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1章

草原の脅威

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 困難を乗り越えた俺たちは森を抜け、背の高い草が生い茂る草原に足を踏み入れた。

 天井と思われる場所には大きな光る石が星のようにある。他は岩肌で、ちらほらと光る石が有るのだ。

 その草原は一面の緑に満ち、自然な風によってそよそよと揺らぐ。風が吹いているから、このダンジョンは出入口以外にも抜け道が有るようだ。
 凛音はワクワクしながら草原に駆け込み、植物や昆虫などの生命たちを観察している。

 草原にはいくつも丘がある。丘の裏側まで見通せないから警戒が必要だろう。

 トラバサミ、鍋、ゴールドボーイがアライを監視しながら、辺りを見張ってくれる。安心ではある。この先は分からないのだが。

「かなり時間が掛かったな」

「だが、もう少しで町までたどり着く。この草原を越えた先に有るからな!」

 トラバサミは草原の先を見据えた。今までの道に比べて安全なのは確かだ。町を作るのも、こうした平坦な場所が合っている。

 凛音のトライではないが、このダンジョンの広さには興味が掻き立てられる。

「勢いでここまで来てしまったが、そろそろ家族に連絡しときたい」

「構わないぞ、僕はさっきの魚を捌いて干物にしとく」

「電話できるか、スマホ?」

「出来るよ、私は万能だから! カメラと違って」

 俺のポケットからスマホが飛び出して、浮遊した。擬人化してから、様々な事が出来るようになったので、浮いたくらいでは驚かない。動くと操作しにくいのだが。少女の姿だと絵面がね……。

「わ、私だって。この姿になってから、色々出来ます!」

「例えば?」

 鞄を飛び出したのは俺のカメラ。彼女は少女の姿になると拳を突きだし、殴る動きをした。

「撮るだけてなく、戦います! スマホはこんな、頑丈ではないです」

「カメラもレンズ気をつけてくれ」
 カメラの専用レンズの値段を知りたくないし。

 喧嘩腰にスマホはカメラを睨む。

「何ですって!」

「喧嘩は止めてくれ。取り敢えず家族に連絡を……」

「する必要ないと思うよー」

 草原の入口に居た凛音が葉っぱをむしって調べながら声を上げた。

「ダメだろ。心配するぞ!」

「私はやらない」

 その発言に俺は怒りを抑える。いくらなんでも無責任だ。入ってしまったのは仕方ないが、報告しないと心配させてしまう。

「俺は連絡するからな」

 スマホを操作して自宅に電話を掛けた。少し経ってから母が電話に出た。

「母さん、俺……」

 当分帰れないなんて、どう伝えればいいのか。俺は泊まりで家を離れる事なんて無かったし、なにも言わずに危険なダンジョンに入ったなんて。母さんを説得できる言葉なんて出てこない。ならここは正直に。

 俺が口を開く前にスマホを奪われた。スマホを奪った凛音は発言する。

「悠人さんの学校の後輩で、佐々木凛音と言います。息子さんに学校でお世話になっております!」

「ええっ! 女の子、どう言った関係で?」

「同じ委員会で、悠人さんに頼みごとをお願いしました。お時間が掛かりますので、終わり次第、夕方の帰宅になります」

「まあ、そうなのね。分かりました。お昼は要らない?」

「はい、今回はお世話になったお礼として私がご馳走します」

「ありがとうございますね。悠人をよろしく」

 母が電話を切った。スマホを俺に差し出す。

「なんて事をするんだ、家族に連絡出来なかっただろ!」

「おかしいとは思わなかった? お昼は要らないって」

「お昼。そう言えばかなり時間が経ったはずなのに、夕飯でなくお昼」

「ここまでの出来事、敵に追われて逃げ、洞窟を進み、湖の湖畔を回った。これだけで半日くらい時間が経っているよ」

「確かに、しかも俺は眠った」

「時間が進んでないの、このダンジョンに入ってから」

 俺はスマホの画面を見た。時間は十二時。俺が妹を送って、公園に着いたのはそのくらいの時間だった。

「スマホを一緒に見た時に確認したら、時間が動いていなかったから」

「時が止まる。そんなことあり得るのか?」

「有り得るぞ。ここはダンジョン。誰が作ったかも、何があるかも不明な場所だ」

 リュセラが大きなリュックを背負って戻ってきた。リュックには網に挟まれて干してある魚がロープで吊るしてある。

「魔法はあらゆる事を可能にする。ダンジョンは魔力で成り立っているから、このダンジョン自体が魔法だと考えられている」

「何それすごい!」

「そうだな。僕が知っているのはダンジョン内部では時が進まないことだ。年を取りたくない、隠居した老人などもここへ入るらしい」

「それは死なないってことか?」

「加齢ではな。モンスターがうろついているから死の危険はある」

「強い人は永遠に生きている?」

「あり得る話だ。勇者たちならな」

「勇者がいたの!?」

「かつて世界を救った人々だ。苦難の道の末に魔王を倒した」

 このダンジョンは異世界と繋がっている、悲劇教団のネリーが言っていた。そちらの世界ではファンタジー物語の勇者が存在していた。

 すでに過去のことで有るため、関わることは無いだろう。会う可能性は無くもないらしい。

「すごい、そっちの歴史興味がある!」

「わ、分かったから。落ち着ける場所に着いたら話をしよう」

 リュセラは凛音の勢いに押され気味だ。彼は見た目の年齢は凛音に近いので、意識してしまうのは分かる。俺も時々ドギマギする。相手にその気は無さそうだが。

 俺たちは草原に足を踏み入れた。先頭は凛音で危険を確認しながら歩いてくれている。目新しいものを見つけると彼女はすぐ道をそれるのだが。

「ここにも危険がある。むしろここの方が被害者が多いだろう」

「見通せないからだな?」

「魔物も隠れやすそう」

「そして、見えない崖だな。隠れた石につまずいて、その先に穴があって上がれないまま、倒れている女性だ」

「限定的過ぎない?」

「若さを求めてダンジョンに入った人たち等が準備不足でそうなる」

「流石に居ないだろ」

 先行していた凛音が立ち止まった。

「誰か落ちてるよー!」

「みんな、命を大事にしてくれ……」

「時間は大事だからな、助けるぞ」

 凛音が縄ばしごを下ろしてくれた。荷物が少ない俺が下に降りる。下には修道服の少女が一人で倒れている。宗教関係の人だろうか。嫌でも思い出す彼らでない事を祈る。
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