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29.温かな手
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モーリス侯爵令嬢がいなくなると、すぐにアデルバート様が私の所へいらっしゃった。
「何故このような……」
「申し訳ございません。サロンが滅茶苦茶になってしまいましたわ……」
「部屋などどうでも良い。お前の事だ、シャトレーヌ。」
「だ、旦那様!申し訳ございません!奥様は我々を守ろうと……」
「私達に結界を張ったせいで奥様が怪我をされたのです」
エブリン達が、必死に弁明してくれる。
でも、私の力不足が露呈したのは間違いない。アデルバート様はさぞかしがっかりなさっているでしょう。
「……今まであれの行動を咎めなかった私のせいで、お前に怪我をさせてしまった。すまない」
突然、私に向かってアデルバート様が頭を下げた。予想外のその行動に私は慌てた。
「アデルバート様、顔をあげて下さい」
私は、傷ついた手でそっとアデルバート様の手に触れた。
「モーリス侯爵令嬢を怒らせてこのような事態を招いたのは私の責任です。……それに、怪我を負ったのは私自身の力不足のせいですし……」
「いや、お前に非はない。……それより、早く手当を。……それからオーキッド、事の顛末を報告せよ」
「は、はい!」
「只今!」
アデルバート様の指示で、皆が一斉に動き始める。魔力が回復すれば、この位の傷なら治せるのだけれど、今はまだ駄目だわ。本当に、自分が自分で恨めしくなる。
「お嬢様……なんて無茶をなさるのですか」
用意された別室で、私は使い物にならなくなってしまったワンピースを脱ぐ。
エブリンが涙目になりながら傷口の手当をしてくれた。
「ごめんなさい……でも、あなた達が無事で本当に良かったわ」
エブリンを安心させるように微笑むと、頬の傷が傷んだ。
顔を顰めると、エブリンが心配そうな顔をした。
「頬と、手のお怪我が酷いです。私には手当をすることしか出来ませんから、魔力が戻り次第、すぐに治癒魔法を使って下さいね」
「分かっているわ」
ノックの音が聞こえ、アデルバート様が顔を出した。
「大事ないか?」
「ええ。ご心配には及びませんわ」
アデルバート様は私の側にやってくると、跪いた。
「オーキッドとメイド達から話は聞いた。シャトレーヌ、本当にすまなかった」
「アデルバート様が謝罪することではありません。私が上手く立ち回れなかったせいですと申し上げたではありませんか」
すると、アデルバート様は私の顔を覗き込んできた。
「……マリアンヌは私の父の妹の子だが、母親を早くに亡くし、我儘放題に育てられてな。酷い癇癪持ちも大人になってからも治らなかったのを、私も見て見ぬふりをしていた。あれが私に好意を寄せているのも知っていたが、妹のようなものとしか思っていなかったからな。……私の無関心が、結果的にシャトレーヌを傷付ける形になってしまった」
アデルバート様の大きな手が、私の頬の怪我に触れた。
優しく触れたその手を、私はここに来て初めて、心から温かいと感じた。
「何故このような……」
「申し訳ございません。サロンが滅茶苦茶になってしまいましたわ……」
「部屋などどうでも良い。お前の事だ、シャトレーヌ。」
「だ、旦那様!申し訳ございません!奥様は我々を守ろうと……」
「私達に結界を張ったせいで奥様が怪我をされたのです」
エブリン達が、必死に弁明してくれる。
でも、私の力不足が露呈したのは間違いない。アデルバート様はさぞかしがっかりなさっているでしょう。
「……今まであれの行動を咎めなかった私のせいで、お前に怪我をさせてしまった。すまない」
突然、私に向かってアデルバート様が頭を下げた。予想外のその行動に私は慌てた。
「アデルバート様、顔をあげて下さい」
私は、傷ついた手でそっとアデルバート様の手に触れた。
「モーリス侯爵令嬢を怒らせてこのような事態を招いたのは私の責任です。……それに、怪我を負ったのは私自身の力不足のせいですし……」
「いや、お前に非はない。……それより、早く手当を。……それからオーキッド、事の顛末を報告せよ」
「は、はい!」
「只今!」
アデルバート様の指示で、皆が一斉に動き始める。魔力が回復すれば、この位の傷なら治せるのだけれど、今はまだ駄目だわ。本当に、自分が自分で恨めしくなる。
「お嬢様……なんて無茶をなさるのですか」
用意された別室で、私は使い物にならなくなってしまったワンピースを脱ぐ。
エブリンが涙目になりながら傷口の手当をしてくれた。
「ごめんなさい……でも、あなた達が無事で本当に良かったわ」
エブリンを安心させるように微笑むと、頬の傷が傷んだ。
顔を顰めると、エブリンが心配そうな顔をした。
「頬と、手のお怪我が酷いです。私には手当をすることしか出来ませんから、魔力が戻り次第、すぐに治癒魔法を使って下さいね」
「分かっているわ」
ノックの音が聞こえ、アデルバート様が顔を出した。
「大事ないか?」
「ええ。ご心配には及びませんわ」
アデルバート様は私の側にやってくると、跪いた。
「オーキッドとメイド達から話は聞いた。シャトレーヌ、本当にすまなかった」
「アデルバート様が謝罪することではありません。私が上手く立ち回れなかったせいですと申し上げたではありませんか」
すると、アデルバート様は私の顔を覗き込んできた。
「……マリアンヌは私の父の妹の子だが、母親を早くに亡くし、我儘放題に育てられてな。酷い癇癪持ちも大人になってからも治らなかったのを、私も見て見ぬふりをしていた。あれが私に好意を寄せているのも知っていたが、妹のようなものとしか思っていなかったからな。……私の無関心が、結果的にシャトレーヌを傷付ける形になってしまった」
アデルバート様の大きな手が、私の頬の怪我に触れた。
優しく触れたその手を、私はここに来て初めて、心から温かいと感じた。
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