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おまけのお話
しあわせの向こう 上
しおりを挟むはじめまして、お久しぶりです!
見てくださる方がいらっしゃるのか心配なのですが、いらっしゃったら、心からありがとうございます。
完結したらお話はお終いだと思っていたのですが、まだ読んでくださる方がいらっしゃること、お気に入りに入れてくださったり、いいねを押してくださったり、エールを送ってくださったり、2を読んでくださる方がいらっしゃることに吃驚して、とてもとてもうれしく思っています。
ありがとうございます。
あふれる感謝の気持ちを籠めて、おまけのお話をお書きしました。
もしよかったら楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
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ぼやぽや、目が覚める。
精霊の樹のなかのお家で、ふかふかの寝台に埋もれた僕は、そうっと目を明けた。
春の朝の光にきらめく、さらさらの銀の髪が、目の前に広がる。
夢みたいで、でも引っ張る頬は、毎朝痛い。
「ふぇ」
毎朝泣きそうになる僕を、レトゥリアーレの腕が抱きしめてくれる。
最愛の推しの胸に顔を埋められるしあわせを、噛み締める。
レトゥリアーレに、愛されてる。
ちゃんと実感したし、毎晩うっとりするし、体感もするけど、でも、全部夢なんじゃないかって、怖くなるんだ。
何もかも、僕の都合のいい夢なんじゃないかって。
お買い得のトイレットペーパーを抱えたまま死んだ僕が見ている、最期の夢なんじゃないかって。
「夢じゃないよ、ルル」
毎朝、囁いてくれる唇が重なる。
あったかい、ふわふわの、やわらかな、最愛のくちびる。
「ね?」
微笑みが尊すぎて、しあわせすぎて、泣いてしまう。
ぐすぐすする僕の頭をなでなでしてくれるのも、レトゥリアーレの毎朝の日課だ。
「かわいー、ルル。
食べちゃいたい」
「……食べて」
ぎゅう、抱きついたら、ぎゅうう、抱きしめてくれる。
あったかくて、どきどきして、破裂しそうな鼓動で見あげる最愛は、今日も月の光をとかしたみたいにきらきらだ。
繋がる指が、重なる唇が、重なる瞳が、とろける想いに、溶けてゆく。
重なる鼓動が、重なる肌が、重なるぬくもりが、この指に宿るたび、夢じゃ、いやで。
傍に、いたくて。
傍に、いてほしくて。
しあわせの絶頂にいるから、想いがあふれて、涙がこぼれる。
「レリア」
僕だけが呼ぶ名が
「ルル」
あなただけが呼んでくれる名が、重なる唇に、とろけてく。
「えへへ、ただいま」
元魔王ゼドのお家の扉を開けたら、くっついていたジァルデとゼドがわたわた離れた。
「お、おかえり、ろー」
「おかえり!」
ジアとゼドが笑ってくれる。
『ただいま』を言える『おかえり』をもらえるしあわせにうっとりした僕は、ジアの頬がちょっと紅くて、うなじにきれいな朱い痕があって、もふもふのゼドのつややかな黒毛までほんのり赤い気がすることに、ようやく気づいた。
「ごめんなさい! めちゃくちゃお邪魔だった!」
顔を覆って駆け去ろうとする僕を、ジアのしなやかな腕が抱き留めた。
「ろーが邪魔だったことなんて、一度もない」
「そうだぞ、ろー!」
もふもふの手が、頭をわしゃわしゃ撫でてくれる。
「……大事な息子なんだから。いつでもかあちゃんを頼れ」
ほんのり朱い頬で囁くジアに、僕の瞳が泣きだした。
「うわ!」
わたわたするジアとゼドの腕に包まれる。
「と、とうちゃんも、いつでも頼れ! ろーをいじめる輩をぽこぽこにしてやる!」
ぎゅうぎゅう抱きしめてくれるぬくもりに包まれる。
「……しあわせすぎて、死んじゃう」
「だめ」
ジアが笑う。もふもふの毛を揺らして、ゼドも笑った。
ぽふぽふ、ふたりの手が頭を撫でてくれる。
「夢じゃないよ、ろー」
祝福のように額に降る唇に、ふたりの背を抱きしめた。
「絶対、絶対、絶対夢だと思うんだよ。でも泣いちゃうくらい、夢だとやだ」
「はいはいはいはい、うざい自慢をありがとー!」
最低のクズを見る目で、風磨が僕を見た。
風磨の僕に対する当たりは、今日も厳しい。
さやさや、精霊の樹が揺れる。
元気になってきた獣人さんたちの歓声があちこちで聞こえる、ゼドのちっちゃな村は、春の陽射しできらきらだ。
チチェとエォナのおかげで広がってゆく畑の向こうで、魔山羊のおかあさん、おにいちゃん、おとうさんが魔草をはむはむしてる。
「これ以上ないから。全部僕の都合のいい夢だとしか思えない」
呟く僕に、風磨は鼻を鳴らした。
「なんで幸せ自慢の相手が俺なんだよ。厭味かよ」
「風磨たんなら、僕の後ろ向きな感じを解ってくれるかなって」
「うわ、お前、俺のこと嗤いに来たの?」
「全然ちがうよ、仲間だろ!」
風磨の榛の瞳が瞬いた。
ふうわり、風磨の眦が赤くなる。
「……仲間って……思ってくれんの?
ひでえことしか言ってねえけど」
「風磨たんが、ほんとに思ったことを言ってるだけだろ。
裏表あるよりずっと信頼できるよ」
赤くなった頬を隠すように風磨が顔を伏せる。
「……ありがと」
ぽそぽそした聞こえないくらいの囁きに微笑んだら、また風磨の顔が赤くなった。
「熱あるの? だいじょうぶ?」
伸ばそうとした僕の手が、ちいさなもふもふの虎の手に握られる。
グィザのちいさな弟、ネィアだ。
「ふまたん、うわき、いけません」
「し、してない! お、俺はネィア一筋だから!
なんか……仲間とか……信頼できるとか、言ってもらったの初めてで、びっくりして……うれしくて」
ぐすぐす鼻を鳴らす風磨を、ちっちゃなもふもふの腕が抱きしめる。
ぽふぽふされた風磨は、とろけるような顔で笑った。
「風磨たんも、しあわせの絶頂だ。よかった」
笑って、手を挙げた。
チチェとエォナが見事な大根を引き抜いて、笑ってる。
精霊の樹がさやさや揺れて、研究するキュトをやさしく包んだ。
春の光のなか、つややかなクロが駆けてくる。
「ろー!」
飛びつく大きな身体を抱きしめた。
「いっぱい遊んだ?」
獣人の子どもたちに遊んでもらったクロの尻尾はぶんぶんだ。
「ろーもあそぶ!」
「ふふ、じゃあ背中にのせて」
「のって、ろー!」
ふわふわの背に跨ったら、風のようにクロが翔る。
地を、天を、自在に翔られるクロの全速力に悲鳴をあげないのは僕だけらしい。
「ろー、たのしー?」
「とっても。クロは?」
「たのしー!」
ぎゅっとクロを抱きしめる。
「……僕を護ってくれて、僕と一緒に生きてくれて、ありがとう」
真っ黒な瞳が、僕を見あげる。
「クロも、ろー、すき」
ちゅ。
嘗められた僕は、とろけて笑った。
「クロ、だいすき!」
ぎゅうぎゅうしてたら、ふわりと銀の光が舞い降りる。
「う、うわきは、だめだから」
真っ赤になって、ちょっと頬をふくらませて、拗ねたみたいに唇を尖らせるのが、最愛の推しだなんて、尊すぎて泣いてしまう。
「わ……! ご、ごめん、あの、クロにまでやきもちは、よくないって思うけど、だってクロめちゃくちゃかわいーから……!」
ちょっと涙目なレトゥリアーレに、クロがえへんと胸を張る。
「クロ、かわいー」
「あーもー、だいすき!」
クロとレトゥリアーレを一緒に、ぎゅうぎゅう抱きしめた。
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