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3. そうして私のこれからは
16枚目 見た目と中身にご注意を
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「そう、今朝会った子なの。ねぇ、名前言える?」
そっと麗の背に手を添えて問う。
そもそも前世からの夫なのだが、一華に言っても余計に混乱させるだけだ。
「うん! ──八坂麗です。よろしく、えっと……」
ふわりと一華に向かって麗が微笑む。
そんな麗に対峙した幼馴染みはというと、口元に手を添えてふるふると小刻みに震えていた。
きっと今の一華の脳内は『可愛い』で溢れかえっている。
可愛いものに目がないのだ。それが人であれ物であれ、爆発すると──。
「え待って、君可愛すぎない? あ、私は野々宮一華っていうんだけど。気軽に一華お姉ちゃんって呼んでね?? でも──どうしてこんなに可愛いの? 神様の暴力? それとも私の日頃の行い? いやでもここはいっそ両方よね、うんうん。きっとそうよ!」
ワンピースが汚れるのも構わず、ガッと麗の小さな手を掴み、ブンブンと上下に振る。葵の目からしても見えないのだ、きっと麗は痛いに違いない。
──要は、一華は小さな可愛いものに目がない。特に人に。
所謂ショタコンというやつである。
その見た目と相まって、饒舌の上を行く饒舌になる。それに加えて早口なのだから、初対面の相手には引かれる事が多いのだが。
一華に想いを寄せている男子が見てしまったら、それだけで百年の恋も冷めてしまうだろう。
本人に恋愛する気はこれといって無いようなので(そもそも気付いてすらいない)、それはそれでいいのだろうが。
(……オタクってやつ、かしらね)
漠然とした予想でしかないが、きっとそうなのだろう。何故かそんな予感がした。
それに、幼馴染みの奇行にもいい加減慣れていた。
こうなってしまうと一華は止まらない。しばらく好きにさせるしかなさそうだ。
「あの……」
遠慮がちに、というか大分引いた表情で麗が抗議した。時間にすると一分も経っていないが、もう耐えられないといった風だ。
「あ、ごめんなさい! 痛かった?」
パッと一華が手を離し、麗のか細い手首をさする。
赤くなっていないが、物理的に痛いのは変わらないのだろう。
「や、大丈夫だけど……」
「良かった~! あ、ごめんね葵。もう大丈夫だから!!」
そうして今思い出したという風で、一華の後ろにいた葵を振り仰ぐ。
表情からして満足したのだろう幼馴染みに、やっとかという念を覚える。
「本当……やっとよね」
一華が落ち着くまで葵は遠くを眺めていた。それまで黄昏ていただけのだが、思っていたことが口に出るのも仕方ない。
「ごめんって! で、二人で何をしてたの?」
「学校が終わったら集まろう、って約束してたのよ。ねぇ」
そうして麗に目線を合わせる。顔を覗き込むと、ほんのりとだが赤くなっていた。
そんな麗に葵の表情は固まる。ぴしり、と。
(あー、そう。和さまは私よりも一華がお気に召したようね、はいはい知ってる知ってる)
表情で何を言いたいのか悟った麗が、慌てて小声で抗議した。
「いや違うからな!? 俺はお前だけで」
「……もしかして、麗くんを私に紹介するため?」
コソコソと二人で話しているのを見ていた一華が、この場所に来た意味を口にする。
「それもあるけど、やっぱり帰るのがね……」
ポソリと葵が呟く。
千秋と気まずいのは勿論だが、朝から結構な時間が経っている。
元来、千秋は何事にもポジティブで明るい性格だ。もう気にしていないかもしれない。
これは「千秋と二人きりで居たくない」という葵の我儘だった。
「大丈夫でしょ? 千秋くん優しいんだから」
一華は笑ってみせるが、どうしても気がかりにしかならない。
「葵ちゃん、帰りたくないの?」
くい、と制服の裾を掴んだ麗が遠慮がちに言った。
コテリと首を傾げて葵を見上げるさまは、この空気には似合わない。けれど、その表情が「大丈夫か?」と言っているようで。
「帰るよ。麗くんのお家ってこの近くなのよね? 送っていくからそろそろ行こうか」
麗に向けて手を差し出す。
「ん」
心配を掛けさせまいとした、葵の意思を汲んでくれたのだろう。何も言わず首肯し、差し出した手をやわらかく掴んだ。
ほわほわと温かい小さな手は、これから色々なことを知っていく。
そんな未来のある麗に寂しくもあり、悲しくもある。
(やっぱり母性本能が出てるみたいね……)
こういう事を思うくらいには、麗に対しての感情がごちゃごちゃしているのを自覚した。
そして。麗と葵が仲良く手を繋いでいるのを羨ましそうに見ている一華を、忘れてはならない。
そっと麗の背に手を添えて問う。
そもそも前世からの夫なのだが、一華に言っても余計に混乱させるだけだ。
「うん! ──八坂麗です。よろしく、えっと……」
ふわりと一華に向かって麗が微笑む。
そんな麗に対峙した幼馴染みはというと、口元に手を添えてふるふると小刻みに震えていた。
きっと今の一華の脳内は『可愛い』で溢れかえっている。
可愛いものに目がないのだ。それが人であれ物であれ、爆発すると──。
「え待って、君可愛すぎない? あ、私は野々宮一華っていうんだけど。気軽に一華お姉ちゃんって呼んでね?? でも──どうしてこんなに可愛いの? 神様の暴力? それとも私の日頃の行い? いやでもここはいっそ両方よね、うんうん。きっとそうよ!」
ワンピースが汚れるのも構わず、ガッと麗の小さな手を掴み、ブンブンと上下に振る。葵の目からしても見えないのだ、きっと麗は痛いに違いない。
──要は、一華は小さな可愛いものに目がない。特に人に。
所謂ショタコンというやつである。
その見た目と相まって、饒舌の上を行く饒舌になる。それに加えて早口なのだから、初対面の相手には引かれる事が多いのだが。
一華に想いを寄せている男子が見てしまったら、それだけで百年の恋も冷めてしまうだろう。
本人に恋愛する気はこれといって無いようなので(そもそも気付いてすらいない)、それはそれでいいのだろうが。
(……オタクってやつ、かしらね)
漠然とした予想でしかないが、きっとそうなのだろう。何故かそんな予感がした。
それに、幼馴染みの奇行にもいい加減慣れていた。
こうなってしまうと一華は止まらない。しばらく好きにさせるしかなさそうだ。
「あの……」
遠慮がちに、というか大分引いた表情で麗が抗議した。時間にすると一分も経っていないが、もう耐えられないといった風だ。
「あ、ごめんなさい! 痛かった?」
パッと一華が手を離し、麗のか細い手首をさする。
赤くなっていないが、物理的に痛いのは変わらないのだろう。
「や、大丈夫だけど……」
「良かった~! あ、ごめんね葵。もう大丈夫だから!!」
そうして今思い出したという風で、一華の後ろにいた葵を振り仰ぐ。
表情からして満足したのだろう幼馴染みに、やっとかという念を覚える。
「本当……やっとよね」
一華が落ち着くまで葵は遠くを眺めていた。それまで黄昏ていただけのだが、思っていたことが口に出るのも仕方ない。
「ごめんって! で、二人で何をしてたの?」
「学校が終わったら集まろう、って約束してたのよ。ねぇ」
そうして麗に目線を合わせる。顔を覗き込むと、ほんのりとだが赤くなっていた。
そんな麗に葵の表情は固まる。ぴしり、と。
(あー、そう。和さまは私よりも一華がお気に召したようね、はいはい知ってる知ってる)
表情で何を言いたいのか悟った麗が、慌てて小声で抗議した。
「いや違うからな!? 俺はお前だけで」
「……もしかして、麗くんを私に紹介するため?」
コソコソと二人で話しているのを見ていた一華が、この場所に来た意味を口にする。
「それもあるけど、やっぱり帰るのがね……」
ポソリと葵が呟く。
千秋と気まずいのは勿論だが、朝から結構な時間が経っている。
元来、千秋は何事にもポジティブで明るい性格だ。もう気にしていないかもしれない。
これは「千秋と二人きりで居たくない」という葵の我儘だった。
「大丈夫でしょ? 千秋くん優しいんだから」
一華は笑ってみせるが、どうしても気がかりにしかならない。
「葵ちゃん、帰りたくないの?」
くい、と制服の裾を掴んだ麗が遠慮がちに言った。
コテリと首を傾げて葵を見上げるさまは、この空気には似合わない。けれど、その表情が「大丈夫か?」と言っているようで。
「帰るよ。麗くんのお家ってこの近くなのよね? 送っていくからそろそろ行こうか」
麗に向けて手を差し出す。
「ん」
心配を掛けさせまいとした、葵の意思を汲んでくれたのだろう。何も言わず首肯し、差し出した手をやわらかく掴んだ。
ほわほわと温かい小さな手は、これから色々なことを知っていく。
そんな未来のある麗に寂しくもあり、悲しくもある。
(やっぱり母性本能が出てるみたいね……)
こういう事を思うくらいには、麗に対しての感情がごちゃごちゃしているのを自覚した。
そして。麗と葵が仲良く手を繋いでいるのを羨ましそうに見ている一華を、忘れてはならない。
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