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9.初夜(1)
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晩餐を終えると、公爵様は席を立つ。私も慌ててそれに続いた。
「私はまだ仕事が残っている。後で、そちらに行く故、支度をして寝室で待っていろ」
そう言い残して、さっさと立ち去ってしまった。
支度をして、寝室で待てと言うことは、そういう意味なのですよね。
また、公爵様のキスを思い出して、私は頬が紅潮するのを感じ、急ぎ足で部屋へと戻ったのだった。
※※※※※
部屋に戻ると、エブリンがそわそわとしていた。
「お、おかえりなさいませ!湯浴みの準備は出来ておりますわ!」
「あ、ありがとう……」
多分、エブリンも今夜のことを聞いているのね。姉妹のように育ったエブリンにそういう事を知られるのは恥ずかしい気はするのだけれど、これは普通のことなのよね。
「では、湯浴みをお願いするわ」
「かしこまりました」
エブリンが準備している間、私はお母様から聞いた閨の作法を頭の中で反芻する。
全て公爵様にお任せすればいいと、お母様は言っていたけれど、あのキスを思い出しただけで頭がくらくらする。
あの方と夫婦の契りを交わしたら、私は一体どうなってしまうのかしら。
甘い、胸の疼きと共に、不安が襲ってくる。
「お待たせいたしました。こちらへどうぞ」
「え、エブリン?私一人で入れるわ」
「今日は特別な日ですから、お手伝いさせてください」
そう言って、エブリンはにこりと微笑んだ。
湯浴み用の部屋は、公爵様用と私用と別にあるらしい。
寝室に隣接しているものは私用として使えとのことらしいけれど、こちらもまた信じられないくらいに広い。
実家の五倍はあるのではないかしら。
「旅の疲れが取れるように、香油を入れてありますからね」
「だからいい香りがするのね」
浴室全体が、春の花畑のような香りに包まれていた。
それにバスタブには生の薔薇の花びらが浮かべられている。こんなに雪深い極北では、生花なんて貴重でしょうに。
「このお花は?」
「なんでも、黒焔公爵様が直々にご用意下さったそうですよ」
「そう……」
瑞々しい薔薇の花びらを、私はそっと手で掬った。
すると。
薔薇の花びらが仄かな光を放った。そして、みるみるうちに、真っ赤な一輪の薔薇の花に変わった。
「え……?」
「凄いですわ、お嬢様!それは、癒やしの魔法ですか?」
私は、呆然と掌の薔薇の花を眺める。私は、魔法など使っていない。ただ花びらに触れただけなのに。
「私の魔法ではないわ。きっと公爵様のいたずらよ」
私は、ごまかすように微笑んだ。
髪も体も、エブリンによって丁寧に清められ、湯浴みを終えると、今度は体全体に先程と同じ香油を塗られ、マッサージをされた。
髪の毛は風魔法で乾かし、丁寧に櫛で整えられる。
「夜着はこちらを、との事です。では、私はこれで失礼いたしますね」
「ありがとう、エブリン」
「お嬢様、頑張って下さいませ!」
夜着を受け取ると、エブリンはそそくさと出ていってしまった。
私はため息をつくと、渡された夜着に袖を通す。
「こ、これ……」
着てみて、私は動揺してしまった。夜着は、胸元が大きく開いていて、リボン一つで簡単にはだけてしまうような構造。生地はいいけれど、物凄く薄くて、明かりの前では透けて見えてしまう。
こんな格好で、公爵様の前に立てというの……?
私は少しだけ、誰なのかも分からない、この夜着を用意した人物を恨んだ。
「私はまだ仕事が残っている。後で、そちらに行く故、支度をして寝室で待っていろ」
そう言い残して、さっさと立ち去ってしまった。
支度をして、寝室で待てと言うことは、そういう意味なのですよね。
また、公爵様のキスを思い出して、私は頬が紅潮するのを感じ、急ぎ足で部屋へと戻ったのだった。
※※※※※
部屋に戻ると、エブリンがそわそわとしていた。
「お、おかえりなさいませ!湯浴みの準備は出来ておりますわ!」
「あ、ありがとう……」
多分、エブリンも今夜のことを聞いているのね。姉妹のように育ったエブリンにそういう事を知られるのは恥ずかしい気はするのだけれど、これは普通のことなのよね。
「では、湯浴みをお願いするわ」
「かしこまりました」
エブリンが準備している間、私はお母様から聞いた閨の作法を頭の中で反芻する。
全て公爵様にお任せすればいいと、お母様は言っていたけれど、あのキスを思い出しただけで頭がくらくらする。
あの方と夫婦の契りを交わしたら、私は一体どうなってしまうのかしら。
甘い、胸の疼きと共に、不安が襲ってくる。
「お待たせいたしました。こちらへどうぞ」
「え、エブリン?私一人で入れるわ」
「今日は特別な日ですから、お手伝いさせてください」
そう言って、エブリンはにこりと微笑んだ。
湯浴み用の部屋は、公爵様用と私用と別にあるらしい。
寝室に隣接しているものは私用として使えとのことらしいけれど、こちらもまた信じられないくらいに広い。
実家の五倍はあるのではないかしら。
「旅の疲れが取れるように、香油を入れてありますからね」
「だからいい香りがするのね」
浴室全体が、春の花畑のような香りに包まれていた。
それにバスタブには生の薔薇の花びらが浮かべられている。こんなに雪深い極北では、生花なんて貴重でしょうに。
「このお花は?」
「なんでも、黒焔公爵様が直々にご用意下さったそうですよ」
「そう……」
瑞々しい薔薇の花びらを、私はそっと手で掬った。
すると。
薔薇の花びらが仄かな光を放った。そして、みるみるうちに、真っ赤な一輪の薔薇の花に変わった。
「え……?」
「凄いですわ、お嬢様!それは、癒やしの魔法ですか?」
私は、呆然と掌の薔薇の花を眺める。私は、魔法など使っていない。ただ花びらに触れただけなのに。
「私の魔法ではないわ。きっと公爵様のいたずらよ」
私は、ごまかすように微笑んだ。
髪も体も、エブリンによって丁寧に清められ、湯浴みを終えると、今度は体全体に先程と同じ香油を塗られ、マッサージをされた。
髪の毛は風魔法で乾かし、丁寧に櫛で整えられる。
「夜着はこちらを、との事です。では、私はこれで失礼いたしますね」
「ありがとう、エブリン」
「お嬢様、頑張って下さいませ!」
夜着を受け取ると、エブリンはそそくさと出ていってしまった。
私はため息をつくと、渡された夜着に袖を通す。
「こ、これ……」
着てみて、私は動揺してしまった。夜着は、胸元が大きく開いていて、リボン一つで簡単にはだけてしまうような構造。生地はいいけれど、物凄く薄くて、明かりの前では透けて見えてしまう。
こんな格好で、公爵様の前に立てというの……?
私は少しだけ、誰なのかも分からない、この夜着を用意した人物を恨んだ。
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