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スライムが現れた1

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 中に入ると、色とりどりの光がダンジョンの内部を照らし出した。

 とても綺麗だ。

 この光の正体はダンジョン内部から溢れ出す魔力が結晶となって発光するものだ。

 FランクやEランクのダンジョンの場合は、この魔力の結晶があまりにも小さすぎてほぼ真っ黒だ。

 だから、ギルド会館が王宮財務省から予算をもらって光る魔石を設置したりするのだが、ここはダンジョン内部の魔力だけでもこんな明るい。

 まるで宇宙の中を飄々と漂っている気分がした。

 僕は息を深く吸った。

 この名状し難い匂いを嗅いでいると、6年前の出来事を思い出す。

 プルースト効果。
 
 ここは6年が過ぎてもなにも変わってない。

 岩の間に生える謎の雑草や、正体不明の鉱物。

 それなりに知識はあるはずだが、このSSランクのダンジョンにあるものは学術的に研究されてないものが多い。
 
「……行こうか」

 と、足を動こうとした瞬間、

「……」

 モンスターが現れた。

 羊だ。

 黒い羊である。

 僕はこいつの名前を知っている。

「キングダーク羊……」
「メェ」

 そう。

 こいつの名はキングダーク羊だ。

 王立マホニア魔法学院研究所の論文によると、キングダーク羊はSSランクに生息するモンスターのうち最も弱いモンスターと言われている。

 だが、やつはSS級だ。

 最強と言われるSランクの魔法使いが十数人ほどタッグを組んで攻略しないと絶対倒せないモンスターである。

 こんな小さな羊一匹狩ろうとしても、国家レベルで取り組まないといけないモンスターである。

 そんなキングダーク羊は僕を見つめてくる。

 すると、ふわふわな毛は数え切れないほどの円錐に変わって、

「メエエエエエエ!!!!!!!」

 僕に突進してきた。

「っ!」

 僕はびっくりした状態で逃げ始める。
 
 やつの棘のような円錐に刺されでもしたらただじゃ済まされない。
 
 僕は必死に逃げた。

 やつはというと、ずっと僕の後ろをついてきて、円錐に膨大な魔力を込める。
 
 円錐の先はすでに真っ赤になっており、毒でも入ってそうなビジュアルだ。

「まずい……」
 
 そろそろ体力的に限界を迎えようとする俺。

 そんな僕の横に小さな洞窟のようなものが見えてきた。

 僕は早速横にある洞窟の中に入った。

 キングダーク羊は真っ直ぐ走ってゆく。

 だが、僕がいないことに気づいたキングダーク羊は後ろに振り返ってありとあらゆる方向に体当たりしてきた。

 やつは怒っているようであった。

「メエエエエエエ!!!!!!!メエエエエエエ!!!!!!!」

 やつが体当たりした壁は壊れていき、大きな穴の数々が出来上がる。

 もしあれに刺されると思うと本当にゾッとする。 

 冷や汗をかいている僕。

 そんな僕の後ろから気配がした。

「シャアアアア!!!!」

 という音を出しながら僕の後ろから白い何かが放たれてゆく。

 その白い何かは暴れるキングダーク羊に付着した。

 まるで大きな蜘蛛の糸のようだ。

 やがてキングダーク羊は巨大な蜘蛛の糸に抵抗する間も無く引っ張られ、僕の方へ飛んで後ろの方へ過ぎてゆく。

 僕は後ろを振り向いた。

 そしたら

 そこには10メートルを悠に超えそうな巨大な蜘蛛がキングダーク羊を捉えて牙で毒を注入している。

 牙が長いので巨大な蜘蛛は傷を負うことなく毒を注入してゆく。

「ああ……」
 
 あまりにも生々しくも物々しい光景に言葉を失った俺。

 足に力が入らない。

 一度も見たことのないモンスターだ。

 僕は残っている力を振り絞って重たい足を必死に突き動かした。

 外に出たい。

 来た道を戻れば外に出られる。

 そんな考えが僕の頭を支配したが、僕はこのダンジョンの奥深いところへとかけてゆく。

 勇気を搾り出して確かめるんだ。

 僕は歯を食いしばって走った。

 十数分ほど走った。

 目の前には小さなトンネルが見える。

 あそこを通れば約束の場所だ。

 爆発寸前の心臓に休みを与えることなく、僕はまた全力疾走した。

 トンネルを通る。

「はあ……はあ……」

 トンネルを通り抜けた。

 とても大きいな広場のような空間が広がる。

 だが、ここには誰もいなかった。

「……」
 
 シーンと静まり返るこの広々とした空間で僕は立ち尽くす。

「はあ……はあ……ぷるんくん……」

 僕はあの子の名前を呼んでみた。

 だが、誰も返事をしてくれない。

「ぷるんくん……ぷるんくん!……はあ……」

 大声で名前を呼んでもなんの反応もない。

「……」

 僕は握り拳を作った。

 そして思いっきり叫んだ。

「ぷるんくん!!!」

 木霊するほど大きな僕の呼び声。

 僕は目を潤ませる。

 すると、

 向かい側の大きなトンネルから音が聞こえてきた。

「……」

 僕は目を丸くして、向かい側のトンネルに期待に満ちた視線を向けた。

 まさか

 僕の声を聞いてあの子は……




 だが、

 トンネルから現れたのは、20メートルは悠に超える大きさのキングレッドドラゴンだった。

 こいつは間違いなくキングレッドドラゴンだ。

 途轍もなく強いドラゴンで、人間がこいつに勝ったのは確か100年前か。
 
 ラオデキヤ王国と周辺国家の関係が非常に良かった時に各国のエリート魔法使いをかき集めて国際連合軍を組んで、このドラゴンに挑んだという本を読んだことがある。

 結果、キングレッドドラゴンに勝利したが、エリートからなる国際連合軍はほぼ全滅した。

 なので、その出来事以降、強いSSランクのモンスターを狩るという話は出なくなった。

 それだけでなく、SSランクのモンスターを攻略する話自体がタブーとなった。

 それほどこいつは強い。
 
「……」

 僕は言葉を失った。
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