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11.辺境の地と言うこと その3
しおりを挟む「リズ、面接なんだけど、ね?」
屋敷に入ると直ぐにリズがやってきた。フィナを守ることが全てのリズは、屋敷に入り込んだ見知らぬ人間を警戒している。
「リズ、どうかな?」
面接は、エディエットがどう思うかではなく、リズが許可するかしないかだ。リズはフィナ専属の侍女であり、この屋敷の執事でもあるのだ。
『そちらの方』
リズは幼い子ども二人を抱きしめている女に声をかけた。
『はい、ルミアと申します』
そう言ってから、両脇の子どもを前に出す。
『こちらがコラル、こちらがサムです』
そう言って子ども二人の名前も告げた。夫は魔獣に襲われ死んでしまったそうだ。それでセレーヌは子ども二人を連れ、魔獣の森を避けて山を超えてウルゼン国に逃げてきたそうだ。
そう、アシュタイ国が滅んだのは魔獣に襲われたから。男たちは女を守ることを当然のこととし、魔獣と戦ったが本当に何も出来ない女たちを守りきることが出来ず、死んでいったそうだ。
本来なら国民を守るべきの王族でさえ、本当に逃げも隠れもしない女たちを守りきれず、魔獣に殺されていったそうだ。ルミアのように若く他国の文化を知っていた女たちは、子どもの手を引き着の身着のままで、逃げ出したらしい。ルミアの夫が死んだのがわかったのは、愛を交わした際に交換した指輪が砕けたからだそうだ。
ルミアは夫の死を知り、恐ろしくてアシュタイ国に戻れず、子ども二人を連れてたどり着いたのがウルゼン国だった。だから、必死で言葉を覚え、宿屋で下働きをしたそうだ。
六人家族の方も似たようなもので、戦えない年寄りと共に子どもを連れて山に逃げ込んだ。違うところは夫が冒険者だったこと。ある程度戦え、そして引き際を知っていた。押し寄せる魔獣の大群がスタンピードによるものと察知し、家族の逃げた山に移動して合流したそうだ。
そして、元々アシュタイ国の独自文化に疑問を持っていたため、なんの躊躇いもなく国境を越えたそうだ。冒険者であったから、直ぐにウルゼン国の冒険者ギルドに登録をして仕事をこなしていたそうだ。だが、今回家族毎住む場所まで与えられると聞いて応募してくれたとのこと。
「もちろん俺はウルゼン国の言葉を話せます」
六人家族の主と呼べばいいのか、デオと名乗った冒険者は、なかなかに屈強な体をしていた。
「屋敷の護衛に最適かと」
リズがそう言ったので、エディエットは黙って頷いた。
「裏庭に小屋があった?」
「はい、ございます。やや手狭かとは思いますが、護衛ならばそちらでも、問題は無いでしょう。水回りや火の設備も備えております」
「うん、いいね。じゃあデオたちは裏庭にある小屋を住まいにして。アトレは庭の手入れをして欲しい」
「この年寄りに仕事を下さるので?」
突然声をかけられたからか、じいさんであるアトレは驚いていた。
「そりゃあ、働いてくれれば給金があげられるからね。何もしないよりその方が気が楽だろう?」
「ありがたきお言葉です」
アトレが目尻に涙を浮かべて頭を下げるものだから、エディエットは困ってしまった。
『アシュタイ国の料理は出来ますか?』
リズが突然口を開くと、九人はピタリと動きを止めた。
『家庭料理になりますが』
『かまいません。デザートも作ってください。ちょうど昼時です。フィナ様のお口に合うかどうか、試させていただきます』
リズに促され、女二人が厨房に移動していく。残された子どもたちが不安げな目をしていた。
「大人は全て採用でいいかな?」
「ありがとうございます」
商業ギルドの職員はニコニコと笑い、エディエットを見た。
「支払いは?」
「四人の採用となりますので、仲介手数料は銀貨二枚になります」
「とるねぇ」
「住み込みですからね」
商業ギルドの職員は、エディエットから銀貨を受け取ると、直ぐに領収書を書いて渡してきた。
「それでは、またご入用の時はお声がけ下さい。伯爵様」
深深と頭を下げて屋敷を出ていく姿を確認すると、エディエットは手招きをして残った人たちを移動させた。
「あの小屋、デオたち家族はあそこで暮らして欲しい。物置小屋がついているから、その辺は自分たちで動かしてくれ……ああ、あちらに荷物は?」
「間借りしていたので」
「そう」
裏庭に出ると、エディエットは子どもたちに声をかけた。
『食事ができるまで好きにしているといい。こちらの庭でなら好きなだけ遊んで構わない』
エディエットに言われたことを理解するまで少し時間がかかったのか、反応が少し鈍かった。
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