おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる

シンギョウ ガク

文字の大きさ
94 / 232
第二部 第十章 飛ばされた先

2

しおりを挟む

 やがて、次々に覚醒していった冒険者たちは、パーティーメンバーの安否を確認していく。あの狭い通路にひしめき合っていた冒険者たちは、おおよそ百人以上居たはずで、ざっと見た感じでも、あの場にいた冒険者はほとんど全て集団転移に引っ掛かったものと思われた。

「グレイズさん、この場所に飛ばされたのは、全二〇パーティーの総数一〇三名にのぼるみたいね。今、集計が終わったわ。最高ランク冒険者はグレイズさんのSランク、それ以外だと『おっさんず』のBランク三人、私たちと同じCランク冒険者が一九名、あとはDランク三〇名、Eランク五〇名って内訳よ」

 覚醒した『おっさんず』やメリーが、一緒に飛ばされてきたパーティーの状況をすぐに把握し始めてくれて、まとめられた報告が俺に伝えられた。

 あの転移魔法によってどこに飛ばされたのかの判断は未だつきかねているため、他の冒険者たちには無暗に探索せずに、この場にとどまってくれるように頼みこんでおいてある。

 以前とは違い、うちのパーティーの躍進を知っている者たちが多数を占めていたのと、現状における最高ランクのSランクが俺だということもあり、皆が指示に従って行動をしてくれていた。

「捜索に参加してくれていた奴等がほとんど一緒に飛ばされたらしいな。ありがとう、助かったぞ。メリー」

「それにしても、低階層に金色宝箱ゴールデンボックスが出現するなんて……前代未聞ですよね」

 隣でメリーの報告を聞いていたアウリースが、低階層に発生した金色宝箱ゴールデンボックスのことを訝しんでいた。

 そういえば、メラニアの召喚魔法については皆にまだ伝えずにいたことを失念していたことを思い出していた。下手に隠して、後々に発覚するとメラニアの立場が更に悪くなると思われるので、すべてをみんなにさらけ出すことに決めた。

「すまない。それに関してはみんなに聞いて欲しいことがある。実はメラニアが召喚魔法を使えること知っていたんだが、俺が隠しておけと言っていたんだ。そして、あの時、召喚陣が錬成され金色宝箱ゴールデンボックスが召喚され、集団転移魔法が発動したらしい。すまない、これは俺の判断ミスだった」

 メラニアの能力がこんな事態を引き起こすとは想定しておらず、この集団転移は俺の判断ミスが生んだ事態であると言えた。

「本当にすみません。わたくしのせいで皆様を巻き込んでしまったようで……なんとお詫びすればいいか……」

 メラニアと俺が頭を下げたのを見て、集まっていた冒険者たちからは召喚魔法についての質問が飛んでいた。

「グレイズさん、召喚魔法ってなんすか? 魔術士とか回復術士とかが使う魔法とは違うんすか? メラニアちゃんってすげえ才能の持ち主って話?」

 魔法としては精霊魔法より更に使う者が少ない召喚魔法であるため、若い冒険者たちは召喚魔法について知らない者が多いらしい。

 そんな若手を見かねた『おっさんず』のグレイが説明をしてくれた。

「召喚魔法ってのはな。術者の魔力を糧にしてダンジョンの魔物を呼び出して使役する魔法のこった。運の要素が強すぎて最近では転職する奴が居なくなったが召喚術士は上位職でもある。このお嬢ちゃんは深層階の魔物を呼び出せるとなると相当運がいいのかもしれないなぁ。いい召喚術士としての素養を持っているかもしれんぞ」

「マジかぁ! メラニアちゃん、すげえ有能ってことかよ。すげぇ、すげえよ」

 グレイによって説明を受けた駆け出しの冒険者たちが、メラニアを尊敬の目で見ていた。彼らにとってレアな上位職持ちというのは敬意を表する対象となっているようだ。

 若い冒険者たちに蔓延していたダンジョン攻略法からの火力至上主義という得体の知れない評価基準がここ最近急速に崩れ去り、新たにレアジョブ信仰という評価基準が生まれ出ようとしていた。

 それが良いことなのか悪いことなのか俺には判断しかねるが、少なくとも無理をしがちだったダンジョン攻略法よりは良い物であると思いたい。

「そ、そんな。有能だなんて……。わたくしは自分で魔法をコントロールできませんので、欠陥召喚術士というしか……」

 謙遜しているがハクがメラニアを『天啓子』だと白状していたため、きっと召喚術士に必要な重要ステータスがS+なのは確定であろうと思われた。

 なので、召喚陣が錬成されれば、例外なく強力な魔物が呼び出され使役できるものと思われる。

「メラニアが有能な召喚術士になる素養があることは間違いないが、現状はコントロールできないし、冒険者としては駆け出しの君らよりも能力はないと思ってくれるとありがたい」

「ああ、じゃあ、メラニアちゃんが呼び出した魔物が、さっき言ってた集団転移魔法ってので、オレらが丸ごとダンジョンのどこかに飛んだってことっすね。おっけーっす。なら、あとはすげえ召喚術士の能力を持ったメラニアちゃんを護衛して地上に帰れば、万事おっけーってことっすね」

 底抜けに能天気な駆け出しの冒険者が、事態の深刻さを感じさせない明るい声で喋っている。

 みんな、初めての転移魔法であったが無事ダンジョン内に飛ばされたことで安堵している様子を浮かべてはいた。メリーが捜索前に作った捜索隊の名簿記載されたパーティーは全て無事にこの場に飛ばされ、はぐれた者たちがいなかったのが不幸中の幸いだった。

「あの場にいた冒険者、一応、みんな無事。ただ、ここ、どこ?」

 カーラが、自分たちが飛ばされた階層がどこかを知りたがった。

だが、周りの様子だけでは今、俺たちがどの階層にいるか判断できないでいた。

 探索チームを出すか……。下の階層に飛ばされていたら、最悪、ここにいるみんなが死亡しかねないぞ。

 周囲に座り込んで転移魔法による壁埋まりを回避しホッと安堵した顔をしている、駆け出しから中堅なり立ての冒険者たちを見て、最悪の展開を想像してしまった。

「それについては、まだ判断がつかないでいる。この場に居る冒険者最高ランク保持者として、提案させてもらいたいが、探索チームを出したい。言い出しっぺの俺と、ファーマ、ハクの三人で少し周りを探索して、ここがどこか把握してくる。とりあえず、物資に関しては、食料、飲み物、ポーション、武具など店用の背負子を担いできているから、しばらくは大丈夫だが、一応用心のため節約を心がけてもらうと助かる」

 周りで座り込んでいた冒険者たちにも聞こえるように、大きめの声で探索チームを作ることを伝え、同時に物資の節約をすることの協力を求めることにしていた。

「『商人』であるグレイズが探索チームを率いるのか? Sランク冒険者だとはいえ、それは危なくないか? ワシらが代わりに行ってもいいぞ」

 ベテラン冒険者で俺に次ぐBランク保持者の『おっさんず』の三人が探索チームの代行を申しでてくれたが、どこに飛ばされたか分からない以上、最強の戦闘能力を持つ、俺自身が探索をした方が安全度は高いと判断している。

 だが、『おっさんず』の心配も理解できる。なにせ、俺は現パーティーにおいても、ほとんど後衛仕事すらもさせてもらえず、荷物持ち的な仕事しかしている所しか見られていないから、心配されるのも頷けた。

 そんな『おっさんず』たちの心配を払拭するため、戦闘しないことを重視した探索をすることを提案する。

「逃げ足だけで『Sランク』に到達した俺を舐めてもらっちゃあ困るぞ。やばいのがいたら逃げるからな。大丈夫だ。それにファーマは魔物の気配に敏感だし、ハクは匂いに敏感だ。危なそうなら逃げてくるから大丈夫」

「そうだったな。グレイズの逃げ足だけは一級品だと思うぞ。オッケー、分かった。探索チームはグレイズたちに任せる」

 『おっさんず』とのやり取りを聞いていた冒険者たちから笑い声が上がる。

 一応、現状の冒険者で最高ランクであると知られているが、力のことはメンバー以外知らないため、心配されるのは当然であった。

 なので、逃げ足の速さをアピールして、その場にいる冒険者たちを納得させておいた。

「じゃあ、メリー、カーラ、アウリース、セーラ、メラニア。物資はここに置いておくから、駆け出し冒険者たちが無謀な行動に出ないようにしておいてくれ。『おっさんず』も、周辺警戒を手伝ってくれるとありがたい」

「分かったわ。みんなには落ち着くように言っておくから」

「そうですね。どこか分かるまでは、無暗に動かない方がいいですしね。グレイズさんの探索結果を聞いてから動いた方が良さそうです」

「承知、グレイズ、気を付けて」

「若造たちの面倒はオレらに任せておけ、勝手な行動はさせん。ダンジョンで野垂れ死にされるのも後味が悪いからな」

「あたしも、お父さんと一緒に若い子たちを押さえておきます」

「グレイズ様、お気をつけて……」

「頼んだ。ハク、ファーマ、探索に行こう」

 俺は背負っていた背負子を地面に置くと、身軽な格好になり、ファーマとハクを呼ぶ。

「はーい! ハクちゃん行くよ」

「わふうぅ(メンバーの皆さんには、あたしを通じて随時ご連絡しまーす)」

 三人で探索チームを組むと、俺たちはみんなを残し、通路の奥に向けて歩き出していった。
しおりを挟む
感想 1,071

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。