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三章
諦めたかった 2
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◆◆◆
「ん……っ」
ぴくりと身動ぎをして、ミハルドはそろりと瞼を押し上げた。
部屋の中は真っ暗で、カーテンを挟んだ窓の向こう側はまだ夜だということを伺わせる。
普段はこの時間には起きないが、今が何時なのかベッドの側に置いている時計を確認する暇はない。
「ぃ、た……っ」
ごろりと寝返りを打ち、小さく声を漏らす。
寝る前は何も無かったというのに、今になって身体の内側からずきずきとした痛みが走るのだ。
気の所為だと思い込んでぎゅうと硬く目を閉じるが、痛みは更に増していった。
それでも何とか抗おうと幾度も身体の向きを変え、背中を丸めたり伸ばしたりしてどれほど経っただろうか。
時計の秒針の音がいやに大きく響き、同時に額に汗が伝う。
(なん、で……なにもしてない、のに)
ミハルドはきゅうと唇を噛み締め、そこに手を伸ばした。
夜着の上から触れたそこが──性器が、今まで感じた事がないほど痛くてたまらないのだ。
こうなった原因が何なのか少しも見当がつかず、また自身で解決出来るほどの知識はない。
下手なことをしてはもっと酷くなる気がして、ミハルドはぎりりと奥歯を噛み締める。
それから数分ほど──実際には数十秒かもしれない──、隣りで健やかに眠っているレオンハルトを起こさないよう、気を付けながら懸命に耐えた。
「っ、ふ……ぅっ」
しかし痛みはどんどん酷くなり、同時に中心から何かが溢れていく気配がする。
(そんな、おれ……っ)
さぁっと血の気が引いていく。
漏らしてしまったのか、少し下着が濡れている感覚があるのだ。
それでもこの目で確認するのは嫌で、意識せずとも視界がぼやけていくのが分かる。
「う、っ……うぅ」
いつしか身体だけでなく心までもが悲鳴を上げ、ミハルドは堪らずベッドから降りて呼び鈴を鳴らそうとした。
けれど、物音を立ててはせっかく眠っているレオンハルトを起こしてしまう。
ただでさえ今日はベッドに入るのが遅くて、日付けが変わろうかという時にやっと眠ったところなのだ。
レオンハルトが眠るまで、絵本を読んだり子守唄を歌ったりしてずっと起きていたため、正直なところあまり寝ていない。
しかし自分のことよりも、レオンハルトがまた目が覚めるような事があっては申し訳なかった。
それにただ漏らしただけならばいいが、もしも何かの病気であれば烈火のごとく泣かれるのは必至だ。
(どうしよう、どうしたら……)
こうなると自分で使用人を探すしかないが、自身の言っていることを真摯に聞いてくれる人間が居るとはとても思えない。
王宮に住むようになって五年になろうとしているが、未だにミハルドに対して良く思っていない者が多いようだった。
孤児とでも思われているのか、普段から男女問わずほとんどの人間がミハルドを避けるのだ。
加えてこの奇異な瞳と髪色は王宮内でも珍しいらしく、目が合えばまるで化物を見たような表情をされる。
瞳は意識していればどうとでもなるが、髪に至っては生家で持てる手を尽くし切ってしまった。
父があの手この手で様々な人間を呼び寄せ、力技で髪を染められた事もあったが、一日と経たず色が落ちてしまう。
しかし母を除くとライアンは何度となく『綺麗だ』と言ってくれ、それはミシェルも同様だった。
そんな中でも、同年代の人間が周囲に一人でも居れば多少は楽だったのかもしれないが、一番年が近くても十五歳。
それ以上の人間からは基本的に冷たく当たられ、ミハルドも意図的に声を掛けないようにしてきた。
だから誰であっても適当にあしらわれ、もしくは『朝になれば治る』と言われる未来が見えるのだ。
(いや、朝までなんて無理だ……!)
こうしている間にも、中心からは一定の感覚で何かが漏れ出しているのだ。
ミハルドは痛みと羞恥で震えそうになる身体を叱咤して、レオンハルトを起こさないようベッドから起き上がると寝室の扉を開けた。
等間隔に灯されたランプに加え、窓から射し込む月明かりで昼間かと思うほど廊下が明るい。
普段ならばこの距離をなんとも思わないが、今はそこまでの道筋が長く辛いものに感じられた。
けれど懸命に脚を動かし、やがてどの部屋よりも豪奢な造りをした扉の前に立つ。
ゆっくりと深呼吸してから何度か扉を叩くと、ミハルドはもつれそうになる唇をそっと動かした。
「ミハ、ルド……です。あの、ライアンさまは……へいかは、いますか」
か細い声でなんとかそれだけを絞り出し、応答を待つ。
ややあってかすかな衣擦れの音と、短いながらもはっきりとした返答があった。
「──入りなさい」
優しい低音に導かれ、ミハルドは『失礼します』と断ってからそっと扉を開ける。
「どうした、ミハルド。怖い夢でも見たのか?」
そこにはベッドに起き上がり、こちらを見つめる青年が居た。
本来は王太子夫妻の寝室だが、ミシェルはいつ産気づいてもいいようにと数日前から医師や産婆の常駐する別室で休んでいるため、ライアンだけが広いベッドを使っている。
それが珍しくて、一人でベッドを使うことがほんの少しだけ羨ましいと普段ならば思うだろう。
「っ……」
にこりと淡く浮かべられた青年の微笑みに、自然と身体の強張りが緩んでいく。
痛みや羞恥といった色々な感情が合わさって、涙でじわりと視界がぼやける。
ライアンの顔すら満足に見えないが、どんな時であっても優しいその人が神のように思えた。
「そんなところにいては寒いだろう。おいで」
ぽんぽんとベッドの傍へ──ライアンの隣りに座るよう促され、ミハルドは無意識に瞳を開く。
その拍子に目尻の端に溜まっていた涙が一筋、頬に流れた。
まっすぐに交わった視線は普段となんら変わらず、むしろ安心するほどだ。
「っ、はい……」
ライアンの低く穏やかな声に誘われるまま、ミハルドはおずおずと脚を動かした。
布地が擦れる度に痛みともつかないかすかな疼きが走り、満足に歩けない。
「ふ、っ……う……」
足を踏み出す度に小さく漏れる声を抑えきれず、加えてあまりにゆっくりだったためか、ライアンがベッドから降りて待ってくれているのが申し訳ない。
しかし懸命に耐えてライアンの傍へ立つと、やがてこちらに向けて手を伸ばしてくる気配がする。
「……いつからこうなったんだ」
「っ」
まだ何も言っていないのに、ライアンはミハルドの身体がどうしてこうなったのか知っているようだ。
努めて優しく尋ねられ、泣きそうになる。
同時にこんなこと言うのは恥ずかしくて、もし病気と言われると思うと、恐怖の方が強い。
そんなミハルドの心情を悟ったのか、ライアンが安心させるように背中を擦ってくれる。
温かくて大きな手の平が、段々とミハルドの心に巣食う不安や恐怖を取り除く。
「わか、ら……ない。起きたら、痛くて。ずっと、ここ……気持ち悪くて」
きゅうとライアンの夜着の袖を摑み、ミハルドはぽつりぽつりと呟く。
身体の中でも『そこ』を言葉にするには羞恥心の方が勝り、同時に痛みが強くなっていく心地がした。
「おれ、病気……なのかな。そしたら、レオンハルトは……」
一人で遺してしまうのは嫌だ。
そう続けようとした言葉は、ライアンの手が頭に乗せられた事で途切れた。
「病気じゃない」
涙混じりなミハルドの言葉に、半ば被せるようにライアンが言う。
「っ、じゃあ」
(これはなんなんだ)
ミハルドは俯きがちだった顔を上げ、ライアンを見つめた。
間近で深い青の瞳と視線が交わり、一瞬だけ息を呑んだ。
こんな状況でなければ、今すぐにでも飛び退いて平身低頭謝るだろう。
仮にもライアンは次期国王で、住み込みで働く使用人とも王族の血縁者ともつかない曖昧な立場の自分とでは、住む世界がまるきり違う。
父は貴族だったように思うが、五歳よりも前の記憶は曖昧なため本当のところは定かではない。
ただ、こうして王族──それも王太子と自分は交わる運命ではなかったのに、親しげに話すだけでなく触れている事は奇跡に近いのだ。
まっすぐに見つめてくる瞳から逃れるように、ミハルドは無意識に膝を擦り合わせて気を逸らそうとする。
「あ、っ……」
けれど小さく声が漏れてしまい、同時にじっとりと中心部が熱を持っており、先程よりも濡れている感覚があった。
身動ぎする度に布地が擦れ、痛みともつかない未知の感覚が何か分からなくて気持ちが悪い。
病気ではないと言ってくれたが、このまま治らなければどうなるのか、ライアンの口から聞くのが怖くて堪らなかった。
「……苦しかったな。ありがとう、俺のところに来てくれて」
けれど予想していた言葉とは裏腹に、青年の放ったそれは穏やかで優しかった。
意味も分からずぱちくりと目を瞬かせていると、ふっとライアンが笑う。
「今楽にしてやるから」
「っ、え……?」
今度こそ言葉の意味が分からなくて戸惑い、そうしているうちに身体が浮いて抱き上げられる。
即座に傍にあるベッドへ腰を下ろすと、二人分の重みでぎしりと軋んだ。
「ら、ライアン様……!?」
何をするのかという恐怖と、自分以外の温もりを薄い衣服越しに感じる恥ずかしさとで、ミハルドは悲鳴じみた声を上げる。
「大丈夫、怖いことは何もない。──お前はこのまま、ここに集中していればいいから」
そこでライアンは言葉を切ると同時に、柔らかく笑みを浮かべる。
「な、にを……!?」
静止の声を上げようとするも、背後に自分以外の体温をずっと強く感じ、そこでやっとライアンの膝の上に乗せられている事に気付いた。
夜着越しに触れた温もりはいやに熱く、何をされるのか分からない恐怖も相俟って心臓が大きく跳ねる。
その微細な変化を感じ取ったのか、ライアンが先程よりも努めて優しい声で耳元へ囁く。
「怖ければ目を閉じてなさい。……そうしたら、すぐに終わる」
「ん……っ」
ぴくりと身動ぎをして、ミハルドはそろりと瞼を押し上げた。
部屋の中は真っ暗で、カーテンを挟んだ窓の向こう側はまだ夜だということを伺わせる。
普段はこの時間には起きないが、今が何時なのかベッドの側に置いている時計を確認する暇はない。
「ぃ、た……っ」
ごろりと寝返りを打ち、小さく声を漏らす。
寝る前は何も無かったというのに、今になって身体の内側からずきずきとした痛みが走るのだ。
気の所為だと思い込んでぎゅうと硬く目を閉じるが、痛みは更に増していった。
それでも何とか抗おうと幾度も身体の向きを変え、背中を丸めたり伸ばしたりしてどれほど経っただろうか。
時計の秒針の音がいやに大きく響き、同時に額に汗が伝う。
(なん、で……なにもしてない、のに)
ミハルドはきゅうと唇を噛み締め、そこに手を伸ばした。
夜着の上から触れたそこが──性器が、今まで感じた事がないほど痛くてたまらないのだ。
こうなった原因が何なのか少しも見当がつかず、また自身で解決出来るほどの知識はない。
下手なことをしてはもっと酷くなる気がして、ミハルドはぎりりと奥歯を噛み締める。
それから数分ほど──実際には数十秒かもしれない──、隣りで健やかに眠っているレオンハルトを起こさないよう、気を付けながら懸命に耐えた。
「っ、ふ……ぅっ」
しかし痛みはどんどん酷くなり、同時に中心から何かが溢れていく気配がする。
(そんな、おれ……っ)
さぁっと血の気が引いていく。
漏らしてしまったのか、少し下着が濡れている感覚があるのだ。
それでもこの目で確認するのは嫌で、意識せずとも視界がぼやけていくのが分かる。
「う、っ……うぅ」
いつしか身体だけでなく心までもが悲鳴を上げ、ミハルドは堪らずベッドから降りて呼び鈴を鳴らそうとした。
けれど、物音を立ててはせっかく眠っているレオンハルトを起こしてしまう。
ただでさえ今日はベッドに入るのが遅くて、日付けが変わろうかという時にやっと眠ったところなのだ。
レオンハルトが眠るまで、絵本を読んだり子守唄を歌ったりしてずっと起きていたため、正直なところあまり寝ていない。
しかし自分のことよりも、レオンハルトがまた目が覚めるような事があっては申し訳なかった。
それにただ漏らしただけならばいいが、もしも何かの病気であれば烈火のごとく泣かれるのは必至だ。
(どうしよう、どうしたら……)
こうなると自分で使用人を探すしかないが、自身の言っていることを真摯に聞いてくれる人間が居るとはとても思えない。
王宮に住むようになって五年になろうとしているが、未だにミハルドに対して良く思っていない者が多いようだった。
孤児とでも思われているのか、普段から男女問わずほとんどの人間がミハルドを避けるのだ。
加えてこの奇異な瞳と髪色は王宮内でも珍しいらしく、目が合えばまるで化物を見たような表情をされる。
瞳は意識していればどうとでもなるが、髪に至っては生家で持てる手を尽くし切ってしまった。
父があの手この手で様々な人間を呼び寄せ、力技で髪を染められた事もあったが、一日と経たず色が落ちてしまう。
しかし母を除くとライアンは何度となく『綺麗だ』と言ってくれ、それはミシェルも同様だった。
そんな中でも、同年代の人間が周囲に一人でも居れば多少は楽だったのかもしれないが、一番年が近くても十五歳。
それ以上の人間からは基本的に冷たく当たられ、ミハルドも意図的に声を掛けないようにしてきた。
だから誰であっても適当にあしらわれ、もしくは『朝になれば治る』と言われる未来が見えるのだ。
(いや、朝までなんて無理だ……!)
こうしている間にも、中心からは一定の感覚で何かが漏れ出しているのだ。
ミハルドは痛みと羞恥で震えそうになる身体を叱咤して、レオンハルトを起こさないようベッドから起き上がると寝室の扉を開けた。
等間隔に灯されたランプに加え、窓から射し込む月明かりで昼間かと思うほど廊下が明るい。
普段ならばこの距離をなんとも思わないが、今はそこまでの道筋が長く辛いものに感じられた。
けれど懸命に脚を動かし、やがてどの部屋よりも豪奢な造りをした扉の前に立つ。
ゆっくりと深呼吸してから何度か扉を叩くと、ミハルドはもつれそうになる唇をそっと動かした。
「ミハ、ルド……です。あの、ライアンさまは……へいかは、いますか」
か細い声でなんとかそれだけを絞り出し、応答を待つ。
ややあってかすかな衣擦れの音と、短いながらもはっきりとした返答があった。
「──入りなさい」
優しい低音に導かれ、ミハルドは『失礼します』と断ってからそっと扉を開ける。
「どうした、ミハルド。怖い夢でも見たのか?」
そこにはベッドに起き上がり、こちらを見つめる青年が居た。
本来は王太子夫妻の寝室だが、ミシェルはいつ産気づいてもいいようにと数日前から医師や産婆の常駐する別室で休んでいるため、ライアンだけが広いベッドを使っている。
それが珍しくて、一人でベッドを使うことがほんの少しだけ羨ましいと普段ならば思うだろう。
「っ……」
にこりと淡く浮かべられた青年の微笑みに、自然と身体の強張りが緩んでいく。
痛みや羞恥といった色々な感情が合わさって、涙でじわりと視界がぼやける。
ライアンの顔すら満足に見えないが、どんな時であっても優しいその人が神のように思えた。
「そんなところにいては寒いだろう。おいで」
ぽんぽんとベッドの傍へ──ライアンの隣りに座るよう促され、ミハルドは無意識に瞳を開く。
その拍子に目尻の端に溜まっていた涙が一筋、頬に流れた。
まっすぐに交わった視線は普段となんら変わらず、むしろ安心するほどだ。
「っ、はい……」
ライアンの低く穏やかな声に誘われるまま、ミハルドはおずおずと脚を動かした。
布地が擦れる度に痛みともつかないかすかな疼きが走り、満足に歩けない。
「ふ、っ……う……」
足を踏み出す度に小さく漏れる声を抑えきれず、加えてあまりにゆっくりだったためか、ライアンがベッドから降りて待ってくれているのが申し訳ない。
しかし懸命に耐えてライアンの傍へ立つと、やがてこちらに向けて手を伸ばしてくる気配がする。
「……いつからこうなったんだ」
「っ」
まだ何も言っていないのに、ライアンはミハルドの身体がどうしてこうなったのか知っているようだ。
努めて優しく尋ねられ、泣きそうになる。
同時にこんなこと言うのは恥ずかしくて、もし病気と言われると思うと、恐怖の方が強い。
そんなミハルドの心情を悟ったのか、ライアンが安心させるように背中を擦ってくれる。
温かくて大きな手の平が、段々とミハルドの心に巣食う不安や恐怖を取り除く。
「わか、ら……ない。起きたら、痛くて。ずっと、ここ……気持ち悪くて」
きゅうとライアンの夜着の袖を摑み、ミハルドはぽつりぽつりと呟く。
身体の中でも『そこ』を言葉にするには羞恥心の方が勝り、同時に痛みが強くなっていく心地がした。
「おれ、病気……なのかな。そしたら、レオンハルトは……」
一人で遺してしまうのは嫌だ。
そう続けようとした言葉は、ライアンの手が頭に乗せられた事で途切れた。
「病気じゃない」
涙混じりなミハルドの言葉に、半ば被せるようにライアンが言う。
「っ、じゃあ」
(これはなんなんだ)
ミハルドは俯きがちだった顔を上げ、ライアンを見つめた。
間近で深い青の瞳と視線が交わり、一瞬だけ息を呑んだ。
こんな状況でなければ、今すぐにでも飛び退いて平身低頭謝るだろう。
仮にもライアンは次期国王で、住み込みで働く使用人とも王族の血縁者ともつかない曖昧な立場の自分とでは、住む世界がまるきり違う。
父は貴族だったように思うが、五歳よりも前の記憶は曖昧なため本当のところは定かではない。
ただ、こうして王族──それも王太子と自分は交わる運命ではなかったのに、親しげに話すだけでなく触れている事は奇跡に近いのだ。
まっすぐに見つめてくる瞳から逃れるように、ミハルドは無意識に膝を擦り合わせて気を逸らそうとする。
「あ、っ……」
けれど小さく声が漏れてしまい、同時にじっとりと中心部が熱を持っており、先程よりも濡れている感覚があった。
身動ぎする度に布地が擦れ、痛みともつかない未知の感覚が何か分からなくて気持ちが悪い。
病気ではないと言ってくれたが、このまま治らなければどうなるのか、ライアンの口から聞くのが怖くて堪らなかった。
「……苦しかったな。ありがとう、俺のところに来てくれて」
けれど予想していた言葉とは裏腹に、青年の放ったそれは穏やかで優しかった。
意味も分からずぱちくりと目を瞬かせていると、ふっとライアンが笑う。
「今楽にしてやるから」
「っ、え……?」
今度こそ言葉の意味が分からなくて戸惑い、そうしているうちに身体が浮いて抱き上げられる。
即座に傍にあるベッドへ腰を下ろすと、二人分の重みでぎしりと軋んだ。
「ら、ライアン様……!?」
何をするのかという恐怖と、自分以外の温もりを薄い衣服越しに感じる恥ずかしさとで、ミハルドは悲鳴じみた声を上げる。
「大丈夫、怖いことは何もない。──お前はこのまま、ここに集中していればいいから」
そこでライアンは言葉を切ると同時に、柔らかく笑みを浮かべる。
「な、にを……!?」
静止の声を上げようとするも、背後に自分以外の体温をずっと強く感じ、そこでやっとライアンの膝の上に乗せられている事に気付いた。
夜着越しに触れた温もりはいやに熱く、何をされるのか分からない恐怖も相俟って心臓が大きく跳ねる。
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「怖ければ目を閉じてなさい。……そうしたら、すぐに終わる」
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