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3. そうして私のこれからは

19枚目 母の問い

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 「……母さんの料理、久々で泣けてくる」

 そう言って、葵は目の前にある料理をもぐもぐと咀嚼そしゃくする。

 献立のメインは鮭を使ったガーリックバターソテー、付け合わせに程よく炒めたもやしのナムルが添えてある。
 塩気を抑えたオニオンスープも、百合のお手製だ。

 温かく優しいこの味を食べるのは、いつまで経っても嬉しい。
 隣りに座っている千秋も、どこか懐かしいという表情を見せている。

 「大袈裟おおげさね。たかだか3日じゃない」

 百合はひとつ溜め息を吐いてみせるが、その嬉しそうな表情は隠せていない。
 元々料理をするのが好きな人だ。外交官である父と結婚する前は、毎日のように気が済むまで料理を作っていたらしい。

 看護師として仕事が忙しくなって、葵や千秋が産まれてからは二人を祖父母宅に預ける事も少なくなかった。

 優しい祖父母たちに可愛がられていたから、むしろ両親が居ないのが当たり前だったくらいだ。
 その事に寂しいとは思わなかった。仕方ない、とタカをくくって我慢していたのだ。

 葵が高校に進学してからは家族で暮らそう、と言われたのがつい二年前。
 やはり父が家に帰ることは少ないが、それでも家族水入らずの食卓を囲めるだけで幸せだと思えた。

 料理を作る大変さを知って、誰かと一緒に食べる幸せを知って。
 葵が知らないだけで毎日が幸せなものなのだ、と改めて実感したように思う。

 「そういえばさっき言っていた男の子、小学生よね。どこで知り合ったの?」
 「んぐ、ゲホゲホッ」

 唐突な「麗に関する事」に葵はせてしまった。

 「おい大丈夫か、ほら」

 隣りの千秋が背をさすり、葵用のカップを差し出してくる。
 有難く受け取り、早急に喉を潤す。
 何を聞くにしても答えるつもりだったが、如何いかんせん内容が悪い。悪すぎた。

 「はぁ……ありがと兄さん」
 「で、どうなの?」

 千秋に礼を言って、やっと落ち着いた時にやはり再度聞いてくる。
 どうやら本人の口から聞くまで、頑として折れないようだ。

 「えー……っと」

 キョロキョロと目を泳がせるが、じっと見つめてくる百合の瞳から逃れられるはずがない。

 (バカ正直に言うわけにもいかないし、どうすりゃいいのよ……!)

 葵の頭の中では、ぐるぐると目まぐるしいほど回転していた。
 最善策は何か。そもそもこれが最善策といえるのか。もし違ったら面倒なことになる、そんな思いが頭をもたげた時だ。

 パン、といやに子気味いい音が響いた。

 「ご馳走さん! んじゃ部屋に戻るよ──母さんもあんまり葵をいじめないでやって。疲れてるみたいだからさ」

 音がした方に目を向けると、千秋が席を立つところだった。
 はたと言われた兄の言葉に、百合と揃って目を丸くする。

 (疲れてる? 私が?)

 いいや、至って元気だ。なんなら今すぐにでも近所を一周できるほど、元気があり余っている。

 「そうね……葵も早く食べちゃいなさい」
 「へ、うん」

 先に何を言われたのか理解した百合が、葵に言う。早く食べろと言っても、あまり残っていないのだが。

 ただ、千秋の言葉でその場にはなんとも言えない空気が残った。


 今日一日だけで色々とあったが、夕食を食べて葵がのんびりとソファでだらけている頃。
 麗の家ではちょっとした一悶着ひともんちゃくが起きていた。
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