ペットになった

アンさん

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クロはヒト

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母さんは料理が出来ない。


それはもう出来栄えが壊滅的で矯正が絶望的だと言っていい程に。


目玉焼きさえ炭に変えてくれる。


そんな目玉焼きは何故か辛く、所々甘く、舌が痺れる始末だ。


だと言うのに更にアレンジを加えようとするのは、本当にもうどうにかしてくれ。


俺が料理を担当するようになり、俺自身そこそこ作れるようになった訳だが……頼むからそのよく分からない物体ダークマターを捨ててくれ。


元が何で出来ているかも分からない程面影の無い物体は、何故かプスプスと音を立て熱を吹いている。


……熱いのであろうという事以外全く分からない真っ黒なコレ……一体どう処分しろと?


焦げ臭く、目がショボショボする。


……これは……兵器か何かか?


換気扇を回しているが、一向に匂いは無くならない。


そんな折、冷たい風が吹き窓の方へと視線を向けるとクロが窓を開けていた。


寒いらしく毛布に包まりホットドールを抱きしめている……のをライージュは無言で写真を撮っている。


「起こしたか?」


そう声をかけ抱き上げると、クロは眠そうに欠伸をして船を漕ぐ。


背中を何度か軽く叩いてやると、一瞬で寝落ちた。


……匂いで起きたのか?


それとも騒がしくし過ぎたか?


普段から無音に近い空間で暮らしているからか、クロは音に敏感に反応する。


「ねぇ、これにミルクを足したら美味しくなるかしら?」


そう言いながら母さんが持っているのは……キムチ。


「……何を作ろうとしているのか先に聞いてもいいか?」


「あら、キムチって辛いじゃない?辛くないようにミルクを混ぜて…ああ!チーズも入れましょう。後は…そうね、やっぱり砂糖と卵を入れたら美味しくなりそう。マヨネーズもいいわね!すぐ作るわ」


そう言って手に持ったのは山葵と辛子マヨネーズ。


クロ用のミルクとサメの卵、何故か蜂蜜と苺のジャム、チョコまで取り出した。


今さっき言っていた食材程度なら目を瞑れるがこれはいただけない。


「作らなくていい。母さんは元からキムチを食べないのだから、変な物を創り出さないでくれ」


「変な物って何よー、失礼じゃない」


「俺が昼飯を作るから。食べたい物を言ってくれ」


「あら、本当?そうねぇ…生姜焼きがいいわ。沢山生姜を入れてちょうだい」


「分かった。ライージュ、お前は何を食いたい?」


「片手で食える物」


「母さんのコレダークマター、冷めたら「具沢山のスープがいい。あとおにぎり」そうか」


ぷぅぷぅ寝息をたてるクロをソファに寝かせ、毛布をかけ直す。


暫く窓は開けておこう。


この匂いは流石にキツい。






「んぷぅ……ぷー、んるぅ」


「あらあら、子供のように寝るのねぇ」


「まだ子供だからな」


「手をにぎにぎして…夢の中でお乳を吸ってるのかしら?」


「母さんあまりこちらに来ないでくれ。クロちゃんが画角に収まらなくなるし母さんが映る」


「ライージュ、そんなに撮ってどうするの?」


「永久保存する。あと、ルーシの上げてる投稿欄にも投稿する。きっと皆喜ぶだろう。俺も他の投稿を見ていて気分がいい」


「あまり変な投稿はしないでくれよ」


「問題無い。皆が求めているのはクロちゃんであって、母さんの手料理じゃないから」


「どういう意味よ、それ」


「ぷふっ、んゆ?……くぁあ……んー」


ソファの上で伸びをしたクロは視線を母さんに向け、ライージュに向けた…と思ったらとても素早い動きで寝床に戻ってホットドールと毛布をクッションの下に移動させだした。


……窓は開いたままだから寒いだろうに…何をそこまでライージュを警戒しているのか……。


「…ああ、クロちゃん……」


ライージュは動画を回しながら耳を垂らした。


……お前はお前でそこまで落ち込むな。


ポスポスとクッションを叩いた後、クロはトイレへと走っていった。


……取られないように隠して、トイレへ、か。


ヒトらしくなって喜べばいいのか…?


もっとライージュと仲良く接せるといいのだが。


「ライージュ、トイレにまでついて行くと未来は暗いぞ」


「……今は我慢しよう」


撮っていた映像を見返すライージュとどうすればクロは仲良くしてくれるだろうか?


まぁ、今は様子見でいいか。






「んゆぅぅぅるるぅ」


クロが鳴き、


「いいぞ、クロちゃんその調子だ」


ライージュが褒め?る。


……昼寝をしている間に何があった?


「何をしているんだ?」


「ああ、起きたのかルーシ。今クロちゃんにカメラの使い方を教えていた所だ」


「……カメラ?」


クロは持っているカメラを不思議そうに見つめ、何度もボタンを押している。


「新しい遊び道具だと思っているのかもしれないけれど…あれ、安くないわよね?」


「値段など気にしなくていい。クロちゃんが楽しければそれで」


カシャカシャと何枚もシャッターをきる音が聞こえてくる。


「んゆぅ?んーるぅるる」


カリカリと画面を引っ掻き頭を傾げている。


「どうやら撮った写真が止まっているのが不思議みたいだ」


「写真を知らなければああなるのか」


ブンブンとカメラを振って画面を見て、少し画面を引っ掻いてまた振るを繰り返している。


画面が動くとボタンを押して写真を撮り、撮った写真を見て頭を傾げる。


「んゆぅ……うる?」


画面から視線を外したクロは俺を見て近寄ってきた。


「ぐゆう、ゆるるぁ」


カメラを構えてシャッターをきったクロは少しだけ満足そうに笑いカメラを机に置いた。


そのままいつもの上着を着に行ったクロに散歩の時間か、と腰をあげる。


「どこかに行くの?」


「クロの散歩だ。一緒に行くか?」


「あら、行こうかしら」


「ライージュは?」


「俺は留守番でいい」


「クロちゃんの散歩風景は撮らなくていいの?」


「……一緒に行く」


そう言いつつ散歩に行く為の準備をするクロを撮るライージュは腰をあげない。


「……ヒトは服を嫌うと思っていたのだけれど……もしかしてクロちゃんは、服が好きなの?」


「そうだな…ズボンや靴下は出かける時にしか着ないが…それでも下着とシャツは毎日着ているか。靴も自分で履くし、全く手間取らないぞ」


「……ヒト、よね?」


「ヒトだ」


「そうよね?」


そうこうしているうちに、クロは今日着けるチョーカーを選んで俺の元へ運んで来た。


「今日もこれか」


最近クロは鈴付きではなくリボン型がお気に入りのようだ。


また新しく見繕ってもいいかもしれない。


「……普通ヒトは自ら服を着ないし、チョーカーとか首輪は噛みちぎるし…選ぶとかもうそれ……クロちゃん、貴方生まれる種族間違えたんじゃない?」


「母さん、ちょっと邪魔」


「ライージュはさっさと準備しなさい。邪魔って何よ、もう」






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