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1章
悲劇は皆のために
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フードを被ったローブの集団に囲まれた俺たち、対する彼らは一斉に武器を抜く。剣や魔法の杖だ、銃が無いだけましなのかもしれないが。
集団の中から出てきたのは一人の少女。俺と歳の変わらない女の子だ。緊張が漂うなか、少女はにっこり微笑み手を差し伸べてきた。
「大丈夫ですか? このダンジョンはモンスターも出ますから共に奥まで行きましょう」
「そいつの言葉に乗るな、奴らは悪党だ!」
「何をおっしゃいます、我々は世界のために動いているのです」
「では、なぜ武器を持ってるんだ!」
「ああ、これは武器でなくこうするためのものです!」
ローブの少女は手に持った杖を膝に当ててへし折った。なぜ武器を壊すのか謎だが、俺たちと戦う気はないのかもしれない。リュセラを追いかけていたのだが。
そう思った時だった、俺のそばでリュセラが膝をついた。彼は顔を伏せて唸っている。
「ぐううう!」
「何をした!」
俺と凛音はリュセラに駆け寄る。彼は何かを呟いた。
「いい杖が……」
「そこかよ!」
俺が見た所、リュセラは怪我をしているわけでもない。なんかすごい汗かいてるけど。
「具合悪いの?」
「違う。見てみろあの杖を。先端には天然の原石、世界樹の素材、止め金の貴金属だ。何て素晴らしい杖を壊してしまうんだあー!」
「落ち着け」
「リュセラは物が好きなんだね」
リュセラが顔を上げて凛音を見る。しかし、目をやや逸らしている。
「そうだ、僕はコレクターなんだ。いつもあいつらは僕の前で物を壊す!」
「何のためになるんだよ……」
「このためですよ」
ローブの少女は服のポケットから輝く宝石を取り出した。それは透き通りきれいな宝石、宝石が光を放っているのか彼女の手元は明るい。俺の方まで光が届くほどに強い光だ。
「悲劇をここに」
彼女の言葉に呼応して宝石が強く輝く。すると今度はリュセラの体が光だした。
リュセラの体から漏れでた光が少女の持つ宝石へと吸収される。宝石は最初の形よりやや大きくなった。
一方リュセラは冷や汗をかき、苦しい表情を浮かべる。
「リュセラ様の魔力をこの結晶に集めただけです、死ぬことはないでしょう。このダンジョン内部でなければですが」
「リュセラを追いかけてまで、なぜそんなことをする?」
「魔力を集めるためです。魔力は全ての人や物に宿ります。この結晶は魔力を形にしたもの。結晶を使えば火が灯り、水を出し、魔法が使える。人々の豊かな生活のために我々悲劇教団があるのです」
「こんなやり方間違っている!」
「その間違いがあれは世界を救えるとしたら?」
「なに?」
「あなたの住んでいる世界は荒んでいる、人々は争いを続け、環境を破壊し、その星の資源を消耗している。この世界ではそんなことない、悲劇教団がいるから!」
「何を知っている?」
「ここはあなたの住む世界とは別の世界であること。そしてこのダンジョンはこの異世界に繋がる道であること」
「なぜ分かる?」
「それは後々、あなた達も分かるでしょう」
ローブを脱ぎ捨てた彼女は、手に縦笛を持っている、手作りの民族楽器のようだった。服装は宗教の落ち着いた見た目の服ではなく町を歩く少女と変わらない、おしゃれな服に身を包んでいた。
ローブの集団は手のひらに火の玉を出してダンジョン内に明かりを灯す。全員が不思議な微笑を浮かべていた。その表情があまりにも統一されていて、恐ろしさを感じた。
「私たちに捕らえられて教育を受ければね」
「断る。私たちには目的がある、夢がある。そんな非道な行いに力は貸さない!」
凛音は杖を柄長に持ち振り上げた状態になる。剣道らしい仕草だ。長さは足りないが、慣れた手さばきだ。さっき振り回さないでって杖に言われた気がするが。
「悲劇の魔力は最もクリーンなエネルギーなのです」
「人を苦しめてまですることじゃない!」
「では体で分からせましょう。悲劇教団助けたかっ隊、隊長ネリーが」
ネリーの笛の音が響くと突風が荒れ狂い、俺たちに向かって吹きつける。
俺はタクティカルスカーフで飛んでくる鉄のマネキンを一つを引き寄せて盾代わりにした。凛音とリュセラとフライパンを持つ少女は俺の後ろに入り風避けをする。
対するネリーの周りでは風が渦巻き、彼女の笛による現象だと分かる。凛音の持っている杖と同じ魔法の道具なのだ。
「凛音。魔法でなんとか成らないのか?」
「この風じゃ、相手には届かないよ。今使えそうなのは火の玉だけだし」
「いたずらに魔法を打たない方がいい。人に宿る魔力は限界がある」
「それなら相手もそうだろ」
「いや、奴らは悲劇の魔力を集めて使ってる。魔石をつかえばいくらでも魔法が使える」
「じゃあ私、魔法を使うわ」
「今は危険だ、魔法についてほとんど知らないんだぞ!」
「知らないから、やってみるべきだよ。トライしなきゃ負けるだけよ」
「その必要はない。僕が行こう」
「でも、それじゃあなたが」
「二人は逃げることも考えておけ」
「逃げることも?」
リュセラは俺の背から出た。ネリーがさらに強い風を起こし、武器がたくさん飛んでくる。彼を守ろうと前に出た俺が見たのは、飛び交う武器に向かって走るリュセラだった。
当たる寸前でリュセラは武器をキャッチする。それを何度も繰り返した。かなりの速度で、俺が見えたのは地面にきっちり並べられた武器達。
飛んでくる武器を全てキャッチして並べながらの高速移動、そのままネリーのもとにたどり着いてリュセラは大きなリュックからお玉を出してネリーの手を叩いた。ネリーの手から笛が落ちる。
「痛い!」
俺はリュセラの持つお玉に見覚えがあった。量産品で整ったフォルム、現代的なプラスチックの持ち手、強打したことによる柄のしなり具合。その脆さに覚えがある。
「悠人、気がついた?」
「100均製品か!」
「そこじゃない気がする。彼は結構強い?」
「滅法強いぞ、僕は最高位のゴールドランク冒険者だからな」
戦闘が終わり勝利を収めた俺達。悲劇教団の隊長ネリーの攻撃も、リュセラによって無力化された。
しかし、気になることもある。なぜリュセラが現代の道具を持っていたのか? 悲劇教団の真の目的は何なのか? 謎が深まっていく。後、物を好きなわりに扱い雑すぎないかリュセラ。
集団の中から出てきたのは一人の少女。俺と歳の変わらない女の子だ。緊張が漂うなか、少女はにっこり微笑み手を差し伸べてきた。
「大丈夫ですか? このダンジョンはモンスターも出ますから共に奥まで行きましょう」
「そいつの言葉に乗るな、奴らは悪党だ!」
「何をおっしゃいます、我々は世界のために動いているのです」
「では、なぜ武器を持ってるんだ!」
「ああ、これは武器でなくこうするためのものです!」
ローブの少女は手に持った杖を膝に当ててへし折った。なぜ武器を壊すのか謎だが、俺たちと戦う気はないのかもしれない。リュセラを追いかけていたのだが。
そう思った時だった、俺のそばでリュセラが膝をついた。彼は顔を伏せて唸っている。
「ぐううう!」
「何をした!」
俺と凛音はリュセラに駆け寄る。彼は何かを呟いた。
「いい杖が……」
「そこかよ!」
俺が見た所、リュセラは怪我をしているわけでもない。なんかすごい汗かいてるけど。
「具合悪いの?」
「違う。見てみろあの杖を。先端には天然の原石、世界樹の素材、止め金の貴金属だ。何て素晴らしい杖を壊してしまうんだあー!」
「落ち着け」
「リュセラは物が好きなんだね」
リュセラが顔を上げて凛音を見る。しかし、目をやや逸らしている。
「そうだ、僕はコレクターなんだ。いつもあいつらは僕の前で物を壊す!」
「何のためになるんだよ……」
「このためですよ」
ローブの少女は服のポケットから輝く宝石を取り出した。それは透き通りきれいな宝石、宝石が光を放っているのか彼女の手元は明るい。俺の方まで光が届くほどに強い光だ。
「悲劇をここに」
彼女の言葉に呼応して宝石が強く輝く。すると今度はリュセラの体が光だした。
リュセラの体から漏れでた光が少女の持つ宝石へと吸収される。宝石は最初の形よりやや大きくなった。
一方リュセラは冷や汗をかき、苦しい表情を浮かべる。
「リュセラ様の魔力をこの結晶に集めただけです、死ぬことはないでしょう。このダンジョン内部でなければですが」
「リュセラを追いかけてまで、なぜそんなことをする?」
「魔力を集めるためです。魔力は全ての人や物に宿ります。この結晶は魔力を形にしたもの。結晶を使えば火が灯り、水を出し、魔法が使える。人々の豊かな生活のために我々悲劇教団があるのです」
「こんなやり方間違っている!」
「その間違いがあれは世界を救えるとしたら?」
「なに?」
「あなたの住んでいる世界は荒んでいる、人々は争いを続け、環境を破壊し、その星の資源を消耗している。この世界ではそんなことない、悲劇教団がいるから!」
「何を知っている?」
「ここはあなたの住む世界とは別の世界であること。そしてこのダンジョンはこの異世界に繋がる道であること」
「なぜ分かる?」
「それは後々、あなた達も分かるでしょう」
ローブを脱ぎ捨てた彼女は、手に縦笛を持っている、手作りの民族楽器のようだった。服装は宗教の落ち着いた見た目の服ではなく町を歩く少女と変わらない、おしゃれな服に身を包んでいた。
ローブの集団は手のひらに火の玉を出してダンジョン内に明かりを灯す。全員が不思議な微笑を浮かべていた。その表情があまりにも統一されていて、恐ろしさを感じた。
「私たちに捕らえられて教育を受ければね」
「断る。私たちには目的がある、夢がある。そんな非道な行いに力は貸さない!」
凛音は杖を柄長に持ち振り上げた状態になる。剣道らしい仕草だ。長さは足りないが、慣れた手さばきだ。さっき振り回さないでって杖に言われた気がするが。
「悲劇の魔力は最もクリーンなエネルギーなのです」
「人を苦しめてまですることじゃない!」
「では体で分からせましょう。悲劇教団助けたかっ隊、隊長ネリーが」
ネリーの笛の音が響くと突風が荒れ狂い、俺たちに向かって吹きつける。
俺はタクティカルスカーフで飛んでくる鉄のマネキンを一つを引き寄せて盾代わりにした。凛音とリュセラとフライパンを持つ少女は俺の後ろに入り風避けをする。
対するネリーの周りでは風が渦巻き、彼女の笛による現象だと分かる。凛音の持っている杖と同じ魔法の道具なのだ。
「凛音。魔法でなんとか成らないのか?」
「この風じゃ、相手には届かないよ。今使えそうなのは火の玉だけだし」
「いたずらに魔法を打たない方がいい。人に宿る魔力は限界がある」
「それなら相手もそうだろ」
「いや、奴らは悲劇の魔力を集めて使ってる。魔石をつかえばいくらでも魔法が使える」
「じゃあ私、魔法を使うわ」
「今は危険だ、魔法についてほとんど知らないんだぞ!」
「知らないから、やってみるべきだよ。トライしなきゃ負けるだけよ」
「その必要はない。僕が行こう」
「でも、それじゃあなたが」
「二人は逃げることも考えておけ」
「逃げることも?」
リュセラは俺の背から出た。ネリーがさらに強い風を起こし、武器がたくさん飛んでくる。彼を守ろうと前に出た俺が見たのは、飛び交う武器に向かって走るリュセラだった。
当たる寸前でリュセラは武器をキャッチする。それを何度も繰り返した。かなりの速度で、俺が見えたのは地面にきっちり並べられた武器達。
飛んでくる武器を全てキャッチして並べながらの高速移動、そのままネリーのもとにたどり着いてリュセラは大きなリュックからお玉を出してネリーの手を叩いた。ネリーの手から笛が落ちる。
「痛い!」
俺はリュセラの持つお玉に見覚えがあった。量産品で整ったフォルム、現代的なプラスチックの持ち手、強打したことによる柄のしなり具合。その脆さに覚えがある。
「悠人、気がついた?」
「100均製品か!」
「そこじゃない気がする。彼は結構強い?」
「滅法強いぞ、僕は最高位のゴールドランク冒険者だからな」
戦闘が終わり勝利を収めた俺達。悲劇教団の隊長ネリーの攻撃も、リュセラによって無力化された。
しかし、気になることもある。なぜリュセラが現代の道具を持っていたのか? 悲劇教団の真の目的は何なのか? 謎が深まっていく。後、物を好きなわりに扱い雑すぎないかリュセラ。
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