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※26話『熱に触れられて』
しおりを挟む次の瞬間——唇が深く重なった。
「っ……!」
さっきまでの慎ましい触れ方とは違う。
求めるように。
確かめるように。
逃げる隙間なんて、最初から与える気がないキス。
息を奪われる。
考える力ごと、持っていかれる。
レオニスの片手が腰を抱き寄せ、もう一方の手が頬を包み込んだ。
指先が熱くて、震えていて、その震えがそのまま唇へ伝わってくる。
「……ん……っ……」
声にならない息が漏れた途端、レオニスの呼吸がわずかに荒くなる。
唇が離れ、ほんの息の距離で囁かれた。
「……足りない」
低く、熱く、喉の奥で潰れた声。
そのまま、もう一度口づけられる。
今度は浅く、深く、また浅く。
触れては離れ、追いかけるように重なり——余計に、逃げられなくなる。
腰を抱く腕が、わずかに強くなった。
「……セレーネ」
名前を呼ばれた瞬間、胸の奥がひゅっとつまる。
昨夜の色が蘇る。
——だめ。
思い出しちゃだめ。
頭ではそう言っているのに、身体が勝手に熱くなる。
唇がふたたび落ちてくる。
もう拒む時間すら与えず、深く潜ってきて——
「……っ、レオニス……!」
名前を呼んだ瞬間、レオニスの動きが一瞬だけ止まったけれど、また——さらに深く沈んだ。
「ふ……」
レオニスがかすかに笑った声が聞こえた。
でも、思考が溶けて何も考えられない。
ただ、抱き寄せられて、触れられて、息を奪われて——
キスだけで、世界が反転していく。
どうしてこんなに、翻弄されるのか。
「もっ……」
その呟きと共に、私の理性の最後の砦を溶かしていった。
「やだ……」
その小さな呟きが落ちた瞬間、レオニスの表情が、完全に変わった。
唇が、もう一度深く重なる。その奥でひっこめた舌を吸い出される。
「……っ、ん……!」
今度は迷いがなかった。
押し寄せる波のように、ゆっくり、けれど強く。
完全に私の反応を確かめている。
背中へ回された腕が、さらに逃げられないようにゆっくりと絡みついてくる。
「……セレーネ……」
名前を呼ぶ声が、喉の奥で熱に焼かれてかすれていた。
「……本当に嫌なのか?」
息が触れ合うほどの距離で、そのまま額がコツンと触れた。
熱い呼吸が頬をかすめるたび、胸の奥がくすぐられるように震えた。
「……っ、レオニス……離してください……」
言いながら、息が震える。
「……駄目だ」
腰を抱く腕の力が強まる。
キスが再び落ちてくる。
今度は浅く、小刻みに。
触れては離れ、また触れる。
「っ……や……っ……」
声を漏らした瞬間、遮るようにまた塞がれる。
絡み合う粘膜に、理性が削られていく音がした。
「嫌だというわりには……舌は絡みついてくる」
低くそう言いながら、レオニスは私の顎をそっと指で持ち上げて——また、息を塞ぐ。
「……ん……っ……!」
逃げられない。
抱き寄せられて、沈められて、どこまでも奪われていく。
重ねているのは唇だけなのに、世界がぐらりと揺れる。
……身体が……
胸の奥に熱が灯り、身体が勝手にレオニスの胸へ寄ってしまう。
寄った瞬間、レオニスが私を抱きしめる力が強くなる。
彼の指先が、私の髪をそっとすくい上げて、耳の後ろを優しく撫でた。
「……ずっと触れていたい……」
囁きながら、ゆっくりと私の肩へ手を滑らせる。
——肌を隠していた布に指先をかけると、さらりと腰まで落とした。
素肌が、あらわになる。
「……セレーネ……」
唇が、鎖骨の上に触れた。
「っ……!」
レオニスの呼吸が大きく乱れ——そして、私の肩へ額を押しつけた。
「……抑えられない」
抱く腕が熱を帯び、私を押しつぶすほど強く抱き寄せる。
「だっ……だめです」
震える声でそう告げると、レオニスの腕がびくりと反応した。
「……駄目ではないだろう」
低く掠れた声が、耳元をかすめた。
「甘い香りがする」
「え……?」
何のことか一瞬わからなかった。
でも、レオニスの視線の先——露わになった胸の、昨日つけられた痕に気がついて、かっと顔が熱くなる。
耳まで真っ赤になっていくのがわかる。
「や、やめてください……」
必死に身を縮める私に、レオニスはまるで当然のように答える。
「恥ずかしがることなど何もない」
「ありますっ!! 恥ずかしいに決まって——」
「……セレーネ」
レオニスの手が腰をなぞる。
そのまま腰のドレスの中へ指を滑らせ、ほんのり残った香りの元を確かめる。
「ちょっ……!!」
「身体は正直だ」
レオニスの息が肌にかかる。
「やめっ……外から見えたら……!」
慌てて視線を窓の方へ向けた瞬間。
レオニスは当然のように言い放った。
「見られて困るものではない」
「こ、困ります!!」
「なぜだ?」
「なぜって……っ、そんなの……!」
言葉が喉につかえて出てこない。
夜の闇が馬車の窓越しに広がり、街道沿いには灯りもない。
見られる可能性はほとんどないのに——
って、そういう問題じゃなくて!
必死で抗う私をよそに、レオニスは軽く息をついて囁いた。
「……見えたなら見せてやればいいだろう?」
へっ、変態!!
顔を上げた瞬間、レオニスの瞳が月光を映し、湖よりも深い青に揺れていた。
あ……この瞳。
……正気じゃない。
「おまえは俺のものだと見せつけてやろう」
「だれにっ……!!」
レオニスはそっと私の頬をなぞり、目尻に触れるように指を滑らせる。
「……顔が赤い」
「だ、だから恥ずかしいって言って……!」
「可愛い」
——息が止まる。
夜の静寂に、レオニスの低い声だけが沈み込む。
「もっと……見せてくれ」
「む、無理です……!」
「無理ではないだろう? 恥じらう姿も、淫らな姿も、どれも愛しい」
そう言って、逃げようとした顎をそっと掬(すく)い上げる。
視線が交わった瞬間、また、唇が落ちてくる——
「……レオニスっ」
涙がにじむのを堪えきれず、彼の胸に額を寄せたまま言葉を絞り出す。
「……連日、このようにされては……わたし……つらいです」
レオニスの腕がわずかに強ばる。
「何が……つらい?」
このままでは逃げられない——でも、言わなければやめてくれそうにない。
私は震える指先で、そっとドレスの上から下腹部のあたりを押さえた。
「……ここが、腫れてしまって……痛むのです」
ああああ、恥ずかしいいいい。でも言わなきゃやめてくれない。
レオニスの瞳が一瞬、息を呑むように揺れた。
「そこが……痛むのか」
「……はい」
小さく頷くと、彼の喉がつ、と上下する。
そして——
「……見せてみろ」
「……!?」
予想していなかった言葉に、肩が跳ねる。
「見なければどう痛いかわからないだろう?」
……えっ!?
私が戸惑いで固まったのを見て、レオニスが微笑んだように見えた。
それから静かに、けれど抗いようのない力でドレスの裾を掴む。
私は慌てて押さえ込んだ。
「……辛いのだろう?」
「そ……それは……」
「ただ……お前を痛みから救いたいだけだ」
レオニスの指が、そっとドレスの布端に触れ、裾を持ち上げる。
空気がひやりと触れ、途端に私は肩をすくめた。
「みっ、見ないでください……」
震えた声を漏らすと、レオニスが即座に動きを止めた。
恥ずかしさで私は腕で顔を覆った。
逃げたいのに、逃げ場所がない。
レオニスはドレスの布を持ち上げると、閉じていた私の脚を押し広げた。
私は思わず膝を閉じなおそうとしたが、その前に彼の手が太腿に添えられ阻まれる。
「……痛むのだろう?」
私は何も言えなかった。
恥ずかしさで声が出ない。
けれど——レオニスの指先が、あらわになった“濡れた布”に触れた瞬間。
私は、気づいた。
……わざとだ。
全然わかってやってる!!
確信犯だ!!
その指は、わざとゆっくり。
わざと焦らすように。
わざと、私をいたぶってくる。
その証拠に——レオニスの喉が、かすかに愉悦を含んで震えた。
「……セレーネ。腫れているのは……ここか?」
低く、落とすような声。
指先を布越しになぞるように上下する。
熱い吐息が漏れてしまう。
それを聞いたレオニスの目が、“獲物を見つけた獣”のように細められた。
「……なるほど」
そして彼は、私の羞恥をもっと深く味わうように、わざと淡々とした声で言った。
「昨夜よりも、腫れて大きくなっている」
「っ……もっ、もういいですからっ……!」
私の言葉は無視して、私の腰を掴むとぐいと持ち上げた。
私は無様に椅子に倒れた。
レオニスは濡れた場所の“形”を確かめるように指先でそれを擦る。
「レ、レオニス……っ」
「……苦しそうだ——」
耳朶を掠めるほど低い声で囁かれ、体が震えてしまう。
その震えを彼は楽しんでいるように口角をあげる。
「……うずいているようだが」
あっさり言い切る。
そして——濡れた布に触れた指先に、わずかに力をこめた。
ちいさく、摘んでは、押す。
ひ、と。声がこぼれる。
それを聞いたレオニスの瞳の色が決定的に変わった。
冷静なふりをしていた仮面が、ゆっくりと剥がれていく。
そして耳元に、落とすような声。
「……セレーネ、これは“痛み”なのか?」
唇の端が、うっすらと上がる。
「随分と濡れているが」
レオニスの指先が布越しに“熱”の在り処を強く押した瞬間、息が詰まって、声にならない声が喉で震えた。
私は顔が熱くなりすぎて、涙がにじむ。
もう羞恥で限界だった。
「……や、やめてください……っ……恥ずかしいです……」
情けない声が出てしまう。
レオニスは一瞬目を見開き——そして眉を寄せた。
「……おまえのその顔を見ると……抑えが効かなくなる」
低い声。
聞いた瞬間、全身が粟立つ。
「……腫れているというのなら、確かめなければならないからな」
「た、確かめ……っ!?」
「直接確認が必要だろう」
そして指先が、布をずらす。
「ああ、確かに。赤く腫れ上がっている」
蜜を指に絡め、赤く膨らんだそれをぬらりと濡れた指先で擦る。
その度に私の腰が浮いてカクつくように揺れる。
どこが敏感で、どこを触れれば声が漏れるのか、丁寧に探るような触れ方。
息が詰まって、腰が引けてしまう。その度に逃げた腰を引き上げられる。
「……逃げるな」
そう囁きながら、反対の手で太腿を押さえると、私はひっくり返された蛙のように不恰好な有様になった。
彼は明らかに愉しんでいる。
そして、舌先を膨らみに這わせ、弄ぶ。
「許してください……っ」
じっとりとなぶって、時折口に含み、その舌先の動きの強弱に耐えれず、私は驚くほど早く果てた。
「ああ、すまない。次はじっくりとなぶってやろう、優しく」
熱くて、息がうまく吸えない。
そんな私の動揺を見て、レオニスは微笑んでいる。
「……だめ、です……っ、こんなの……っ、いや……!」
涙声で言うと、レオニスの舌がぴたりと止まった。
止まった——けれど。
彼は私を見つめ、熱を押し殺すように喉を震わせてから言った。
「……嫌なのか」
私は首を横に振ろうとして——でも、言葉が続かない。
レオニスは、その躊躇を見逃さなかった。
「……こんなにも腫れ上がってひくついてかわいそうに」
太腿に添えた指先が、わずかに力を込める。
「随分と蜜が溢れ出てくる」
「っ……!!」
「可哀想に、すべて舐めとってやろう」
声は、深く低く、そして決定的に甘い。
「セレーネ……、心配はいらない。お前が欲しがるまで、入れたりはしない」
そう、歪んだ声が低く囁いた。
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