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「よし、帰ろう」
徒歩圏内のコンビニで支払いを済ませ、チケットを発券してもらった。そのチケットを大切にカバンにしまい、歩き出す。夏ということもあり、日も長い。しかし、もうお盆も近くなると夏の中でも短くなってきているのだと感じられるくらいの暗さ。
「ただいま」
あんまり歩かないでいい距離なのに汗をかいてしまった。玄関から入り、カギをしてからすぐに服を脱いでもう一度、シャワーを浴びる。シャワーを終えて完全に部屋着に着替えてから窓を開けて風通しを良くする。ゆっくりしようとベッドに腰かけてスマホを見た。
「あ、メッセージ……」
仁人さんから少し前に返事が来ていて、電話したいという内容だった。今日はもうバイトもないから時間はある。その旨を伝えると連絡は電話で返ってきた。慌てて部屋の窓を閉めて電話を取る。
『もしもし、今いいか?』
「はい、お疲れ様です、仁人さん」
『奏も、お疲れ様。その、朝のメッセージ見た。帰るんだな』
「はい、二週間ほど、東京を離れることになります」
『実家ってどこだっけ?』
「あ、話してなかったですよね。四国の高知県の西のほうに近いです。家からの最寄り駅はここです。周りはこんなところです。高知市内に出るのに、高速道路で五十分弱でしょうか」
写真をメッセージアプリで送りつつ、説明する。山に囲まれていると言えば、囲まれているけれど、海も近い。私の家のある周辺も山や畑ばかりだけど……。別に家に招待するわけじゃないから、最寄り駅周辺も地図アプリの航空写真で送る。
『あ、写真ありがとう。山ばっかだな、周り』
「そうですね、山ばかりです。でも有名な市場も近いですし、車は必須ですけど、不便だと感じたことはないです」
『そうなんだな、意外だ』


『俺、いつか行ってみたい。高知県って行ったことがないんだ」
「そうながですね……。ゆっくりするがには、最適かもしれんです」
『なあ、俺、奏が不在になる二日前くらいに一回だけ休みがあるんだ。家に、会いに行ってもいいか?』
「せっかくのお休みなのに、いいんですか……?」
『どうしても、会いたいんだ』
「わかりました、夕方までアルバイトがありますけど、夜以降なら空いてます」
『ありがとう、帰ってきたら教えてくれ』
「はい」
そこで電話は終わり、次も会いに来てくれる、という約束ができた。また、次がある、そのことが嬉しくて。私と関係を続けることを望んでくれているのだと、自惚れてしまいそうだ。
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