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第二部 第十章 飛ばされた先
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しおりを挟むやがて、次々に覚醒していった冒険者たちは、パーティーメンバーの安否を確認していく。あの狭い通路にひしめき合っていた冒険者たちは、おおよそ百人以上居たはずで、ざっと見た感じでも、あの場にいた冒険者はほとんど全て集団転移に引っ掛かったものと思われた。
「グレイズさん、この場所に飛ばされたのは、全二〇パーティーの総数一〇三名にのぼるみたいね。今、集計が終わったわ。最高ランク冒険者はグレイズさんのSランク、それ以外だと『おっさんず』のBランク三人、私たちと同じCランク冒険者が一九名、あとはDランク三〇名、Eランク五〇名って内訳よ」
覚醒した『おっさんず』やメリーが、一緒に飛ばされてきたパーティーの状況をすぐに把握し始めてくれて、まとめられた報告が俺に伝えられた。
あの転移魔法によってどこに飛ばされたのかの判断は未だつきかねているため、他の冒険者たちには無暗に探索せずに、この場にとどまってくれるように頼みこんでおいてある。
以前とは違い、うちのパーティーの躍進を知っている者たちが多数を占めていたのと、現状における最高ランクのSランクが俺だということもあり、皆が指示に従って行動をしてくれていた。
「捜索に参加してくれていた奴等がほとんど一緒に飛ばされたらしいな。ありがとう、助かったぞ。メリー」
「それにしても、低階層に金色宝箱が出現するなんて……前代未聞ですよね」
隣でメリーの報告を聞いていたアウリースが、低階層に発生した金色宝箱のことを訝しんでいた。
そういえば、メラニアの召喚魔法については皆にまだ伝えずにいたことを失念していたことを思い出していた。下手に隠して、後々に発覚するとメラニアの立場が更に悪くなると思われるので、すべてをみんなにさらけ出すことに決めた。
「すまない。それに関してはみんなに聞いて欲しいことがある。実はメラニアが召喚魔法を使えること知っていたんだが、俺が隠しておけと言っていたんだ。そして、あの時、召喚陣が錬成され金色宝箱が召喚され、集団転移魔法が発動したらしい。すまない、これは俺の判断ミスだった」
メラニアの能力がこんな事態を引き起こすとは想定しておらず、この集団転移は俺の判断ミスが生んだ事態であると言えた。
「本当にすみません。わたくしのせいで皆様を巻き込んでしまったようで……なんとお詫びすればいいか……」
メラニアと俺が頭を下げたのを見て、集まっていた冒険者たちからは召喚魔法についての質問が飛んでいた。
「グレイズさん、召喚魔法ってなんすか? 魔術士とか回復術士とかが使う魔法とは違うんすか? メラニアちゃんってすげえ才能の持ち主って話?」
魔法としては精霊魔法より更に使う者が少ない召喚魔法であるため、若い冒険者たちは召喚魔法について知らない者が多いらしい。
そんな若手を見かねた『おっさんず』のグレイが説明をしてくれた。
「召喚魔法ってのはな。術者の魔力を糧にしてダンジョンの魔物を呼び出して使役する魔法のこった。運の要素が強すぎて最近では転職する奴が居なくなったが召喚術士は上位職でもある。このお嬢ちゃんは深層階の魔物を呼び出せるとなると相当運がいいのかもしれないなぁ。いい召喚術士としての素養を持っているかもしれんぞ」
「マジかぁ! メラニアちゃん、すげえ有能ってことかよ。すげぇ、すげえよ」
グレイによって説明を受けた駆け出しの冒険者たちが、メラニアを尊敬の目で見ていた。彼らにとってレアな上位職持ちというのは敬意を表する対象となっているようだ。
若い冒険者たちに蔓延していたダンジョン攻略法からの火力至上主義という得体の知れない評価基準がここ最近急速に崩れ去り、新たにレアジョブ信仰という評価基準が生まれ出ようとしていた。
それが良いことなのか悪いことなのか俺には判断しかねるが、少なくとも無理をしがちだったダンジョン攻略法よりは良い物であると思いたい。
「そ、そんな。有能だなんて……。わたくしは自分で魔法をコントロールできませんので、欠陥召喚術士というしか……」
謙遜しているがハクがメラニアを『天啓子』だと白状していたため、きっと召喚術士に必要な重要ステータスがS+なのは確定であろうと思われた。
なので、召喚陣が錬成されれば、例外なく強力な魔物が呼び出され使役できるものと思われる。
「メラニアが有能な召喚術士になる素養があることは間違いないが、現状はコントロールできないし、冒険者としては駆け出しの君らよりも能力はないと思ってくれるとありがたい」
「ああ、じゃあ、メラニアちゃんが呼び出した魔物が、さっき言ってた集団転移魔法ってので、オレらが丸ごとダンジョンのどこかに飛んだってことっすね。おっけーっす。なら、あとはすげえ召喚術士の能力を持ったメラニアちゃんを護衛して地上に帰れば、万事おっけーってことっすね」
底抜けに能天気な駆け出しの冒険者が、事態の深刻さを感じさせない明るい声で喋っている。
みんな、初めての転移魔法であったが無事ダンジョン内に飛ばされたことで安堵している様子を浮かべてはいた。メリーが捜索前に作った捜索隊の名簿記載されたパーティーは全て無事にこの場に飛ばされ、はぐれた者たちがいなかったのが不幸中の幸いだった。
「あの場にいた冒険者、一応、みんな無事。ただ、ここ、どこ?」
カーラが、自分たちが飛ばされた階層がどこかを知りたがった。
だが、周りの様子だけでは今、俺たちがどの階層にいるか判断できないでいた。
探索チームを出すか……。下の階層に飛ばされていたら、最悪、ここにいるみんなが死亡しかねないぞ。
周囲に座り込んで転移魔法による壁埋まりを回避しホッと安堵した顔をしている、駆け出しから中堅なり立ての冒険者たちを見て、最悪の展開を想像してしまった。
「それについては、まだ判断がつかないでいる。この場に居る冒険者最高ランク保持者として、提案させてもらいたいが、探索チームを出したい。言い出しっぺの俺と、ファーマ、ハクの三人で少し周りを探索して、ここがどこか把握してくる。とりあえず、物資に関しては、食料、飲み物、ポーション、武具など店用の背負子を担いできているから、しばらくは大丈夫だが、一応用心のため節約を心がけてもらうと助かる」
周りで座り込んでいた冒険者たちにも聞こえるように、大きめの声で探索チームを作ることを伝え、同時に物資の節約をすることの協力を求めることにしていた。
「『商人』であるグレイズが探索チームを率いるのか? Sランク冒険者だとはいえ、それは危なくないか? ワシらが代わりに行ってもいいぞ」
ベテラン冒険者で俺に次ぐBランク保持者の『おっさんず』の三人が探索チームの代行を申しでてくれたが、どこに飛ばされたか分からない以上、最強の戦闘能力を持つ、俺自身が探索をした方が安全度は高いと判断している。
だが、『おっさんず』の心配も理解できる。なにせ、俺は現パーティーにおいても、ほとんど後衛仕事すらもさせてもらえず、荷物持ち的な仕事しかしている所しか見られていないから、心配されるのも頷けた。
そんな『おっさんず』たちの心配を払拭するため、戦闘しないことを重視した探索をすることを提案する。
「逃げ足だけで『Sランク』に到達した俺を舐めてもらっちゃあ困るぞ。やばいのがいたら逃げるからな。大丈夫だ。それにファーマは魔物の気配に敏感だし、ハクは匂いに敏感だ。危なそうなら逃げてくるから大丈夫」
「そうだったな。グレイズの逃げ足だけは一級品だと思うぞ。オッケー、分かった。探索チームはグレイズたちに任せる」
『おっさんず』とのやり取りを聞いていた冒険者たちから笑い声が上がる。
一応、現状の冒険者で最高ランクであると知られているが、力のことはメンバー以外知らないため、心配されるのは当然であった。
なので、逃げ足の速さをアピールして、その場にいる冒険者たちを納得させておいた。
「じゃあ、メリー、カーラ、アウリース、セーラ、メラニア。物資はここに置いておくから、駆け出し冒険者たちが無謀な行動に出ないようにしておいてくれ。『おっさんず』も、周辺警戒を手伝ってくれるとありがたい」
「分かったわ。みんなには落ち着くように言っておくから」
「そうですね。どこか分かるまでは、無暗に動かない方がいいですしね。グレイズさんの探索結果を聞いてから動いた方が良さそうです」
「承知、グレイズ、気を付けて」
「若造たちの面倒はオレらに任せておけ、勝手な行動はさせん。ダンジョンで野垂れ死にされるのも後味が悪いからな」
「あたしも、お父さんと一緒に若い子たちを押さえておきます」
「グレイズ様、お気をつけて……」
「頼んだ。ハク、ファーマ、探索に行こう」
俺は背負っていた背負子を地面に置くと、身軽な格好になり、ファーマとハクを呼ぶ。
「はーい! ハクちゃん行くよ」
「わふうぅ(メンバーの皆さんには、あたしを通じて随時ご連絡しまーす)」
三人で探索チームを組むと、俺たちはみんなを残し、通路の奥に向けて歩き出していった。
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