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コンクールへの招待状
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UCLAキャンパスにあるチャイニーズのファストフード・レストラン、パンダ・エクスプレスで、煮込んだソースがとろりとからめられたオレンジ・チキンと香ばしいフライドライスを食べ終えたところで、オレはこの前シャーリーンがくれたメッセージを読み返していた。両親とカナダのプリンスエドワード島をバカンスで訪れていた、その詳細のあとに、「作曲のほうはどう?」ってひと言添えられていた。
「えっと、まあまあってとこ」
そう答えておいたけど、ほんとはこの頃、ちょっと停滞してる。
気分が乗ってる時は、トランペットの練習も作曲も、両方うまくいくんだよね。相乗効果っていうか。だけどコンテストのことが気になって、そのせいで作曲のアイデアも滞り気味だ。
創作しようと取り組んでるオレのオリジナル・クラシックの曲は、大好きなリムスキー=コルサコフの、「シェヘラザード」へのオマージュ。今までに最も感銘を受けた作品の名を聞かれたら、オレは迷わず「シェヘラザード」と答えるだろう。リムスキー=コルサコフの崇高なオーケストレーション――オーケストラ演奏用の編曲のこと――には、遥か遠く及ばないんで、まだ半分しか完成してないけど。創作は、オレの夢のひとつだ。でも中盤から、自分の曲がシェヘラザードに影響され過ぎてるような気がするんだ。なんかオレの曲までエキゾチックになってきちゃって……。もう少しオレ独特のひらめき(?)みたいなもんが欲しい。
そんなことを考えてた時、手の中のスマホが震えた。新しいメッセージだ。
あれ、なんだろ、シャーリーンからかな?
スマホの画面には、メッセージの最初の部分が見えていた。
『あなたの応募作品が、一次審査を通過し……』
え……?
信じられなくて、つかの間ただスマホを握りしめてた。だけど、やがて衝撃の波がオレを鷲掴みにする。じっとしていられなくて、体は建物を飛び出した。
ウィルソン広場まで突っ走っても、全然気持ちはおさまらない。
……と、右側にジャンス階段(Janss Steps)がある。
うぉおおお!! 心の中で叫びオレはその八十六段の階段を、一気に駆け上がった。とにかく休みなく走り抜けた。
走っていないと焼けてしまうような、何か得体の知れないものがオレの体中を駆け巡っている。もどかしさで、一段跳びでのぼった。無意識のうちに六段目を飛ばしていたみたいだ。このジャンス階段には言い伝えがあって、六段目にはUCLAのために土地を提供したジャンス兄弟の遺体が埋められてるらしいんだ。遺体の上を踏みつけたくないから、自然にそうしてた。
苦しいほど息を切らせながら、噴水(シャピーロ・ファウンテン)のあるテラスまでたどりつく。
そこでオレはバックパックを地面に置き、震える指でメッセージを開けた。
『あなたの応募作品が、一次審査を通過しました。つきましては一月二十五日の最終審査にお越し下さるよう、ご案内いたします。場所はウォルト・ディズニー・コンサートホール、111サウス・グランド・アヴェニュー、ロスアンジェルス……』
やった、やったぜ! 思わず拳を空に向かって突き出していた。 どのくらい長い間、そうしていたんだろう。
ふいに吹き抜けていった風に首筋を撫でられて、ようやく現実の世界に引き戻されたオレは、まわりに視線を戻す。気がつくと、知らず知らずのうちに指に、力を込めてデバイスを握りしめていた。
よく考えたらさ、階段に映画やドラマの撮影スタッフもいなくて何よりだったよ。
ジャンス・ステップスは有名で、テレビドラマとかでしょっちゅうこの馴染みの階段風景を目にするんだけど、何しろさっきは、恥ずかしいくらいの熱血ぶりだったから。
冷静になって、辺りを見回す。
……と、最初に目に入ったのは、ハーブ・アルパート・スクール・オブ・ミュージックの建物だった。
「アンドレイニ先生……」
今すぐ先生に知らせよう。オレの報告を心から喜んでくれる人に! そしてこれからコンクールまでの短い間、指導してくれる大切な人に!
歩きながらしばらくの間、喜びを一人で噛みしめていた。それは決してエゴや、わがままな自己満足なんかじゃないんだ。つまり……音楽家っていうのは基本的に孤独なものだ。舞台の上に立つときは、いつだってオレ一人だけ……、誰も助けてくれるわけじゃない。たとえどんなに怖くっても、自分以外の誰にもすがることはできない。その孤独を乗り切ってパフォーマンスするだけの強い精神力を身につけるためには、この喜びを一人っきりで見つめることがとても大切なんだよ。
もちろん家族やシャーリーンやダニエルたちには、先生に報告した後すぐに知らせる。
でも今は、スクール・オブ・ミュージックの入り口まで歩いている間だけは、孤独なままでそれに向き合おう……。今オレの前にある、最大の課題に、たった一人で……。
「えっと、まあまあってとこ」
そう答えておいたけど、ほんとはこの頃、ちょっと停滞してる。
気分が乗ってる時は、トランペットの練習も作曲も、両方うまくいくんだよね。相乗効果っていうか。だけどコンテストのことが気になって、そのせいで作曲のアイデアも滞り気味だ。
創作しようと取り組んでるオレのオリジナル・クラシックの曲は、大好きなリムスキー=コルサコフの、「シェヘラザード」へのオマージュ。今までに最も感銘を受けた作品の名を聞かれたら、オレは迷わず「シェヘラザード」と答えるだろう。リムスキー=コルサコフの崇高なオーケストレーション――オーケストラ演奏用の編曲のこと――には、遥か遠く及ばないんで、まだ半分しか完成してないけど。創作は、オレの夢のひとつだ。でも中盤から、自分の曲がシェヘラザードに影響され過ぎてるような気がするんだ。なんかオレの曲までエキゾチックになってきちゃって……。もう少しオレ独特のひらめき(?)みたいなもんが欲しい。
そんなことを考えてた時、手の中のスマホが震えた。新しいメッセージだ。
あれ、なんだろ、シャーリーンからかな?
スマホの画面には、メッセージの最初の部分が見えていた。
『あなたの応募作品が、一次審査を通過し……』
え……?
信じられなくて、つかの間ただスマホを握りしめてた。だけど、やがて衝撃の波がオレを鷲掴みにする。じっとしていられなくて、体は建物を飛び出した。
ウィルソン広場まで突っ走っても、全然気持ちはおさまらない。
……と、右側にジャンス階段(Janss Steps)がある。
うぉおおお!! 心の中で叫びオレはその八十六段の階段を、一気に駆け上がった。とにかく休みなく走り抜けた。
走っていないと焼けてしまうような、何か得体の知れないものがオレの体中を駆け巡っている。もどかしさで、一段跳びでのぼった。無意識のうちに六段目を飛ばしていたみたいだ。このジャンス階段には言い伝えがあって、六段目にはUCLAのために土地を提供したジャンス兄弟の遺体が埋められてるらしいんだ。遺体の上を踏みつけたくないから、自然にそうしてた。
苦しいほど息を切らせながら、噴水(シャピーロ・ファウンテン)のあるテラスまでたどりつく。
そこでオレはバックパックを地面に置き、震える指でメッセージを開けた。
『あなたの応募作品が、一次審査を通過しました。つきましては一月二十五日の最終審査にお越し下さるよう、ご案内いたします。場所はウォルト・ディズニー・コンサートホール、111サウス・グランド・アヴェニュー、ロスアンジェルス……』
やった、やったぜ! 思わず拳を空に向かって突き出していた。 どのくらい長い間、そうしていたんだろう。
ふいに吹き抜けていった風に首筋を撫でられて、ようやく現実の世界に引き戻されたオレは、まわりに視線を戻す。気がつくと、知らず知らずのうちに指に、力を込めてデバイスを握りしめていた。
よく考えたらさ、階段に映画やドラマの撮影スタッフもいなくて何よりだったよ。
ジャンス・ステップスは有名で、テレビドラマとかでしょっちゅうこの馴染みの階段風景を目にするんだけど、何しろさっきは、恥ずかしいくらいの熱血ぶりだったから。
冷静になって、辺りを見回す。
……と、最初に目に入ったのは、ハーブ・アルパート・スクール・オブ・ミュージックの建物だった。
「アンドレイニ先生……」
今すぐ先生に知らせよう。オレの報告を心から喜んでくれる人に! そしてこれからコンクールまでの短い間、指導してくれる大切な人に!
歩きながらしばらくの間、喜びを一人で噛みしめていた。それは決してエゴや、わがままな自己満足なんかじゃないんだ。つまり……音楽家っていうのは基本的に孤独なものだ。舞台の上に立つときは、いつだってオレ一人だけ……、誰も助けてくれるわけじゃない。たとえどんなに怖くっても、自分以外の誰にもすがることはできない。その孤独を乗り切ってパフォーマンスするだけの強い精神力を身につけるためには、この喜びを一人っきりで見つめることがとても大切なんだよ。
もちろん家族やシャーリーンやダニエルたちには、先生に報告した後すぐに知らせる。
でも今は、スクール・オブ・ミュージックの入り口まで歩いている間だけは、孤独なままでそれに向き合おう……。今オレの前にある、最大の課題に、たった一人で……。
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