14 / 53
1章
草原の脅威
しおりを挟む
困難を乗り越えた俺たちは森を抜け、背の高い草が生い茂る草原に足を踏み入れた。
天井と思われる場所には大きな光る石が星のようにある。他は岩肌で、ちらほらと光る石が有るのだ。
その草原は一面の緑に満ち、自然な風によってそよそよと揺らぐ。風が吹いているから、このダンジョンは出入口以外にも抜け道が有るようだ。
凛音はワクワクしながら草原に駆け込み、植物や昆虫などの生命たちを観察している。
草原にはいくつも丘がある。丘の裏側まで見通せないから警戒が必要だろう。
トラバサミ、鍋、ゴールドボーイがアライを監視しながら、辺りを見張ってくれる。安心ではある。この先は分からないのだが。
「かなり時間が掛かったな」
「だが、もう少しで町までたどり着く。この草原を越えた先に有るからな!」
トラバサミは草原の先を見据えた。今までの道に比べて安全なのは確かだ。町を作るのも、こうした平坦な場所が合っている。
凛音のトライではないが、このダンジョンの広さには興味が掻き立てられる。
「勢いでここまで来てしまったが、そろそろ家族に連絡しときたい」
「構わないぞ、僕はさっきの魚を捌いて干物にしとく」
「電話できるか、スマホ?」
「出来るよ、私は万能だから! カメラと違って」
俺のポケットからスマホが飛び出して、浮遊した。擬人化してから、様々な事が出来るようになったので、浮いたくらいでは驚かない。動くと操作しにくいのだが。少女の姿だと絵面がね……。
「わ、私だって。この姿になってから、色々出来ます!」
「例えば?」
鞄を飛び出したのは俺のカメラ。彼女は少女の姿になると拳を突きだし、殴る動きをした。
「撮るだけてなく、戦います! スマホはこんな、頑丈ではないです」
「カメラもレンズ気をつけてくれ」
カメラの専用レンズの値段を知りたくないし。
喧嘩腰にスマホはカメラを睨む。
「何ですって!」
「喧嘩は止めてくれ。取り敢えず家族に連絡を……」
「する必要ないと思うよー」
草原の入口に居た凛音が葉っぱをむしって調べながら声を上げた。
「ダメだろ。心配するぞ!」
「私はやらない」
その発言に俺は怒りを抑える。いくらなんでも無責任だ。入ってしまったのは仕方ないが、報告しないと心配させてしまう。
「俺は連絡するからな」
スマホを操作して自宅に電話を掛けた。少し経ってから母が電話に出た。
「母さん、俺……」
当分帰れないなんて、どう伝えればいいのか。俺は泊まりで家を離れる事なんて無かったし、なにも言わずに危険なダンジョンに入ったなんて。母さんを説得できる言葉なんて出てこない。ならここは正直に。
俺が口を開く前にスマホを奪われた。スマホを奪った凛音は発言する。
「悠人さんの学校の後輩で、佐々木凛音と言います。息子さんに学校でお世話になっております!」
「ええっ! 女の子、どう言った関係で?」
「同じ委員会で、悠人さんに頼みごとをお願いしました。お時間が掛かりますので、終わり次第、夕方の帰宅になります」
「まあ、そうなのね。分かりました。お昼は要らない?」
「はい、今回はお世話になったお礼として私がご馳走します」
「ありがとうございますね。悠人をよろしく」
母が電話を切った。スマホを俺に差し出す。
「なんて事をするんだ、家族に連絡出来なかっただろ!」
「おかしいとは思わなかった? お昼は要らないって」
「お昼。そう言えばかなり時間が経ったはずなのに、夕飯でなくお昼」
「ここまでの出来事、敵に追われて逃げ、洞窟を進み、湖の湖畔を回った。これだけで半日くらい時間が経っているよ」
「確かに、しかも俺は眠った」
「時間が進んでないの、このダンジョンに入ってから」
俺はスマホの画面を見た。時間は十二時。俺が妹を送って、公園に着いたのはそのくらいの時間だった。
「スマホを一緒に見た時に確認したら、時間が動いていなかったから」
「時が止まる。そんなことあり得るのか?」
「有り得るぞ。ここはダンジョン。誰が作ったかも、何があるかも不明な場所だ」
リュセラが大きなリュックを背負って戻ってきた。リュックには網に挟まれて干してある魚がロープで吊るしてある。
「魔法はあらゆる事を可能にする。ダンジョンは魔力で成り立っているから、このダンジョン自体が魔法だと考えられている」
「何それすごい!」
「そうだな。僕が知っているのはダンジョン内部では時が進まないことだ。年を取りたくない、隠居した老人などもここへ入るらしい」
「それは死なないってことか?」
「加齢ではな。モンスターがうろついているから死の危険はある」
「強い人は永遠に生きている?」
「あり得る話だ。勇者たちならな」
「勇者がいたの!?」
「かつて世界を救った人々だ。苦難の道の末に魔王を倒した」
このダンジョンは異世界と繋がっている、悲劇教団のネリーが言っていた。そちらの世界ではファンタジー物語の勇者が存在していた。
すでに過去のことで有るため、関わることは無いだろう。会う可能性は無くもないらしい。
「すごい、そっちの歴史興味がある!」
「わ、分かったから。落ち着ける場所に着いたら話をしよう」
リュセラは凛音の勢いに押され気味だ。彼は見た目の年齢は凛音に近いので、意識してしまうのは分かる。俺も時々ドギマギする。相手にその気は無さそうだが。
俺たちは草原に足を踏み入れた。先頭は凛音で危険を確認しながら歩いてくれている。目新しいものを見つけると彼女はすぐ道をそれるのだが。
「ここにも危険がある。むしろここの方が被害者が多いだろう」
「見通せないからだな?」
「魔物も隠れやすそう」
「そして、見えない崖だな。隠れた石につまずいて、その先に穴があって上がれないまま、倒れている女性だ」
「限定的過ぎない?」
「若さを求めてダンジョンに入った人たち等が準備不足でそうなる」
「流石に居ないだろ」
先行していた凛音が立ち止まった。
「誰か落ちてるよー!」
「みんな、命を大事にしてくれ……」
「時間は大事だからな、助けるぞ」
凛音が縄ばしごを下ろしてくれた。荷物が少ない俺が下に降りる。下には修道服の少女が一人で倒れている。宗教関係の人だろうか。嫌でも思い出す彼らでない事を祈る。
天井と思われる場所には大きな光る石が星のようにある。他は岩肌で、ちらほらと光る石が有るのだ。
その草原は一面の緑に満ち、自然な風によってそよそよと揺らぐ。風が吹いているから、このダンジョンは出入口以外にも抜け道が有るようだ。
凛音はワクワクしながら草原に駆け込み、植物や昆虫などの生命たちを観察している。
草原にはいくつも丘がある。丘の裏側まで見通せないから警戒が必要だろう。
トラバサミ、鍋、ゴールドボーイがアライを監視しながら、辺りを見張ってくれる。安心ではある。この先は分からないのだが。
「かなり時間が掛かったな」
「だが、もう少しで町までたどり着く。この草原を越えた先に有るからな!」
トラバサミは草原の先を見据えた。今までの道に比べて安全なのは確かだ。町を作るのも、こうした平坦な場所が合っている。
凛音のトライではないが、このダンジョンの広さには興味が掻き立てられる。
「勢いでここまで来てしまったが、そろそろ家族に連絡しときたい」
「構わないぞ、僕はさっきの魚を捌いて干物にしとく」
「電話できるか、スマホ?」
「出来るよ、私は万能だから! カメラと違って」
俺のポケットからスマホが飛び出して、浮遊した。擬人化してから、様々な事が出来るようになったので、浮いたくらいでは驚かない。動くと操作しにくいのだが。少女の姿だと絵面がね……。
「わ、私だって。この姿になってから、色々出来ます!」
「例えば?」
鞄を飛び出したのは俺のカメラ。彼女は少女の姿になると拳を突きだし、殴る動きをした。
「撮るだけてなく、戦います! スマホはこんな、頑丈ではないです」
「カメラもレンズ気をつけてくれ」
カメラの専用レンズの値段を知りたくないし。
喧嘩腰にスマホはカメラを睨む。
「何ですって!」
「喧嘩は止めてくれ。取り敢えず家族に連絡を……」
「する必要ないと思うよー」
草原の入口に居た凛音が葉っぱをむしって調べながら声を上げた。
「ダメだろ。心配するぞ!」
「私はやらない」
その発言に俺は怒りを抑える。いくらなんでも無責任だ。入ってしまったのは仕方ないが、報告しないと心配させてしまう。
「俺は連絡するからな」
スマホを操作して自宅に電話を掛けた。少し経ってから母が電話に出た。
「母さん、俺……」
当分帰れないなんて、どう伝えればいいのか。俺は泊まりで家を離れる事なんて無かったし、なにも言わずに危険なダンジョンに入ったなんて。母さんを説得できる言葉なんて出てこない。ならここは正直に。
俺が口を開く前にスマホを奪われた。スマホを奪った凛音は発言する。
「悠人さんの学校の後輩で、佐々木凛音と言います。息子さんに学校でお世話になっております!」
「ええっ! 女の子、どう言った関係で?」
「同じ委員会で、悠人さんに頼みごとをお願いしました。お時間が掛かりますので、終わり次第、夕方の帰宅になります」
「まあ、そうなのね。分かりました。お昼は要らない?」
「はい、今回はお世話になったお礼として私がご馳走します」
「ありがとうございますね。悠人をよろしく」
母が電話を切った。スマホを俺に差し出す。
「なんて事をするんだ、家族に連絡出来なかっただろ!」
「おかしいとは思わなかった? お昼は要らないって」
「お昼。そう言えばかなり時間が経ったはずなのに、夕飯でなくお昼」
「ここまでの出来事、敵に追われて逃げ、洞窟を進み、湖の湖畔を回った。これだけで半日くらい時間が経っているよ」
「確かに、しかも俺は眠った」
「時間が進んでないの、このダンジョンに入ってから」
俺はスマホの画面を見た。時間は十二時。俺が妹を送って、公園に着いたのはそのくらいの時間だった。
「スマホを一緒に見た時に確認したら、時間が動いていなかったから」
「時が止まる。そんなことあり得るのか?」
「有り得るぞ。ここはダンジョン。誰が作ったかも、何があるかも不明な場所だ」
リュセラが大きなリュックを背負って戻ってきた。リュックには網に挟まれて干してある魚がロープで吊るしてある。
「魔法はあらゆる事を可能にする。ダンジョンは魔力で成り立っているから、このダンジョン自体が魔法だと考えられている」
「何それすごい!」
「そうだな。僕が知っているのはダンジョン内部では時が進まないことだ。年を取りたくない、隠居した老人などもここへ入るらしい」
「それは死なないってことか?」
「加齢ではな。モンスターがうろついているから死の危険はある」
「強い人は永遠に生きている?」
「あり得る話だ。勇者たちならな」
「勇者がいたの!?」
「かつて世界を救った人々だ。苦難の道の末に魔王を倒した」
このダンジョンは異世界と繋がっている、悲劇教団のネリーが言っていた。そちらの世界ではファンタジー物語の勇者が存在していた。
すでに過去のことで有るため、関わることは無いだろう。会う可能性は無くもないらしい。
「すごい、そっちの歴史興味がある!」
「わ、分かったから。落ち着ける場所に着いたら話をしよう」
リュセラは凛音の勢いに押され気味だ。彼は見た目の年齢は凛音に近いので、意識してしまうのは分かる。俺も時々ドギマギする。相手にその気は無さそうだが。
俺たちは草原に足を踏み入れた。先頭は凛音で危険を確認しながら歩いてくれている。目新しいものを見つけると彼女はすぐ道をそれるのだが。
「ここにも危険がある。むしろここの方が被害者が多いだろう」
「見通せないからだな?」
「魔物も隠れやすそう」
「そして、見えない崖だな。隠れた石につまずいて、その先に穴があって上がれないまま、倒れている女性だ」
「限定的過ぎない?」
「若さを求めてダンジョンに入った人たち等が準備不足でそうなる」
「流石に居ないだろ」
先行していた凛音が立ち止まった。
「誰か落ちてるよー!」
「みんな、命を大事にしてくれ……」
「時間は大事だからな、助けるぞ」
凛音が縄ばしごを下ろしてくれた。荷物が少ない俺が下に降りる。下には修道服の少女が一人で倒れている。宗教関係の人だろうか。嫌でも思い出す彼らでない事を祈る。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる