上 下
19 / 53
1章

草原の脅威6

しおりを挟む
 ダンジョン内に有る草原、動物園に捕らわれた人々の足音が聞こえる。足元の草は柔らかく草原に吹く風が、草を揺らし俺の足音を消してくれる。

 忍び歩く俺は手にシナモンを握っている。いつでも嗅いで心を落ち着けるように。動物園に目をやるとすぐに嗅ぎたくなってしまう。いつも通りな気もするが。

 前だけが格子になっていて他の面は鉄板となっている。俺たちは裏側を伝って進む。
 
「皆、俺の合図で動いてくれ。敵に近づかれたら止まるんだ」

「隠れながら動くんだな!」

「声も抑えてくれトラバサミ……」

「ハー、ハッハッ。そう言うの俺も得意だぜ」

「ゴールドボーイは単独なら上手そうだな」

 彼に話し相手がいると笑い声が響く。音もそれ以外にも気を配って動くことが隠密行動の基本だ。

「俺は父さんとサバイバルした時に習ったんだ。急がずに見つからずに動く方法を」

「ああ、頼んだぜ。今の俺ではこの人数は押さえられねえから」

 また沈んだ顔をするゴールドボーイ。だが、今は救助を優先だ。彼については後で考えよう。

 俺たちは動物園んの外周から、奥に有る本体の檻へと近づく。

 少し進んだら動物がこちらに寄ってきた。慌てて停止して隠れる。

 待つと離れていったのでまた進み出すと、また動物に気づかれる。そうして何度も止まった。

「なぜバレる?」

「もしかして匂いでは?」

「俺たちの匂いは覚えられていないはず」

「いや、それだな!」

 トラバサミは鼻を効かせて探り、俺の鞄に行き着いた。

「スパイスか、そりゃ臭うな」

「待ってくれ、これは手放せない。どこかに置き去りにするのも嫌だ」

「では俺が持っていよう!」

「トラバサミなら、頼むか……」

 トラバサミに鞄を預けたら、今度は動物に気づかれることはないだろう。手にシナモンを持つのは堪忍してもらった。

「俺は外で待機している!」

 離れたトラバサミは草原で待機している。

「これでバレないな。ハーハッハ」

「ゴールドボーイ、静かにな……」

 注意はしたものの、ここは檻の裏側なので誰かに聞こえることはない。

「動かない方がいいですよ」

 俺たちでない誰かの声がした。慌てて草原に入ると、相手は続けた。

「皆さん、私は檻です。仲間を助けたいのですよね?」

「でもあんたは、敵のアーツだろ?」

「はい。ですが私は誰にも傷ついてほしく有りません。ご主人様を倒さないのでしたら、協力します」

 敵からの提案。だが、彼の要望は誰も傷つけないこと。俺たちも攻撃を望んでない。仲間が浚われたとはいえ。

「分かった、よろしく」

 すでに俺たちは敵に見つかってしまったから、今断っても捕まるだけだ。

「ゴールドボーイ、それでもいいか?」

「構わないぜ。困ったら俺に任せな」

 ゴールドボーイは俺を助けてくれる。でも、俺は彼を信頼していても、アーツに出来なかった。セレストに任されたのは俺なのに。俺はなんの役にも……。

「では動物の少ない檻を教えます」

 そこからは楽だった。檻の教えてくれた道を通り、動物や人を避けて動くことが出来た。そして俺たちは本体の檻へとたどり着く。

 檻の側面で前に出る機会を伺う。

「今さらですが、逃げた方がいいですよ」

「ダメだ仲間を見捨てられない」

「そうですか、仲間思いですね。それでは……」

 檻の側面が動き、俺とゴールドボーイを囲った。そして、独立した二つの檻に俺たちは閉じ込められた。

「騙したのか、檻!」

「すみません。でも、捕まえた方が誰も傷つかないじゃないですか」

 檻は嘘をついていない。最初から警告してくれていた。

「ごめん、ゴールドボーイ。俺のせいで……」

 凛音もリュセラとセレストも俺に託してくれたのに、そのチャンスを台無しにした。

「気にすんな。これだけの相手がいたんだ、見つからないなんて無理なんだよ」

 俺たちの入っている檻が揺れた。足が生えてきて歩いているのだ。向かったのは本体の檻の前。

 檻の中で座っている男が笑みを浮かべて俺たちを見ていた。

「お前らは追っ手か?」

「違う。仲間を返してもらいに来た」

「人の敷地に忍び込んでか?」

「魅了の魔法があるのに、正面から行くわけ無いだろ!」

「見破っていたか。やはりリュセラか、それとも……」

「なぜこんな事をする!」

 俺は前に有る格子をつかみ揺らしてみた。頑丈なため、びくともしない。

「私にはなお金が要るんだ! 悲劇教団から逃げるためにな」

「そのローブは悲劇教団と同じだろ、それなのにどうして?」

「奴らは私腹を肥やしている。追及しようとしたら、すぐに追っ手が来た」

「逃亡するために金を集めるのか? こんな卑劣な方法で」

「いや、会社を建てるためだが」

 普通の理由に俺は拍子抜けしてしまう。悪いやつなのに。なんと言うか普通だ。

「俺たちをどうするつもりだ?!」

「奴隷として資金集めに協力してもらう」

「魅了の魔法で強制してるくせに!」

 突然に俺の膝から力が抜けた。体勢を崩し膝立となってしまう。 

「何をした……」

「魅了の魔法さ。檻が持っている魔法で全てを支配し、起業してやる!」

 視界が揺れる、頭がぐらぐらとする。意識が薄れていく。何も出来ない俺の前に一人の男が立っていた。

「ゴールドボーイ?」

「ハーハッハ。俺様を忘れてないか?」

「なぜ動ける!」

「効かないのさ、道具だからな!」

 仁王立ちのゴールドボーイ。敵は彼を睨み付ける。

「やれ、檻!」

 敵は手を上げた。すると影が一つ二つと現れてゴールドボーイを覆う。落ちてきたのは大きな檻だった。

 ゴールドボーイは分身して、降ってくる檻を受け止めた。

「ゴールドボーイ!」

「構うな、これくらいなんて事はない……!」

 二つ目の檻が落ちてきて金属音が響く。ゴールドボーイは膝をついた。

「貴様、強いな」

 敵はゴールドボーイの姿を観察した。その後、檻に命じて魔法を止める。

「ゴールドボーイ、貴様が残ればそいつらの仲間だけ今すぐ逃がしてやってもいい」

「そんな簡単なことでいいなら請け負うぜ」

「待てくれ、ゴールドボーイ」

「お前らとは飽きた、俺は略奪の日々に戻らせてもらうぜ」

「あんたが良い奴なのは俺が知ってる、本当は盗みじゃなくて、違うことがしたかっただろ!」

「俺には守るものが無いからな」

 ゴールドボーイは俺に背を向けた。

「あんたにもあるぞ、守るもの!」

「でも俺は犯罪者だ……」

「アートで有りたいんだろ!」

 ゴールドボーイはこちらを見た。彼は驚きの表情となる。

「そいつの言う通りにして、アートになれるか?」

 敵は俺をにらむ。再度手を上げて檻を落とした。ゴールドボーイが受け止めるも、即座に次の檻を落としていく。

 ゴールドボーイの体が崩れていく。金貨がボロボロと転がって、俺の元に来た。

 今、俺だけが出きることをやらなきゃ。

「俺のアーツになってくれ!」

「良いぜ、あんたは最初からアートだったからな」

 俺は金貨を拾い上げ前に掲げた。持っているカードが光り、その光がゴールドボーイへと流れ込む。

「お前程度に何が出きる?!」

「夢を諦めた俺でも、助けることを諦めないことはできる!」

 ゴールドボーイの分身が俺の周りに集う。これで彼の魔法の力を使える。敵を倒し、凛音たちを助けて見せる。
 それはそうと魔法ってどう使うの……。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

再生の星のアウレール

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:200pt お気に入り:4

異世界二度目のおっさん、どう考えても高校生勇者より強い

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:319pt お気に入り:6,329

オッさん探索者の迷宮制覇

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:113pt お気に入り:46

悪徳貴族になろうとしたが

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:230

御伽の国の旅人~傍観者でいたい僕とおとぎ話~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

処理中です...