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1章
草原の脅威6
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ダンジョン内に有る草原、動物園に捕らわれた人々の足音が聞こえる。足元の草は柔らかく草原に吹く風が、草を揺らし俺の足音を消してくれる。
忍び歩く俺は手にシナモンを握っている。いつでも嗅いで心を落ち着けるように。動物園に目をやるとすぐに嗅ぎたくなってしまう。いつも通りな気もするが。
前だけが格子になっていて他の面は鉄板となっている。俺たちは裏側を伝って進む。
「皆、俺の合図で動いてくれ。敵に近づかれたら止まるんだ」
「隠れながら動くんだな!」
「声も抑えてくれトラバサミ……」
「ハー、ハッハッ。そう言うの俺も得意だぜ」
「ゴールドボーイは単独なら上手そうだな」
彼に話し相手がいると笑い声が響く。音もそれ以外にも気を配って動くことが隠密行動の基本だ。
「俺は父さんとサバイバルした時に習ったんだ。急がずに見つからずに動く方法を」
「ああ、頼んだぜ。今の俺ではこの人数は押さえられねえから」
また沈んだ顔をするゴールドボーイ。だが、今は救助を優先だ。彼については後で考えよう。
俺たちは動物園んの外周から、奥に有る本体の檻へと近づく。
少し進んだら動物がこちらに寄ってきた。慌てて停止して隠れる。
待つと離れていったのでまた進み出すと、また動物に気づかれる。そうして何度も止まった。
「なぜバレる?」
「もしかして匂いでは?」
「俺たちの匂いは覚えられていないはず」
「いや、それだな!」
トラバサミは鼻を効かせて探り、俺の鞄に行き着いた。
「スパイスか、そりゃ臭うな」
「待ってくれ、これは手放せない。どこかに置き去りにするのも嫌だ」
「では俺が持っていよう!」
「トラバサミなら、頼むか……」
トラバサミに鞄を預けたら、今度は動物に気づかれることはないだろう。手にシナモンを持つのは堪忍してもらった。
「俺は外で待機している!」
離れたトラバサミは草原で待機している。
「これでバレないな。ハーハッハ」
「ゴールドボーイ、静かにな……」
注意はしたものの、ここは檻の裏側なので誰かに聞こえることはない。
「動かない方がいいですよ」
俺たちでない誰かの声がした。慌てて草原に入ると、相手は続けた。
「皆さん、私は檻です。仲間を助けたいのですよね?」
「でもあんたは、敵のアーツだろ?」
「はい。ですが私は誰にも傷ついてほしく有りません。ご主人様を倒さないのでしたら、協力します」
敵からの提案。だが、彼の要望は誰も傷つけないこと。俺たちも攻撃を望んでない。仲間が浚われたとはいえ。
「分かった、よろしく」
すでに俺たちは敵に見つかってしまったから、今断っても捕まるだけだ。
「ゴールドボーイ、それでもいいか?」
「構わないぜ。困ったら俺に任せな」
ゴールドボーイは俺を助けてくれる。でも、俺は彼を信頼していても、アーツに出来なかった。セレストに任されたのは俺なのに。俺はなんの役にも……。
「では動物の少ない檻を教えます」
そこからは楽だった。檻の教えてくれた道を通り、動物や人を避けて動くことが出来た。そして俺たちは本体の檻へとたどり着く。
檻の側面で前に出る機会を伺う。
「今さらですが、逃げた方がいいですよ」
「ダメだ仲間を見捨てられない」
「そうですか、仲間思いですね。それでは……」
檻の側面が動き、俺とゴールドボーイを囲った。そして、独立した二つの檻に俺たちは閉じ込められた。
「騙したのか、檻!」
「すみません。でも、捕まえた方が誰も傷つかないじゃないですか」
檻は嘘をついていない。最初から警告してくれていた。
「ごめん、ゴールドボーイ。俺のせいで……」
凛音もリュセラとセレストも俺に託してくれたのに、そのチャンスを台無しにした。
「気にすんな。これだけの相手がいたんだ、見つからないなんて無理なんだよ」
俺たちの入っている檻が揺れた。足が生えてきて歩いているのだ。向かったのは本体の檻の前。
檻の中で座っている男が笑みを浮かべて俺たちを見ていた。
「お前らは追っ手か?」
「違う。仲間を返してもらいに来た」
「人の敷地に忍び込んでか?」
「魅了の魔法があるのに、正面から行くわけ無いだろ!」
「見破っていたか。やはりリュセラか、それとも……」
「なぜこんな事をする!」
俺は前に有る格子をつかみ揺らしてみた。頑丈なため、びくともしない。
「私にはなお金が要るんだ! 悲劇教団から逃げるためにな」
「そのローブは悲劇教団と同じだろ、それなのにどうして?」
「奴らは私腹を肥やしている。追及しようとしたら、すぐに追っ手が来た」
「逃亡するために金を集めるのか? こんな卑劣な方法で」
「いや、会社を建てるためだが」
普通の理由に俺は拍子抜けしてしまう。悪いやつなのに。なんと言うか普通だ。
「俺たちをどうするつもりだ?!」
「奴隷として資金集めに協力してもらう」
「魅了の魔法で強制してるくせに!」
突然に俺の膝から力が抜けた。体勢を崩し膝立となってしまう。
「何をした……」
「魅了の魔法さ。檻が持っている魔法で全てを支配し、起業してやる!」
視界が揺れる、頭がぐらぐらとする。意識が薄れていく。何も出来ない俺の前に一人の男が立っていた。
「ゴールドボーイ?」
「ハーハッハ。俺様を忘れてないか?」
「なぜ動ける!」
「効かないのさ、道具だからな!」
仁王立ちのゴールドボーイ。敵は彼を睨み付ける。
「やれ、檻!」
敵は手を上げた。すると影が一つ二つと現れてゴールドボーイを覆う。落ちてきたのは大きな檻だった。
ゴールドボーイは分身して、降ってくる檻を受け止めた。
「ゴールドボーイ!」
「構うな、これくらいなんて事はない……!」
二つ目の檻が落ちてきて金属音が響く。ゴールドボーイは膝をついた。
「貴様、強いな」
敵はゴールドボーイの姿を観察した。その後、檻に命じて魔法を止める。
「ゴールドボーイ、貴様が残ればそいつらの仲間だけ今すぐ逃がしてやってもいい」
「そんな簡単なことでいいなら請け負うぜ」
「待てくれ、ゴールドボーイ」
「お前らとは飽きた、俺は略奪の日々に戻らせてもらうぜ」
「あんたが良い奴なのは俺が知ってる、本当は盗みじゃなくて、違うことがしたかっただろ!」
「俺には守るものが無いからな」
ゴールドボーイは俺に背を向けた。
「あんたにもあるぞ、守るもの!」
「でも俺は犯罪者だ……」
「アートで有りたいんだろ!」
ゴールドボーイはこちらを見た。彼は驚きの表情となる。
「そいつの言う通りにして、アートになれるか?」
敵は俺をにらむ。再度手を上げて檻を落とした。ゴールドボーイが受け止めるも、即座に次の檻を落としていく。
ゴールドボーイの体が崩れていく。金貨がボロボロと転がって、俺の元に来た。
今、俺だけが出きることをやらなきゃ。
「俺のアーツになってくれ!」
「良いぜ、あんたは最初からアートだったからな」
俺は金貨を拾い上げ前に掲げた。持っているカードが光り、その光がゴールドボーイへと流れ込む。
「お前程度に何が出きる?!」
「夢を諦めた俺でも、助けることを諦めないことはできる!」
ゴールドボーイの分身が俺の周りに集う。これで彼の魔法の力を使える。敵を倒し、凛音たちを助けて見せる。
それはそうと魔法ってどう使うの……。
忍び歩く俺は手にシナモンを握っている。いつでも嗅いで心を落ち着けるように。動物園に目をやるとすぐに嗅ぎたくなってしまう。いつも通りな気もするが。
前だけが格子になっていて他の面は鉄板となっている。俺たちは裏側を伝って進む。
「皆、俺の合図で動いてくれ。敵に近づかれたら止まるんだ」
「隠れながら動くんだな!」
「声も抑えてくれトラバサミ……」
「ハー、ハッハッ。そう言うの俺も得意だぜ」
「ゴールドボーイは単独なら上手そうだな」
彼に話し相手がいると笑い声が響く。音もそれ以外にも気を配って動くことが隠密行動の基本だ。
「俺は父さんとサバイバルした時に習ったんだ。急がずに見つからずに動く方法を」
「ああ、頼んだぜ。今の俺ではこの人数は押さえられねえから」
また沈んだ顔をするゴールドボーイ。だが、今は救助を優先だ。彼については後で考えよう。
俺たちは動物園んの外周から、奥に有る本体の檻へと近づく。
少し進んだら動物がこちらに寄ってきた。慌てて停止して隠れる。
待つと離れていったのでまた進み出すと、また動物に気づかれる。そうして何度も止まった。
「なぜバレる?」
「もしかして匂いでは?」
「俺たちの匂いは覚えられていないはず」
「いや、それだな!」
トラバサミは鼻を効かせて探り、俺の鞄に行き着いた。
「スパイスか、そりゃ臭うな」
「待ってくれ、これは手放せない。どこかに置き去りにするのも嫌だ」
「では俺が持っていよう!」
「トラバサミなら、頼むか……」
トラバサミに鞄を預けたら、今度は動物に気づかれることはないだろう。手にシナモンを持つのは堪忍してもらった。
「俺は外で待機している!」
離れたトラバサミは草原で待機している。
「これでバレないな。ハーハッハ」
「ゴールドボーイ、静かにな……」
注意はしたものの、ここは檻の裏側なので誰かに聞こえることはない。
「動かない方がいいですよ」
俺たちでない誰かの声がした。慌てて草原に入ると、相手は続けた。
「皆さん、私は檻です。仲間を助けたいのですよね?」
「でもあんたは、敵のアーツだろ?」
「はい。ですが私は誰にも傷ついてほしく有りません。ご主人様を倒さないのでしたら、協力します」
敵からの提案。だが、彼の要望は誰も傷つけないこと。俺たちも攻撃を望んでない。仲間が浚われたとはいえ。
「分かった、よろしく」
すでに俺たちは敵に見つかってしまったから、今断っても捕まるだけだ。
「ゴールドボーイ、それでもいいか?」
「構わないぜ。困ったら俺に任せな」
ゴールドボーイは俺を助けてくれる。でも、俺は彼を信頼していても、アーツに出来なかった。セレストに任されたのは俺なのに。俺はなんの役にも……。
「では動物の少ない檻を教えます」
そこからは楽だった。檻の教えてくれた道を通り、動物や人を避けて動くことが出来た。そして俺たちは本体の檻へとたどり着く。
檻の側面で前に出る機会を伺う。
「今さらですが、逃げた方がいいですよ」
「ダメだ仲間を見捨てられない」
「そうですか、仲間思いですね。それでは……」
檻の側面が動き、俺とゴールドボーイを囲った。そして、独立した二つの檻に俺たちは閉じ込められた。
「騙したのか、檻!」
「すみません。でも、捕まえた方が誰も傷つかないじゃないですか」
檻は嘘をついていない。最初から警告してくれていた。
「ごめん、ゴールドボーイ。俺のせいで……」
凛音もリュセラとセレストも俺に託してくれたのに、そのチャンスを台無しにした。
「気にすんな。これだけの相手がいたんだ、見つからないなんて無理なんだよ」
俺たちの入っている檻が揺れた。足が生えてきて歩いているのだ。向かったのは本体の檻の前。
檻の中で座っている男が笑みを浮かべて俺たちを見ていた。
「お前らは追っ手か?」
「違う。仲間を返してもらいに来た」
「人の敷地に忍び込んでか?」
「魅了の魔法があるのに、正面から行くわけ無いだろ!」
「見破っていたか。やはりリュセラか、それとも……」
「なぜこんな事をする!」
俺は前に有る格子をつかみ揺らしてみた。頑丈なため、びくともしない。
「私にはなお金が要るんだ! 悲劇教団から逃げるためにな」
「そのローブは悲劇教団と同じだろ、それなのにどうして?」
「奴らは私腹を肥やしている。追及しようとしたら、すぐに追っ手が来た」
「逃亡するために金を集めるのか? こんな卑劣な方法で」
「いや、会社を建てるためだが」
普通の理由に俺は拍子抜けしてしまう。悪いやつなのに。なんと言うか普通だ。
「俺たちをどうするつもりだ?!」
「奴隷として資金集めに協力してもらう」
「魅了の魔法で強制してるくせに!」
突然に俺の膝から力が抜けた。体勢を崩し膝立となってしまう。
「何をした……」
「魅了の魔法さ。檻が持っている魔法で全てを支配し、起業してやる!」
視界が揺れる、頭がぐらぐらとする。意識が薄れていく。何も出来ない俺の前に一人の男が立っていた。
「ゴールドボーイ?」
「ハーハッハ。俺様を忘れてないか?」
「なぜ動ける!」
「効かないのさ、道具だからな!」
仁王立ちのゴールドボーイ。敵は彼を睨み付ける。
「やれ、檻!」
敵は手を上げた。すると影が一つ二つと現れてゴールドボーイを覆う。落ちてきたのは大きな檻だった。
ゴールドボーイは分身して、降ってくる檻を受け止めた。
「ゴールドボーイ!」
「構うな、これくらいなんて事はない……!」
二つ目の檻が落ちてきて金属音が響く。ゴールドボーイは膝をついた。
「貴様、強いな」
敵はゴールドボーイの姿を観察した。その後、檻に命じて魔法を止める。
「ゴールドボーイ、貴様が残ればそいつらの仲間だけ今すぐ逃がしてやってもいい」
「そんな簡単なことでいいなら請け負うぜ」
「待てくれ、ゴールドボーイ」
「お前らとは飽きた、俺は略奪の日々に戻らせてもらうぜ」
「あんたが良い奴なのは俺が知ってる、本当は盗みじゃなくて、違うことがしたかっただろ!」
「俺には守るものが無いからな」
ゴールドボーイは俺に背を向けた。
「あんたにもあるぞ、守るもの!」
「でも俺は犯罪者だ……」
「アートで有りたいんだろ!」
ゴールドボーイはこちらを見た。彼は驚きの表情となる。
「そいつの言う通りにして、アートになれるか?」
敵は俺をにらむ。再度手を上げて檻を落とした。ゴールドボーイが受け止めるも、即座に次の檻を落としていく。
ゴールドボーイの体が崩れていく。金貨がボロボロと転がって、俺の元に来た。
今、俺だけが出きることをやらなきゃ。
「俺のアーツになってくれ!」
「良いぜ、あんたは最初からアートだったからな」
俺は金貨を拾い上げ前に掲げた。持っているカードが光り、その光がゴールドボーイへと流れ込む。
「お前程度に何が出きる?!」
「夢を諦めた俺でも、助けることを諦めないことはできる!」
ゴールドボーイの分身が俺の周りに集う。これで彼の魔法の力を使える。敵を倒し、凛音たちを助けて見せる。
それはそうと魔法ってどう使うの……。
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