とても可愛いです付き合ってくださいと言えと言われたので言ったら人生が壊れたんだが？〜平凡が才色兼備のクール系美少女と付き合ったら人生逆転？〜

第9話バイト面接かと思ったら即仕事、しかも厨房である。ホットケーキの注文が殺到して大変だ。

　現在昼食の時間。
　今回も屋上にて西園寺と弁当を食べる事になった。
　西園寺は愛海を尊重してくれ、俺の弁当を作って来ていない。

　愛海の弁当を食べていると、視界の右側から綺麗な卵焼きが姿を表す。

「拓海、君。あ、あーん」

　恥ずかしそうに顔を少しピンクに染めながら卵焼きを差し出して来る西園寺。
　その姿に少し惚けてしまったが、差し出されたと言う事は、西園寺が使った箸が卵焼きを掴んでいる訳であって⋯⋯。
　言動などから西園寺は頑張ってやってくれている。
　それに報いない俺ではない。

「頂きます」

　パク、と卵焼きを食べる。
　綺麗な形と色をした卵焼きはとても美味しく、酸っぱかったです。
　少し鼻にツーンと来るくらいには酸っぱかったが、美味い。

「美味いよ。ありがとう。酢でも使った？」

「分かるんですね。はい。ただ、ちょっと入れすぎた気がしまたが、大丈夫ですか？」

「うん。問題ないよ。愛海が作った物だけど、何か欲しい物ある？」

「拓海君が決めて、拓海君がくれる物ならなんでも」

　そうか、この中で1番美味かった物を選択するか、卵焼きを選択するか。
　ここは1番美味かったミニチーズ入りハンバーグを選択した。

「チーズ大丈夫？」

「はい」

　と、言う訳で弁当を差し出したら、プクーっと頬を膨らませる。
　とてもぷにっと押してやりたい気持ちはあるが、抑えて同じように箸に掴んで口元に差し出す。

「頂きます」

　垂れている髪をすっと上げて、上品に頬を少し染めながら食べる。
　口元に手をやって、口を隠しモグモグする。

「美味しい、です」

「愛海にその事を言ってあげてくれ」

「⋯⋯ムッ！　そ、それは私のお嫁さん的なプライドが」

　どんなプライドだよ！　と聞きたいが、そろそろ黙々と食べないと周囲の目線が痛い。
　ここで食べる人なんて殆どが恋人なのでこっちを睨まないで欲しい所だ。

　国語の時間にちょっとした事があったが、それ以外は普通に過ぎ去った。
　俺はバイトの面接へと赴く事にした。

　神威は部活、西園寺は俺の横を歩く。

「一緒に帰りましょう」

「ごめん。バイトの面接があるから」

「あぁ。そうでしたね。メイド喫茶の」

　どうして知っているのか、それを俺は聞く事が出来なかった。
　本能的に感じたのだ、それについて深く言及するな、と。
　俺は本能に従い何も言わなかった。

　メイド喫茶『アルフヘイム』である。
　なんとも大きな名前である。

　裏へと入り、内容を近くの人に言う。
　すると、奥に案内されて椅子に座る。

「早速だが、君は何しに来たのかね？」

「バイトの面接です。前職の店長から勧められて来ました」

「あぁ。君が伊集院君か。じゃ、早速制服に着替えて接客頼むよ。基本的に終わった食器の片付けと机拭き、食器洗いだから」

「え。サイズとかは⋯⋯」

「あぁ。その店長に聞いているから問題ないよ。⋯⋯どうしたの？」

「いえ。少し自分のプレイべートに関して疑問を持っいるだけです」

　制服に着替えてお前手に出る。
　早速注文を受けて、近くのメイド服の女の子に案内される。
　メイド服の女の子が何にするかを聞く。

「ご主人様、ご注文はお決まりですか？」

「うん。コーラ、お願いしようかな？　3本」

「はーい。愛を込めて、お持ちしますね」

　俺はそれを機械に打ち込んで行く。
　コーラ3本か、コーラが好きなんだな。
　他にも、オレンジジュース等などを頼まれ、全て行って、厨房の人と交代して、コップを洗う。
　本当に、そのくらいだった。

　結局、お店が閉店するまで働いた。
　メイドさん達は更衣室で着替えて出て来る。

「おつかれしったー」

「おつかれー」

　今日一日目で分かったのは、メイド喫茶が好きな人はメイド喫茶で働かない方が良いかもね。
　夢は夢のままで行こう。

　それからも数日働き、今日は「お嬢様」が来店したようだ。
　時々お嬢様は来店するのだが、今回はガチのお嬢様が来店した。
　帽子を深く被って、サングラスに黒いマスク、最近日差しも強くなっているのにコートを着ている。

　席に案内され、席に座るのと同時に脱いで半袖になっている。
　タオルを出して汗を拭いている。
　なんでわざわざコートを着て来たんだろうか？

　綺麗な銀髪は隠さないようで、正体はすぐに分かった。
　メイドさんの1人がお嬢様に向かう。
　そして、注文を聞く。

「これ」

　指を指したのはホットケーキだった。

　俺はここに来て数回のシフトを得て分かった事がある。
　ここに来る客は全員『飲み物』しか頼まない。
　つまり、初めての人は『飲み物』以外も頼むのだ。

「ホットケーキですね。愛を込めて作りますね（ニコ）」

「⋯⋯」

　せめて反応してあげて、西園寺。

　ただ、メイドさんのその声にこの場にいる客全員が固まる。
　その雰囲気にすぐに気づける程には皆が硬直していた。
　一体何があるのかと思ったら、俺が厨房に呼ばれた。
　しかも店長が居るよ。

「伊集院君、君厨房で働いた事あるんだよね？」

「えぇ、まぁ」

「じゃ、ホットケーキ、よろしくね」

「え、メイドさんが作るんじゃないんですか？」

「いやー最近は常連の人しか来ないから無視してたんだけど、店《うち》は料理下手な人しかいないんだよ。ホットケーキなんて何回も炭になったり、めっちゃ酸っぱくてはちみつだけじゃ誤魔化せなかったりと。だから、頼んだ」

「えぇ」

　それは喫茶店として壊滅的ではないだろうか？
　なるほど。だから客全員がひたすら飲み物を頼んでいたのか。
　納得はする。

　ま、仕方なしい、作る事にした。
　俺はバイト漬けで基本的に家では料理を作らない。
　さらに、愛海の気遣いにより弁当も愛海に任せている。
　だが、俺は様々なバイトによる経験がある。
　自慢では無いが、俺は浅く広く経験を積んでいると思う。
　なので、ホットケーキくらいなら普通に作れる。
　愛海は作った事があるだろうか？
　いつか一緒にやってみようかな。

　出来たらメイドさんに渡す。
　メイドさんは西園寺の机にそれを置く。
　西園寺の事を見守る客達。別に西園寺の見た目に惚れたと言う訳ではない。
　それに、この人達はメイドを求めているんだし。

「メイプルシロップをおかけ⋯⋯」

「結構」

「え。で、では、さらに美味しくなるおまじないを⋯⋯」

「結構」

「え、あ、畏まりました」

　西園寺、お前は何故にメイド喫茶に来たんだよ。

「頂きます（拓海君の働いている姿、『生』ではあまり見れなかったなぁ）」

　西園寺が1口サイズに切り分け、パクリとホットケーキを食べる。

「あ、美味しい」

　少しだけ頬を緩ませる西園寺。良かった。成功したようだった。
　だが、問題はその後だった。
　次々とホットケーキを注文する人が現れたのだ。
　しかも、その全てが俺の仕事になる。
　誰か、料理を覚えよう。特に店長は！