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「王太子妃選び?」
「そうだ。学園の夏期休暇の間に行われる。シャーロット、お前も参加するんだ」
「私!?」
 父の執務室に呼び出されたシャーロットは、王家の蝋封のある封筒を渡された。
「そうだ。十四歳から十九歳までの貴族の娘で、既に婚約者いる者、婿を取らなくてはならない者以外は全員参加だ」
 シャーロットの父はそう言うと椅子から立ち上がる。
「全員参加…」
 シャーロットは顔を顰めて封筒を眺めた。
「まあ心配するな、国中のその年齢の貴族令嬢を集めれば千人は下らない筈、何度も選考して人数を絞らねばならんのだ。お前は良い子だが、絞られた候補には残らんだろうよ」
 父親の癖にまだ十五歳の娘に何て言い草だ。と普通なら怒る処だろうが、シャーロットは「そっか」とあっさりと納得する。
「それでも参加はせねばならん。その封筒の中の文書をよく読んでおけ。シャーロット」
「はい。でもお父様、シャーロットと呼ぶのは止めてくださいと何度も…」
「ああ、そうだったな。じゃあよく文書を読んで、わからない事はルーカスに確認しておくようにな。ロッテ」
「はい。わかりました」

 私が王太子妃に、ううん、何名かしか残らない王太子妃候補にだってなる訳ないわ。
 執務室を出たシャーロットは、廊下の窓に映る自分の姿を眺めた。
 
 だって、私、こんなに大きいんだもの。

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 神様、こんな中世ヨーロッパの様なヒストリカルな世界に転生するなら、レースやフリルのたっぷり付いたドレスが似合う、小柄で細身のかわいい女の子が良かったです。
 何で転生してまで、前世と同じ様なデカい女子の人生を歩まなきゃいけないんですか?
「理不尽よね」
 シャーロットは鏡の前で呟く。

 髪も瞳も濃茶色。せめてもっと明るい茶髪とか、金髪とかなら良かったのに、濃茶だから上げても下ろしても重苦しいし、瞳も青とか緑とかなら…濃茶だと暗くてキツく見える。
 顔立ちは…まあまあ。自分だからあまり良くは見えないけど、悪くはないと思う。前世では一重瞼だったけど、今世では二重なのだけがお気に入り。
 太ってはいない。痩せている方だと思う。
 ただ、骨太。だから華奢でもヒョロヒョロでもない。
 そして、とにかく背が高い。
 今、百七十ハセンチ。今十五歳だから、前世と同じく百八十センチにはなりそうだ。

 この世界の平均身長は、男性で百八十センチ弱、女性で百六十センチ強。前世日本よりは高い。高いが、平均と言う事はそれより高い人も低い人もいる訳で…
 騎士などがたくさんいる辺境などには背も高いガタイも良い男性、女性もかな?がいるんだと思う。でもここ王都では今のところ私より背が高い男性にはあまり会った事はない。学園などで遠目に見て「あの人私より背が高そう」と思う人はいるが、並んでみた事はないので真偽は不明だ。
 父と兄は百九十センチ近くあるが、所詮は父と兄。つまり身内。
 そして、母は小さい。と言っても百六十センチなので平均的な高さだが、父と母は恋愛結婚…要するに、背が高い男性も、大きい女性より、小さい、いや普通の女性が好きだと言う事で。

 そんな訳で、今世の私も早々に恋愛方面は諦めの境地なのだ。

「ロッテ、何が理不尽なの?」
 侍女のマリアが鏡越しにシャーロットの顔を覗き込む。
 マリアは小さい。そしてかわいい。できるなら、こういう女の子に生まれ変わりたかったわ。
 マリアはマードック男爵家の次女で、歳はシャーロットと同じ。シャーロットの母とマリアの母が学園時代からの友人で、マリアは幼い頃からシャーロットの遊び相手としてウェイン家に出入りしていた。
 今は学園生でありながらウェイン家の侍女として働いているが、シャーロットとは友人の延長のような気が置けない関係なのだ。
「だって、王太子妃なんてなりたくもないし、向こうだって願い下げだって言うのに、全員参加だなんて…」
「向こうが願い下げかどうかはわからないわよ」
 それは流石にわかるよ。
「そうだ。マリアだって男爵令嬢だもん、当然参加するのよね?」
「まあね。でも男爵家の娘なんて身分的に王太子妃なんて無理なんだから伯爵家以上にしてくれれば良かったのに…」
 マリアはため息混じりに言う。
「ほら、マリアだって気乗りしないんでしょ?やっぱり理不尽じゃない。それに伯爵家以上だとウェイン家うちも含まれるから、侯爵家以上で良かったんじゃない?それに呼ばれて選考するって事は最終的に選ばれたら男爵令嬢でも王太子妃にするつもりなんじゃないのかしら?」
「うーん…公爵家と侯爵家だけじゃ候補の令嬢が少な過ぎるのかしらね?王太子殿下、好みがうるさいらしいし」
「そうなの?」
「そう言う噂に疎いロッテはかわいいわねぇ」
 マリアはそう言って、手を伸ばしてシャーロットの頭を撫でた。



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