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後日談(短編)
レヨン ドゥ ソレイユ・中編
「じゃあ、おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
パーティーもつつがなく終わり後は寝て起きたら帰れる。ちょっと嫌なことも言われたがあれぐらいならどうってことはなかった。
「あ、ティナ。言い忘れたけど」
「はい?」
「今日とても綺麗だったぞ」
「!」
「じゃあまた明日な」
そう言い残してリクハルド様は扉を閉めた。不覚にもときめいてしまったじゃないか!不意打ちはやめてほしい!
(しかし疲れたわ…)
着替える気にもならずソファにドスッと座り込んだ。しばらく何も考えずぼーっと窓から見えるひときわ明るい星を眺めていた。この世界で星に名前はないが、前世での星の名はシリウス。おおいぬ座の一等星だ。
「綺麗だなぁ…」
このままぼーっとしときたい気持ちといい加減着替えなくてはという気持ちで葛藤していた時コンコンと扉をノックされた。こんな時間に誰だろうかと扉を開けるとメイドが立っていた。
「何かしら?」
「お休み前に失礼いたします。お湯とお酒をお持ちしました」
「ああ…どうもありがとう」
メイドがワゴンを押して入ってくる。テーブルの上にお湯の入ったポットと淡いピンク色のお酒が入ったガラスピッチャーが置かれた。ピッチャーの底には濃いピンクや赤のタピオカのような粒が沈んでいる。
「これは何のお酒なの?」
「こちらはこの地方特産のフルーツで作られた果実酒です。中には小粒のゼリーが入っていて女性にとても人気なんですよ」
「確かにとても可愛いわ」
「お飲みになりますか?」
興味を示すとメイドがピッチャーからグラスに注いでくれた。とてもキレイで女性なら絶対興味を引かれる飲み物だろう。ストロー…で飲むのであればいよいよタピオカドリンクっぽいが残念ながらマドラーしかないらしい。
「あ、おいしい」
口に含むと甘酸っぱくて飲みやすい。ベリー系の果実だろうか。酸味と甘さのバランスが絶妙でついつい飲み続けてしまうほどだ。
「ではごゆっくりお休みください。失礼いたします」
そう言ってメイドが下がっていった後も結局だらだらソファに座り込みその美味しさを堪能していた。
(……ん?)
残りあと少しになったところで底に沈んでいたゼリーがまとめて口に入った。もごもご噛みしめると味はとっても良いのだが…
(これ実はめちゃくちゃ強いお酒で作ったゼリーじゃない!?)
ゼリーを大量に飲み込んでしまい喉と胃の辺りがカッと熱くなる。ヤバいと思った時には殆ど飲み干してしまった。こんな強いお酒この世界に来てからは初めて飲んだので全く耐性がない。ドレスのままふらふらとベッドに向かい横になると疲れと相まって一気に酔いが回った気がする。
(眠い…寝る…)
そうして目を閉じてどれくらい眠っていたのかはわからないがふと体を揺らされた。
「クリスティナ様、大丈夫ですか?」
「…?」
「殿下がクリスティナ様に至急来るようにとお呼びなのですが」
「ぇ…」
至急、と言われると何か起こったのじゃないかと定まらない体に鞭を入れてベッドから起き上がった。
「大丈夫ですか?」
「ええ…大丈夫」
めまいが酷く、ふらふらするがメイドに支えられ何とか歩くことができる。誘導されるがままに歩いていると、ふと違和感を覚えた。
「え、どこ、ここ…」
「クリスティナ様こちらです」
「……?」
なんだかとても暗いところを歩いている。メイドの声は聞こえるがずっと先から聞こえている感じだ。
「殿下は庭園でお待ちです」
「ああ…なるほど…」
だから外歩いてるんだ、と回らない頭で考える。
(あれ、でも…)
真っ直ぐ歩けていない、そう思ったとき視界が大きくグラッと揺れた。
「! きゃ、」
ここから先は声にならなかった――
**
そろそろ眠ろうかと思っていた矢先、ラハティ公爵がワインを持って部屋に現れた。遠くとも親族であるし今回は陛下の名代で訪れているわけだから無下にはできず了承した。
「しかし時が経つのは早いもんですな。あの天使のようなかわいらしい赤子が今や立派な青年だ」
パーティーがよほど楽しかったのかラハティ公爵は上機嫌で手ずからワインをグラスに注いでくれた。この調子だと今夜は祖父や大叔母の思い出話が続きそうだ、と内心苦笑しながらグラスを口に近づける。
(ん…?これは、)
…おかしい。
テーブルに置いてあるワインボトルの銘柄とはわずかに違う香りがする。それに公爵が俺のグラスをやたら気にしていることに気がついた。公爵は普通に飲んでいるし仕込まれたのは俺のグラスだけだ。
(ずいぶんなめた真似をする)
ふ、と笑い口を付けずにそのままグラスを置いた。
「…お嫌いな香りですかな?別のものを持ってこさせましょう」
「いえ、窓の外の星が気になりまして」
「星?」
何かないかと視線を走らせると公爵の背後にある窓から大きく煌いている星が見えた。ちょうど良いからこれを使うことにする。
「あれは何ていう星だったか…名は忘れましたが星には等級があるらしくあのようにひときわ輝く星を一等星というらしいのです」
「ほう…」
興味を持った公爵が後ろを向いて星を見た。その瞬間を見逃さずワイングラスを入れ替える。
「一等星…確かに明るい星ですな」
「ええ」
公爵がこちらに向き直ったのを見計らってワインをグイっと飲みこむ。
「ああ…これは良い味ですね」
「…ええ。そうでしょう」
俺が飲んだのを見て安心したのか公爵はグラスを手にしてワインを飲んだ。それが入れ替えられたものとは気がつかぬまま――
「やっぱりな」
ラハティ公爵は椅子にもたれたまま眠ってしまっている。それに顔も赤く息づかいも荒い。もしかして、と本っ当に、心っ底やりたくなかったがラハティ公爵のステッキで体のとある場所をつつく。
「んんっ…あぁ~」
「……キモ」
おもしろいほど公爵がびくびくっと大きく反応する。確認のためとは言え、ものすごく自己嫌悪に陥った。これは間違いなく、
(…媚薬)
ラハティ公爵のステッキを投げ捨て部屋を出る前に外套だけ掴むとトピアスを始めとする従者たちの待機部屋に向かった。ノックをするとすぐにトピアスが顔を出す。
「あれ、殿下。どうされました?」
「ワイングラスに睡眠薬と媚薬を仕込まれたから証拠を押さえろ。それと王城に使いを」
「え、飲んだのですか!?」
いや、と経緯を話しながら部屋に戻る。
「媚薬ということはアリサ嬢に襲われるところでしたね~」
「ラハティ公爵は普段はまともなんだが孫が絡むと本当にアホになる…さて、どういう沙汰を下すか…」
たとえ毒ではないにしても王太子に薬を盛るという行為は大きな罪になる。それをわかっているはずなのに孫の願いを叶えようと躍起になる。今までの功績を無駄にする愚かな行為だ。
「……クリスティナ様は大丈夫でしょうか?」
「!!」
トピアスの言葉にハッとする。しまった、失念していた。
「あ、殿下!」
「そっちは任せた!」
そう言って走り出す。パーティーでアリサはティナに明らかな敵意を向けていた。何か仕掛けられてもおかしくない。
(何もなければいいが…)
俺は祈るような気持ちでティナの部屋に向かった。
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