「可愛い」


 ——息が止まる。

 夜の静寂に、レオニスの低い声だけが沈み込む。


 「もっと……見せてくれ」

 「む、無理です……!」

 「無理ではないだろう? 恥じらう姿も、淫らな姿も、どれも愛しい」

 そう言って、逃げようとした顎をそっと掬(すく)い上げる。

 視線が交わった瞬間、また、唇が落ちてくる——


 「……レオニスっ」


 涙がにじむのを堪えきれず、彼の胸に額を寄せたまま言葉を絞り出す。

「……連日、このようにされては……わたし……つらいです」

 レオニスの腕がわずかに強ばる。

「何が……つらい?」

 このままでは逃げられない——でも、言わなければやめてくれそうにない。

 私は震える指先で、そっとドレスの上から下腹部のあたりを押さえた。


「……ここが、腫れてしまって……痛むのです」


 ああああ、恥ずかしいいいい。でも言わなきゃやめてくれない。


 レオニスの瞳が一瞬、息を呑むように揺れた。


 「そこが……痛むのか」

 「……はい」

 小さく頷くと、彼の喉がつ、と上下する。

 そして——



 「……見せてみろ」

 「……!?」

 予想していなかった言葉に、肩が跳ねる。

 「見なければどう痛いかわからないだろう?」


  ……えっ!?


 私が戸惑いで固まったのを見て、レオニスが微笑んだように見えた。
 それから静かに、けれど抗いようのない力でドレスの裾を掴む。

 私は慌てて押さえ込んだ。


「……辛いのだろう?」

「そ……それは……」

「ただ……お前を痛みから救いたいだけだ」


 レオニスの指が、そっとドレスの布端に触れ、裾を持ち上げる。

 空気がひやりと触れ、途端に私は肩をすくめた。

 「みっ、見ないでください……」

 震えた声を漏らすと、レオニスが即座に動きを止めた。


 恥ずかしさで私は腕で顔を覆った。

 逃げたいのに、逃げ場所がない。

 レオニスはドレスの布を持ち上げると、閉じていた私の脚を押し広げた。

 私は思わず膝を閉じなおそうとしたが、その前に彼の手が太腿に添えられ阻まれる。


 「……痛むのだろう?」

 私は何も言えなかった。
 恥ずかしさで声が出ない。

 けれど——レオニスの指先が、あらわになった“濡れた布”に触れた瞬間。

 私は、気づいた。

 ……わざとだ。

 全然わかってやってる!!

 確信犯だ!!


 その指は、わざとゆっくり。
 わざと焦らすように。
 わざと、私をいたぶってくる。

 その証拠に——レオニスの喉が、かすかに愉悦を含んで震えた。


「……セレーネ。腫れているのは……ここか?」

 低く、落とすような声。
 指先を布越しになぞるように上下する。

 熱い吐息が漏れてしまう。

 それを聞いたレオニスの目が、“獲物を見つけた獣”のように細められた。
 

 「……なるほど」


 そして彼は、私の羞恥をもっと深く味わうように、わざと淡々とした声で言った。


 「昨夜よりも、腫れて大きくなっている」

 「っ……もっ、もういいですからっ……!」

 私の言葉は無視して、私の腰を掴むとぐいと持ち上げた。

 私は無様に椅子に倒れた。

 

 レオニスは濡れた場所の“形”を確かめるように指先でそれを擦る。


「レ、レオニス……っ」

「……苦しそうだ——」

 耳朶を掠めるほど低い声で囁かれ、体が震えてしまう。

 その震えを彼は楽しんでいるように口角をあげる。


「……うずいているようだが」

 あっさり言い切る。

 そして——濡れた布に触れた指先に、わずかに力をこめた。

 ちいさく、摘んでは、押す。

 ひ、と。声がこぼれる。
 それを聞いたレオニスの瞳の色が決定的に変わった。

 冷静なふりをしていた仮面が、ゆっくりと剥がれていく。

 そして耳元に、落とすような声。

「……セレーネ、これは“痛み”なのか?」

 唇の端が、うっすらと上がる。

「随分と濡れているが」

 レオニスの指先が布越しに“熱”の在り処を強く押した瞬間、息が詰まって、声にならない声が喉で震えた。

 私は顔が熱くなりすぎて、涙がにじむ。
 もう羞恥で限界だった。

「……や、やめてください……っ……恥ずかしいです……」

 情けない声が出てしまう。

 レオニスは一瞬目を見開き——そして眉を寄せた。

「……おまえのその顔を見ると……抑えが効かなくなる」

 低い声。
 聞いた瞬間、全身が粟立つ。


「……腫れているというのなら、確かめなければならないからな」

「た、確かめ……っ!?」

「直接確認が必要だろう」


 そして指先が、布をずらす。


「ああ、確かに。赤く腫れ上がっている」

 
 蜜を指に絡め、赤く膨らんだそれをぬらりと濡れた指先で擦る。

 その度に私の腰が浮いてカクつくように揺れる。

 どこが敏感で、どこを触れれば声が漏れるのか、丁寧に探るような触れ方。

 息が詰まって、腰が引けてしまう。その度に逃げた腰を引き上げられる。


「……逃げるな」

 そう囁きながら、反対の手で太腿を押さえると、私はひっくり返された蛙のように不恰好な有様になった。

 彼は明らかに愉しんでいる。
 
 そして、舌先を膨らみに這わせ、弄ぶ。

 
 「許してください……っ」


  じっとりとなぶって、時折口に含み、その舌先の動きの強弱に耐えれず、私は驚くほど早く果てた。


「ああ、すまない。次はじっくりとなぶってやろう、優しく」


 熱くて、息がうまく吸えない。

 そんな私の動揺を見て、レオニスは微笑んでいる。


 「……だめ、です……っ、こんなの……っ、いや……!」

 涙声で言うと、レオニスの舌がぴたりと止まった。

 止まった——けれど。

 彼は私を見つめ、熱を押し殺すように喉を震わせてから言った。


 「……嫌なのか」


 私は首を横に振ろうとして——でも、言葉が続かない。

 レオニスは、その躊躇を見逃さなかった。


「……こんなにも腫れ上がってひくついてかわいそうに」

 太腿に添えた指先が、わずかに力を込める。


「随分と蜜が溢れ出てくる」

「っ……!!」

「可哀想に、すべて舐めとってやろう」

 声は、深く低く、そして決定的に甘い。




「セレーネ……、心配はいらない。お前が欲しがるまで、入れたりはしない」


 

 そう、歪んだ声が低く囁いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました

鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。 素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。 とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。 「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」

うっかり結婚を承諾したら……。

翠月るるな
恋愛
「結婚しようよ」 なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。 相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。 白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。 実際は思った感じではなくて──?

「一晩一緒に過ごしただけで彼女面とかやめてくれないか」とあなたが言うから

キムラましゅろう
恋愛
長い間片想いをしていた相手、同期のディランが同じ部署の女性に「一晩共にすごしただけで彼女面とかやめてくれないか」と言っているのを聞いてしまったステラ。 「はいぃ勘違いしてごめんなさいぃ!」と思わず心の中で謝るステラ。 何故なら彼女も一週間前にディランと熱い夜をすごした後だったから……。 一話完結の読み切りです。 ご都合主義というか中身はありません。 軽い気持ちでサクッとお読み下さいませ。 誤字脱字、ごめんなさい!←最初に謝っておく。 小説家になろうさんにも時差投稿します。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

処理中です...