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第16章 冬のリゾート

第126話 遠くの暗雲

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 ジュリアと相談して昼食は海鮮丼にした。ブリもどき、カツオもどき、黒鯛もどき、人相の悪い魚、鯖の5種盛りだ。

 酢飯はグルーチョ君を召喚して米炊きから全部やらせた。奴がいると飯炊きの手間が省けて大変に楽だ。自動炊飯器というには多機能すぎるけれど。
 ジュリア特製の海鮮すまし汁もついて準備は完璧。しかしだ。

「フィオナ、遅いな」

 他の皆さんは既に別荘に戻っている。

「何なら連絡してみましょうか」

「俺が見てみるよ」

 まずは未来視でフィオナが帰ってくるか確認。

「あと6半時間10分程度で戻ってくるみたいだ」

「何をやっているか見えるか?」

「いや、そっちはまだやっていない」

「それくらいで帰ってくるのなら様子を見る必要は無いのでは?」

「それもそうだな」

 そんな訳でしばし待つことに。

「ところでテディはずっと露天風呂にいたのか?」

「ええ。何か今日はだるくて。調子が悪いというのとは少し違うのですが、ぼーっとしていたい感じだったので」

 単に露天風呂好きというだけではないだろうか。俺はそう思ったのだけれど、何故かミランダはにやりとする。

「それはひょっとしてひょっとするんじゃないか。テディ、本来ならもう来ている頃だろうけれど来ていないんじゃ無いか?」

 どういう意味だろう。わからないけれど場の雰囲気にあわせてあえて聞かないでおく。

「そう言えばまだ来ていないですわ。ってひょっとしてそういう事でしょうか」

「まだ判断は早いです。来るはずだった日から1週間6日経っても来ていなければ念のため医療魔術師さんに確認してもらった方がいいでしょう」

「フィオナでもわかるだろ。前にその辺の原稿を書いていたしな」

「めでたい」

「まだわかった訳ではないですけれど」

 ここまで話が進むと流石の俺でも状況は読めてくる。

「出来たのか」

「まだわからないですわ」

 確かにそうだ。

 でもついに子供まで出来てしまったのか。何かもう責任重大だ。
 テディ達だけなら貧乏になろうとも多少は何とかなる。でも子供が出来たとなるとそうもいかない。これからも今まで以上に安定して稼がないとならない訳だ。
 日本文学、スティヴァレで飽きられる事は無いよな。

「とりあえず今週はテディは当番なしな」

「それはないですわ。お話をするだけでも必要です」

 おいおい昼間から何という話をしているのだミランダ。

「ただいまー」

 そんな雰囲気の中、フィオナが帰ってきた。

「また偽アシュが出たようだよ。ついでだから号外を各種買ってきた」

 おい。ただでさえ情報過多なのを更に複雑にするな。いやそういう問題じゃないか。

「お疲れ。こっちはテディがご懐妊なんじゃないかって。まだ予定日3日目だけれど来ていないんだと。わかるか?」

「それくらいだと診断は難しいかな。でもとりあえず今日からは生ものは全部魔法で殺菌殺虫してから食べないとね、念のため」

 おいおい、話が早いというか簡単だな。もっと深刻に考えたり感じたりしないのだろうか。

「アシュは何か深刻にとらえているようだけれど既定路線だからね。むしろ遅かった位かな」

 フィオナ、俺の表情を読まないでくれ。

「そうそう。だからテディはしばらく気をつけて生活しようという事でさ。ところでアシュの偽者が出たという方はどんな感じだ」

「いつもと同じパターンだよ。今度はアレドア伯爵家だって」

「予想通りだな」

 確かにその話も気になるな。そう思った時だった。
 キュー、キュー、キュー、キュー。ミニ龍達が何かを訴えはじめた。

「すみません。ご飯はまだかと言っています。本当は必要ない筈なのですけれど」

 キュー、キューキュュュュウー。二頭はナディアさんの台詞に抗議するように一層鳴き声を強める。

「そうだな、昼食にするか。一応準備も出来ているし」

「おなかすいた」

 ジュリアも後押ししてくれる。

「そうだな。飯を食べてからでもゆっくり号外を読めばいいか」

「そうですわね」

「それで今日の昼食は?」

「海鮮丼。ジュリアがここで釣った魚メインの新鮮な奴」

「新鮮な魚って独特の歯ごたえがあって美味しいよね」

 皆で食堂へ移動し、自在袋に入れておいた海鮮丼セットを取り出す。

 ◇◇◇

「物価も上がっていたからなあ。そろそろ来てもおかしくないとは思っていたのだけれどさ」

 昼食後、皆でフィオナの買ってきた号外6紙を回し読み中。

「米も小麦粉も値段が上がっています。夏の事件の後、価格が落ち着いた頃に比べると3割以上上がっている感じです。叔父もパンや惣菜を値上げせざるを得ない状況だと言っていました」

 叔父って……ああ、啄木鳥ピカスの親父さんか。確かに原材料が値上げしたらその辺も値上げせざるを得ないよな。

「炊き出しに並ぶ人も増えてるようだよ。今年も何回か商会名義で救護院に寄付したけれど現場は大変だって。物価は上がっているのに並んでいる人が増えているから、かなり持ち出しが出ているって言っていたな」

 救護院は聖神教会の下部組織で貧民救済活動を行っている部門だ。

「でもパターンで言ったら近日中にもう1件あるよね、きっと」

 確かにフィオナの言う通りだ。去年の冬からだいたい起こる時は2~3件発生する感じだし。

「陛下も大変でしょうね」

 確かに大変だろうと思う。貴族連中に文句を言われながらまた改善措置をしなければならない。しかも実際に偽チャールズ事件、やらせているのは実妹であるロッサーナ殿下だし。

「問題はこうやって偽チャールズ事件を使って是正する仕組みが何処まで持つかですね。これが通用できなくなった時点で次の段階になってしまうのではないかと」

「そうだね。確かにナディアさんの言う通りだ。どれくらい続けられるのかな」

「今の貴族達は根本的な改革を受け入れるつもりはないでしょう。ですから終わりはきっと来ます。いつ始まるかだけがきっと問題ですわ」 

 多分テディの言う通りなのだろう。せっかく子供が出来そうだという時なのに。
 せめて平和に何とかならないだろうか。そうするにはどうすればいいのだろうか。

 いざそうなった時には俺も率先して動くべきなのだろう。その際一般の知識の下地となる本は既に何冊か送り出している。
 でも出来れば今のちょっとドキドキするけれど穏やかな生活が続いて欲しい。
 そのために俺は何が出来るのだろうか。何をするべきなのだろうか。
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