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あ、あの子かわいい。あの子も。
「ヒロインになりそうな娘、いっぱいいるなあ」
あの子はクールビューティーだから悪役令嬢系かな。あっちの子もかわいいけど、ヒロインの取り巻きって感じ?
学園の食堂で、女生徒たちを眺めていたシャーロットの視界の上の方に不意に黒い影が横切った。
「!」
ビクッと身体を揺らし思わず手で顔と頭を防御する姿勢を取る。
…何も起こらない、わ。
「ロッテ?」
隣に座ったマリアが心配そうにシャーロットを見ている。
「驚かせた…のか?」
シャーロットの頭の上から声が降って来る。
「え?」
声のした方を見上げると、昼食の乗ったトレイを片手で持った紫の髪の男性、ユリウスが立ってシャーロットを見下ろしていた。
「おっ王太子殿下!?」
慌てて立ち上がり掛けたシャーロットをユリウスは手の平を向けて制す。
「学園では身分は問わない。王太子ではなく、せめて生徒会長と呼んでくれ」
そんなのは建前だ。
シャーロットはそう思ったが、学園内で最高身分のユリウスがそう言うなら従う他はない。
「生徒会長…様」
「それもおかしいな。会長で良い。もしくはユリウスと」
な、名前!それは無理!
「か…会長。申し訳ありません。その…トレイの影に驚いただけです」
「そうか」
ユリウスは頷くと、歩き出し、食堂の奥へと去って行く。
びっびっくりした…
シャーロットが息を吐くと、周りがヒソヒソと話している声が微かに聞こえて来た。
「なあにあの子」
「殿下は通り掛かっただけで何もしていないのにいきなり頭を庇ったわ」
「目立ちたいのかしら?あの子、貴族なの?」
「ああ、伯爵家の子じゃなかった?王太子妃選びに向けてユリウス殿下に自分を印象付けようと思ったんじゃない?」
「うわあ、嫌だわあ」
上級生らしき女生徒たちの声。
「ロッテ、行きましょう」
マリアがわざとガタンッと音を立てて立ち上がる。
「うん」
シャーロットも立ち上がり、マリアと並んで食堂の出口の方へ歩く。
ああ、目立ちたくないのに。失敗したわ。
前世を思い出してから視界の上の方に何か見えるとビクついちゃうのよね。きっと前世で鉄板が落ちて来た時の事を無意識に思い出すのね。
「あの子、ユリウスが始業式の後『あれは誰だ?』って聞いた子だよな?」
ユリウスの隣に座った男子生徒メレディスが言う。
「ああ」
彼女とは顔立ちは違ったな。しかしやはり彼女に雰囲気が似ている。
ユリウスは顎に手を当ててシャーロットを見ている。
食堂を出て行ってシャーロットが見えなくなると、メレディスはユリウスの方へ視線を向けて言った。
「あの子はウェイン伯爵家の令嬢…つまりルーカス殿の妹らしい」
-----
「公爵家、侯爵家の令嬢は一次選考、二次選考は免除。三次選考からの参加だな。ロッテとマリアは一次選考からだから、王家からの招待状を持って王城の舞踏会場へ集合」
シャーロットの兄ルーカスが招待状に同封されていた紙を読みながら言う。
「ううう、行きたくないよう」
ソファの向かい側でシャーロットは座面に突っ伏して言う。
シャーロットの座るソファの後ろにはマリアが立っていた。
「ロッテ、私が筆頭侍従としてお仕えするユリウス殿下のお妃候補の選定だぞ。私の妹が棄権するなんて許される訳ないだろ」
「わかってますけどぉ」
「ルーカス様、どうしてユリウス殿下のお妃様は『選定』するのですか?今までその様な事をされた王族の方っておられませんよね?」
マリアが言うと、ルーカスは眉を顰めた。
「…聞いてはいけない事でしたか?」
「ああ、いや、そういう訳ではないが…まあ今まで婚約者が誰に決まりそうになってもユリウス殿下の『嫌だ』の一言でひっくり返されていたから、だな」
「あら、殿下が選り好みされているという噂は本当だったんですね」
「それが『選り好み』と言う程、好みは示して頂けなくて、とにかく誰でも『嫌だ』と言うだけで、じゃあこういう人が良いとかああいう人は絶対嫌だとか、そういう殿下自身の意向がわからないんだ」
「あらら。じゃあ殿下は女嫌いとか、結婚したくないとか、そちらの噂の方が近いんですか?」
マリアがそう言うと、ルーカスは「はあ~」と大きく息を吐く。
「そんな噂が…そりゃ宰相や陛下も王太子妃候補選定大会なんて開いてでも婚約させようとする筈だよな」
結婚したくないって…王太子が結婚して跡取りを残すのは、いわば義務なのに。なんてわがままな王子なの。
まあ王子がいくらわがままでも構わないけど、大会なんて開いて私を巻き込むのはやめてよね。
「もう一つ、殿下の噂があるんですけど、これはどうなんですか?」
「もう一つ?」
マリアは頷くと、ルーカスの後ろに回り、耳に口元を近付けて「……だと」と話す。
「そっ。それは…その噂は、頼むから広げないでくれ」
少し慌ててルーカスは言う。
「私は広めませんけど…もう広がってるんじゃないですか?」
マリアが言うと、ルーカスはがくりと肩を落とす。
「何?その噂って」
「…いや、ロッテは知らなくて良い」
「えー」
シャーロットはマリアに視線を移す。
「ルーカス様が広めるなって言われるから、言えないわ」
マリアは肩を竦めて言った。
あ、あの子かわいい。あの子も。
「ヒロインになりそうな娘、いっぱいいるなあ」
あの子はクールビューティーだから悪役令嬢系かな。あっちの子もかわいいけど、ヒロインの取り巻きって感じ?
学園の食堂で、女生徒たちを眺めていたシャーロットの視界の上の方に不意に黒い影が横切った。
「!」
ビクッと身体を揺らし思わず手で顔と頭を防御する姿勢を取る。
…何も起こらない、わ。
「ロッテ?」
隣に座ったマリアが心配そうにシャーロットを見ている。
「驚かせた…のか?」
シャーロットの頭の上から声が降って来る。
「え?」
声のした方を見上げると、昼食の乗ったトレイを片手で持った紫の髪の男性、ユリウスが立ってシャーロットを見下ろしていた。
「おっ王太子殿下!?」
慌てて立ち上がり掛けたシャーロットをユリウスは手の平を向けて制す。
「学園では身分は問わない。王太子ではなく、せめて生徒会長と呼んでくれ」
そんなのは建前だ。
シャーロットはそう思ったが、学園内で最高身分のユリウスがそう言うなら従う他はない。
「生徒会長…様」
「それもおかしいな。会長で良い。もしくはユリウスと」
な、名前!それは無理!
「か…会長。申し訳ありません。その…トレイの影に驚いただけです」
「そうか」
ユリウスは頷くと、歩き出し、食堂の奥へと去って行く。
びっびっくりした…
シャーロットが息を吐くと、周りがヒソヒソと話している声が微かに聞こえて来た。
「なあにあの子」
「殿下は通り掛かっただけで何もしていないのにいきなり頭を庇ったわ」
「目立ちたいのかしら?あの子、貴族なの?」
「ああ、伯爵家の子じゃなかった?王太子妃選びに向けてユリウス殿下に自分を印象付けようと思ったんじゃない?」
「うわあ、嫌だわあ」
上級生らしき女生徒たちの声。
「ロッテ、行きましょう」
マリアがわざとガタンッと音を立てて立ち上がる。
「うん」
シャーロットも立ち上がり、マリアと並んで食堂の出口の方へ歩く。
ああ、目立ちたくないのに。失敗したわ。
前世を思い出してから視界の上の方に何か見えるとビクついちゃうのよね。きっと前世で鉄板が落ちて来た時の事を無意識に思い出すのね。
「あの子、ユリウスが始業式の後『あれは誰だ?』って聞いた子だよな?」
ユリウスの隣に座った男子生徒メレディスが言う。
「ああ」
彼女とは顔立ちは違ったな。しかしやはり彼女に雰囲気が似ている。
ユリウスは顎に手を当ててシャーロットを見ている。
食堂を出て行ってシャーロットが見えなくなると、メレディスはユリウスの方へ視線を向けて言った。
「あの子はウェイン伯爵家の令嬢…つまりルーカス殿の妹らしい」
-----
「公爵家、侯爵家の令嬢は一次選考、二次選考は免除。三次選考からの参加だな。ロッテとマリアは一次選考からだから、王家からの招待状を持って王城の舞踏会場へ集合」
シャーロットの兄ルーカスが招待状に同封されていた紙を読みながら言う。
「ううう、行きたくないよう」
ソファの向かい側でシャーロットは座面に突っ伏して言う。
シャーロットの座るソファの後ろにはマリアが立っていた。
「ロッテ、私が筆頭侍従としてお仕えするユリウス殿下のお妃候補の選定だぞ。私の妹が棄権するなんて許される訳ないだろ」
「わかってますけどぉ」
「ルーカス様、どうしてユリウス殿下のお妃様は『選定』するのですか?今までその様な事をされた王族の方っておられませんよね?」
マリアが言うと、ルーカスは眉を顰めた。
「…聞いてはいけない事でしたか?」
「ああ、いや、そういう訳ではないが…まあ今まで婚約者が誰に決まりそうになってもユリウス殿下の『嫌だ』の一言でひっくり返されていたから、だな」
「あら、殿下が選り好みされているという噂は本当だったんですね」
「それが『選り好み』と言う程、好みは示して頂けなくて、とにかく誰でも『嫌だ』と言うだけで、じゃあこういう人が良いとかああいう人は絶対嫌だとか、そういう殿下自身の意向がわからないんだ」
「あらら。じゃあ殿下は女嫌いとか、結婚したくないとか、そちらの噂の方が近いんですか?」
マリアがそう言うと、ルーカスは「はあ~」と大きく息を吐く。
「そんな噂が…そりゃ宰相や陛下も王太子妃候補選定大会なんて開いてでも婚約させようとする筈だよな」
結婚したくないって…王太子が結婚して跡取りを残すのは、いわば義務なのに。なんてわがままな王子なの。
まあ王子がいくらわがままでも構わないけど、大会なんて開いて私を巻き込むのはやめてよね。
「もう一つ、殿下の噂があるんですけど、これはどうなんですか?」
「もう一つ?」
マリアは頷くと、ルーカスの後ろに回り、耳に口元を近付けて「……だと」と話す。
「そっ。それは…その噂は、頼むから広げないでくれ」
少し慌ててルーカスは言う。
「私は広めませんけど…もう広がってるんじゃないですか?」
マリアが言うと、ルーカスはがくりと肩を落とす。
「何?その噂って」
「…いや、ロッテは知らなくて良い」
「えー」
シャーロットはマリアに視線を移す。
「ルーカス様が広めるなって言われるから、言えないわ」
マリアは肩を竦めて言った。
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