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妹とお試し彼女の意地のぶつかり合い、しかしそこにはとある人物達の仕事を邪魔している事になる

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 本屋では俺のバイト代を使って愛海に参考書を買って終わった。
 それからも色々と出かけて、帰る時には夜遅くになってしまった。

 現在厨房で愛海と雪姫が火花を散らしていた。

「今日からお世話になるんです。今日は私が晩御飯を作りますよ」

「良いんですよ。義妹いもうとなんですから義姉あねに甘えても」

「いえいえ」

「いえいえ」

 厨房で2人を見守っている料理人達の心は一致している。

(いや、我々の仕事なんですが)

 結局、1人の料理人の圧倒的最強の意見『親睦を深める為に協力する』で妥協されたのであった。

 リビングでは大きな食事のテーブルに4人、男女比は1対3に座って食事を取っている人達が居る。
 俺達である。

 西園寺は令嬢と言う事もあるのか、食事を取る姿は様になっていた。
 今日から生活がボロアパートから大きな屋敷に変わった。
 だけど、俺達兄妹は何も変わらない、そう思う。

「あ、あの。拓海君。その、お口に合いませんでしか?」

「いえ。食器等が綺麗過ぎて触る事を体が否定しているだけです」

 まじで手が動かん。
 仕方ないじゃん。割り箸を使い回していた俺達なんだ。
 こんなすぐに綺麗なスプーンや箸とか使えんて。
 なぁ我が妹達よ。

「ん? お兄ちゃん、とっても美味しいと思うよ?」

「うん!」

 若者の適応力と言うか順応性と言うか、凄まじいな。
 俺も、食べよう。
 今日は色々とあって疲れたし、良く寝れそうだよ。ほんと。

 お風呂は順に入る事になり、俺が最後になった。

「お兄ちゃん一緒に入ろぉ!」

 西園寺の攻撃によりそのような事は無くなった。

「お兄ちゃま入ろ!」

 西園寺の以下略。

「た、拓海君。一緒にて⋯⋯」

 使用人プラス愛海の努力の元、何とか収まった。
 使用人が1番大変そうだったな。
 やはり雇われる立場だからか、強く言えてなかった。

 そして、最初は愛海と海華が入っている。
 2人は1時間後に出て来た。

「て、2人ともなんで泣いてんの!」

「何かありましたか?」

「ち、ちがんです雪姫さん。あ、暖かい、お風呂、なんて久しぶりで」

「広かった⋯⋯」

 ごめん。不甲斐ない兄で。ごめん。そしてありがとう西園寺!

 俺も入る。うん。めっちゃ広かった。
 母親が生きていた時に一緒に温泉に行った時に見た温泉くらいの広さはあった。
 シャワーなんて5つもあるんだぜ。一般家庭はシャワー、1つだろ。

「暖かい」

 1週間に1回水風呂に入れるか入れないかの境界線をさ迷っていた時とは違う。
 これも全部西園寺のお陰なんだよな。

「なんで完璧な西園⋯⋯雪姫さんが俺なんかを」

 好きでいてくれるんだろう。
 確かに昔に女の子と遊んだ記憶はある。
 だが、具体的な事が全く思い出せないのだ。
 家族以外の異性と遊んだのってそれで最初で最後だったから遊んだ事は覚えているんだけどな。
 色々と気になる事が増えたな。

「ふぅ。そろそろ中に入らないと風邪引きそうだ」

 広くて足が動かなかったが、やっと動くようになった。

 用意されたパジャマ(高級感がある)を着て部屋に戻ると、ベットにゴロゴロしている妹達と正座している神威が居た。
 うん。何があった?

 内容はこうだった。
 俺を待つ間俺の部屋で遊ぶ可愛い妹達。
 俺が居ると思って帰りの挨拶をしようと思った神威がドアを開けて入る。
 高級感があるパジャマで背筋が痒くなった愛海は背中を掻いて居た。
 丸見えの背中。運悪くドアの方に向いていた。
 そこを目撃した神威。
 そしてこの現状になると。

「神威、お前が3億パーセント悪い」

「わー限界が見えないやぁ。と、どうだ慣れた?」

「いや、ぶっちゃけ今でも少し恐縮してるよ。どうしてこうなったのか未だに考えてる」

「はは。まぁ、俺は時々清掃業のバイトでここに来る事あるからまた会うかもな」

「⋯⋯お前が西園⋯⋯雪姫さんと仲が良くてびっくりだよ」

「何言ってんの? お前の事がなかったら話しかけられなかったよ。何故なら、西園寺お嬢は使用人に対して、うん、ええ、そう、しか使わないんだからな! あんな喋るなんて初めて見たぜ。それだけお前の事が好きなんだな。月曜日が楽しみだぜ! じゃ、俺は帰るわ」

 神威は部屋から出て行った。
 愛海と海華は流石に広い部屋で2人じゃ寝れないと言う事で、俺のベットで寝るようだ。
 ベットが広くてもいつもみたいにくっついて寝る。
 こんなに仲の良い兄妹も中々居ないだろう。

 にしても、西園寺が居なくても言葉に西園寺って出そうとすると背筋に針が刺さるような感覚はどうにか成らないものか。
 雪姫さん雪姫さん。雪姫さん雪姫さん。きちんと自然と言えるようにしておこう。

「お兄ちゃん心を無にして」

 何かを悟った愛海であった。


 日曜日午後21時。
 今回は早めの閉店となる。
 皆店長に呼ばれて店長の元に行く。

「すまないね。伊集院君、モブABCD君達、明日でこの店舗は閉める事になった」

「いやいや店長待ってください! モブAさん達をそんな略さないであげてください! そうじゃないです! なんで急に!」

「いや。伊集院君を除いて僕達はやる気が無くてね。それがお客の癪に触ったようでクレームの嵐。そして、本社からこう言う通達が来た」

「店長ならもっと頑張ろうよ! もっとやる気を見せようよ! 店長なんだよ!」

「伊集院君。店長って稼げる仕事じゃないんだよ?」

 そんな悟りを開いたような顔で言わないでください!
 これだと本当に全て西園寺に頼るような生活になってしまう!
 それはダメだ!
 妹達のプレゼントとか諸々は自分で稼いだ金で買わないと意味が無いの!
 しかも完全に俺悪くないやん!

「あ、安心してくれ。僕の伝で皆の新たなバイト先は見つけてあるから。ここよりも時給良いし、面接頑張って」

「ならいっか」

「もっと引き止めてょ」

『いえ、我々モブチームはバイトはもうやりません。正社員雇用が決まったので』

 そういえば、この人達30歳以上だったな。
 なんでこんな所でバイトしてたんだろう。
 と、その場所を店長から聞かないといけないな。

「で、それはなんですか?」

「あぁ。新たな場所とは、ズバリ、メイド喫茶のスタッフだよ。僕結構行くから」

 ⋯⋯俺、ちょっと変わっただけの平凡な高校生だった。
 だが、昨日のよく分からない告白と言えるか分からない物から学園の美少女と同棲して、バイトを殆ど失って、そして最後のバイトも消えて、新たな面接をする事になった。
 その場所は何とか、メイド喫茶らしいです。
 なんか、もう。あれだ、あーもうめちゃくちゃだよ。
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