おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる

シンギョウ ガク

文字の大きさ
93 / 232
第二部 第十章 飛ばされた先

1

しおりを挟む
 「グレイズさん……グレイズさん、起きて、起きてよう」

 誰かが俺の身体をユサユサと揺すってきていた。

 声に反応して目を開けようと頑張っているが、地面がグルグルと回っているような感覚が残っており、身体の自由が未だに戻って来ていなかった。

 なので、もう少しだけ時間をもらいたい。

「ああ、分かった。もう少ししたら起きられるようになるはずだ。ちょっとだけ待ってくれ」

 俺をこの状態に追いやった金色宝箱ゴールデンボックス。ムエルたちと組んでいた時に、深層階で見かけて退治しようと戦ったが、先ほどのように転移魔法が発動した。その時は上層階に飛ばされただけで済んだ。

 だが、金色宝箱ゴールデンボックスと遭遇した中で運が悪い者は壁などにハマり込み、そのまま絶命したと、他の冒険者から聞いたこともある。

 ある意味、ダンジョンで一番凶悪な魔物なのだ。ただ、転移魔法発動前に倒すことができれば、レアドロップ装備などを多数ドロップ排出するため、危険性を省みず討伐にチャレンジする冒険者もいるのだ。

 そんな危険性のある金色宝箱ゴールデンボックスだが、現れる可能性がない低層階に出たという理由は、メラニアの召喚魔術くらいしか考えられなかった。

 自死をしようとした際に、召喚陣が錬成され、それが金色宝箱ゴールデンボックスを呼び込んだと推測される。

 前回のグレーターデーモンに続き、今回の金色宝箱ゴールデンボックスも深層階の魔物であることを考えると、彼女の錬成する召喚陣は高確率で強い魔物を呼び寄せるかもしれなかった。

 そんなことを考えていたらグルグルと目の回る感覚が徐々に失せていき、目が開けられるようになると、身体を起こして周囲の様子を確認していくことにした。

「メラニアやみんなは無事か? 気が付いている奴はパーティーメンバー同士で仲間の安否を確認してくれ」

 起き上がると周囲には、あの場に居て同じように飛ばされた冒険者たちが、地面に倒れ込んでいる姿が多々見受けられた。

 見える範囲では負傷などしている者は見られないが、転移の衝撃で気を失っている者が多数いるようだ。

「グレイズさん、みんな寝てるのー。さっきから、ファーマが一生懸命起こしているんだけど、みんな起きなくて困っているのー」

 一番最初に目覚めたらしいファーマが俺を揺すっていたようだ。

 転移後のあの感覚からの復帰には個人差がかなりあるようで、周りを見ても目覚めている者は数名ほどしかいない。

「みんな、気を失っているだけだと思う。起こしていこう」

「はーい! じゃあ、メリーさんからいく。メリーさん、起きてー!」

 ファーマが地面に横たわって気を失っているメリーを揺すって起こしていく。

 俺も自分の横で倒れていたカーラの肩を揺すって、覚醒を促していった。

「カーラ、起きろ。起きてくれ」

「う、ううん。グレイズの顔がある。これは、夢というやつ。だったら、チューしていいはず」

 寝ぼけているのか、カーラが接吻を求めるような仕草をしたので、軽くおでこにデコピンを喰らわせて覚醒を促した。

「グレイズ、酷い。チューの一つくらい。減らない。ケチ」

「多分、俺のは減るんだよ。きっとな」

 カーラの無事の覚醒を確認して安堵する。見たところ、身体には負傷はない様子である。

 ただ、寝ぼけて接吻を求められても、応じることは出来ないので、丁重なお断りをさせてもらった。

「カーラも目覚めたら、他の子を起こすのを手伝ってくれ」

「承知。次こそ、グレイズのチューを頂くつもり」

 パンパンと衣服の埃を払ったカーラは近くのハクを起こしていった。

「次はメラニアか」

 カーラを起こすと、気を失っているメラニアを起こす。

 どれくらいの時間、気を失っていたか分からないが、メラニアはきっと金色宝箱ゴールデンボックスの召喚によって魔力をかなり消費しているはずであった。

「メラニア、大丈夫か? 起きろ。起きてくれ」

 小柄なメラニアの身体を揺すり、覚醒を促していく。

「あうぅん。うぅう、ううん」

 端正な顔立ちをしているメラニアの眉間に皺が寄ると、意識が覚醒したようで徐々に目が開き始めていった。

「起きてくれ、メラニア」

「あ、うん。グレイズ様? 一体何が……起きたのです」

 一瞬、何が起きたのかメラニアに伝えるかどうか逡巡したが、彼女自身が自分の力を知ってしまった現状、嘘をついて隠しても真実にたどり着くと思われた。

 なので、俺の推測ではあるが、現状で一番可能性があると思われることを伝えることにした。

「メラニア、落ち着いて聞いてくれ。これは俺の推測に過ぎない話だと前置きした上で話させてもらう」

「え、ええ。はい」

「俺たちは金色宝箱ゴールデンボックスという魔物が発動させた集団転移魔法に巻き込まれたらしい。そして、その魔物はきっとメラニアの召喚魔法が呼び寄せた魔物だったと思われるんだ」

 自死をしようとした際、自らが召喚魔法を発動させたことを感じ取っていたメラニアががっくりと項垂れてしまう。

「や、やはり、わたくしのせいでしたか……。本当にすみません。本当にわたくしは皆さんにご迷惑しか……」

「死んで償うって話は無しだからな。大丈夫、壁の中じゃなかったし、ダンジョンの中は俺たち冒険者にとっては家みたいなもんだ。気に病む必要はない」

 集団転移が自分の引き起こした失態だと察したメラニアが気落ちしないように慰めの声をかけていく。

「本当にすみません。死んで償うのは無しだと言われましたので、わたくしにできることは何でもさせてもらいます。戦闘ではお役に立てませんがご飯作りくらいならお手伝いできると思いますし」

「ああ、戦うことは俺たちに任せてくれ。それに召喚魔法については地上に戻ったらおばばに詳しい話を聞いてみるつもりだ。召喚魔法も魔法の一種だから制御できるはずだしな。そっちも俺がきちんと面倒を見てやるから安心してくれ」

 メラニアがうっすらと涙を浮かべて、俺の手を握ってきていた。

「本当にグレイズ様にはお世話をおかけします」

「いいってことさ。俺が好きでやっていることだからな」

 ポケットから綺麗なハンカチを取り出すと、うっすらと浮かんだ涙を拭いてあげた。
しおりを挟む
感想 1,071

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。