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第20話 決闘事件から三日後

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 ――あの決闘事件から三日後。

 本物のエキャルラット辺境伯がお屋敷の部屋で見つかった。


「あの日……帰宅前にインフラマラエ侯爵と会ったのです。彼女とは面識がありましたからね。まさかあの侯爵にも化けていたとは。――それから、変な男に縄でグルグル巻きにされ、口も塞がれていたんです。まさか、息子たちが決闘だなんて……それで二人はヴァインロートの男に騙され、傷つけ合い……なんて愚かな真似を」


「ですが、辺境伯の姿だったので……」


 わたしは事の経緯を詳しく説明していた。
 納得したエキャルラット辺境伯は席を立たれ、外を眺められた。


「――スピラ様、貴女はこの帝国ウィスティリアを去り、カエルムと共に聖域領地クォ・ヴァディスで暮らしなさい。その方が安全だし、万が一にもまたヘルブラオ・ヴァインロートのような卑劣な男が現れないとも限らない。貴女が良ければですが」


「あ、あの……」

「なにがご不満でも?」


「いえ、その……オムニブス枢機卿が教会に毎日通うようにと……」


 ああ、そういう事かと頭を押さえられる辺境伯。こちらに向かれ「それは私が話をつけておく」と言ってくれた。


「ありがとうございます、辺境伯。わたし、カエルム様を心より愛していますし、その、幸せになります」

「その方が息子も喜ぶのですよ。――そら、来ました」


 扉をノックする音が。
 この優しい気配はカエルム様ね。
 聖女になってから、わたしは気配を感じ取れるようになっていた。だから、これは確実。


「入ります、父上」


 すっかり回復されたカエルム様が部屋に入って来る。……良かった、一度は目を覚まさなくて死んでしまったかと冷や冷やした。

 けれども、わたしは最後の手段でカエルム様の唇を――…ぁ、思い出すだけで顔が赤くなる。


 まさか、わたしのキスで目覚めて下さるなんて……やっぱり、愛の力は偉大ね。


「カエルム、今しがた全てを把握しました。苦労を掛けましたね」

「いえ、父上。全ては僕の失態です。大切な兄上さえ傷つけてしまった……罰は如何様にも……」


 頭を下げられるカエルム様は、処罰を覚悟していた。


「良いのです、カエルム。お前はよくやってくれました。ユーデクスも褒めていましたよ。カエルムは立派なったと」


「……兄上」


 そう聞かされ、カエルム様は微笑まれた。
 やっぱりお兄さんを尊敬してるのね。


「――さて、私は屋敷をしばらく空ける。妻と共に別の領地へ行かねばならないのです。カエルム、お前には聖域領地クォ・ヴァディスへの所有権を譲渡しますよ。この黄金のカードを持ち、コンコルディア地方にある森へ向かうんです」


「僕とスピラ様の婚約を認めて下さるんですか?」

「もちろんです。幸せに暮らしなさい」


 金色に光るカードを受け取るカエルム様は、こちらへ。そのまま静かに腰を下ろし、婚約指輪を取り出された。


「スピラ様、僕と一緒に聖域領地クォ・ヴァディスへ行ってくれますか」
「はいっ……喜んでお受けします」


 了承するとカエルム様は、ぎゅっと抱いて下さった。わたしもそれに応えた。


「愛しております、スピラ」
「わたしも愛しています」


 ◆


 お屋敷の玄関前。
 ユーデクス様が見送りに来た。


「もう行くのかい、スピラ様」
「はい……わたしは聖域でカエルム様と共に暮らします。それが望みです」


「分かった。止めはしないよ。母さんはちょっと寂しそうだったけど、でも、聖域領地にもたまに顔を出すと言っていた」


 そっか。もう辺境伯とお母様は出られて……でも、きっとまたいつ逢える。いつかまた挨拶しに行かなきゃならないから――。


「今までありがとうございました、ユーデクス様」
「いや、俺はただ……カエルムの背中を押してやっただけさ。けど、スピラ様の事は割と本気だったよ。そうでなければ、あの決闘はあそこまで本気になれなかったからね」


 真実を聞かされ、驚く。


 ――ま、まあこれから、お義兄にいさんになると思うし、ハグくらいいわよね。


「あ、あの……お義兄にいさん」
「き、気が早いな。――これは兄として、でいいかな」

「そうなります」

「……大ケガした甲斐かいはあったな」

 照れくさそうにユーデクス様は、わたしから離れた。


「……それでは、お元気で」
「お幸せに」


 ◆


「この馬で聖域領地クォ・ヴァディスを目指します」


 馬……というか、どちらかと言うと猫。
 モコモコのモフモフな動物だった。


「……こ、この子に乗っていくんですね。大きい猫ちゃんですね」
「ええ、訂正します。猫でした。名はカーリタースと言いまして、世界最速の足を持っています。かなり早いですよ」


 そうなんだ。
 カエルム様の手に掴まり、騎乗する。

 猫ちゃんの背中はモフモフで乗り心地も最高だった。なにこれ……ちょっとイイ。


「よろしくお願いしますね」

「ええ、では……まずはアスプロへ?」

「そうですね……まずは両親に謝りたい。それから、聖域へ」


 うなずくカエルム様は、馬……いえ、猫を出発させた。
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