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24、それぞれの葛藤、というよりは我慢大会。▷

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「……大丈夫か、ハヴィ……。」

「……だ、んちょ……」

僕ハヴィじゃないんです、だから……お願いです。
『手を出さないでください』と言いたいが、喉が腫れている様な痛みで言葉が出ない。

フードを被ったまま、ベッドに寝かされている状況。
腰が抜けてうずくまっていたオルトを介抱するべく、シスルは抱き抱えベッドへと寝かせた。

シスル自身も呼吸は荒く苦しそうだが、自分の着ていたシャツを脱ぎそれを口元にあて、なるべく香を吸わないように頑張っている。

だが息も絶え絶えに喋る言葉によると、最後に第一の団長と話したところまで覚えているらしい。
そこから誰かに襲われ、既に薬で眠らされた挙句、十分すぎるほどの香を吸った後と認識している。

それはとある一部が十分すぎるほど、目立ちまくっているので自己判断した。
通常時は知らないが、暗闇でも自己視聴がすごくめっちゃ目立つしで、現状もうそこにしか目線がいかない。

あれから動けるうちに、何とかランプを見つけ火を灯した。
それでもランプだけの灯では薄暗いのは変わりはないが、ないよりマシだった。

お互いの姿は認識できるし、不都合は今の所ない。
だがしかし見えるようになってしまったからか、香のせいかは知らないが、もう目線が固定されつつあるのだ。

あああ、おかしい何でだあ!
ハァハァと息が上がり苦しそうに呻くと、心配した団長が自分の方へと駆け寄ろうとする。
それを慌てて手で静止、近寄らないでと合図する。

今近寄られたらやばい。
逆に我慢の効かない自分が彼を襲いかねん。
自分がこんなに快楽に弱い人間だとは思わなかった。
相手は団長だぞおい、全然好みじゃないハズだろ!あ、でもタレ目は好きかも。

自分の性欲はない方だと思っていた。
誰かを求めるような恋もしたことがない。

いつもハヴィの一喜一憂を傍で聞いてるだけだった。
だからこそ、こんな体の感覚は知らない。

ぐあんとくる波打つ何かの感情で、体の芯から誰かを求めている感じで痺れている。
熱いとか言う感覚ではない。痺れて焦がれているのだ。

『……しかしデカすぎる。』

あんなんが突き刺さったら死んでしまうのではないか。

なんて考えているせいか、目線が外せない。
団長の一部を見つめながら、こんなこと考えている自分が自分ではないようで怖かった。

一方で団長の方は……。

思い焦がれている(と思っているだろう)相手が目の前で上げ膳据え膳という状況。
理性を保つのがやっとで、何とか紳士でいようと頑張っているのに。

目の前の相手がどうも、自分の下半身を見ているような気がしてならない。
そんなわけがないまさかハヴィがそんな事と思いながら、フードから見える顔の傾きがどうにもそんな気がして。

いやいやそんなわけない。
ハヴィに限ってそんなはずは。

まるでご馳走を前にしている猛獣のように、唾液を飲むたび音がなる。
それがハヴィに聞こえているのではないかとヒヤヒヤした。

「……喉、乾かないか?」

一応、直ぐそばに水差しが置いてある。何か盛られている可能性もあったので、まだ手をつけていない。
だが彼はシスルの言葉に何も答えず、小さく首を振った。
そして甘い吐息が口から漏れると、うっすらと見え隠れるその唇に飛びついてしまいそうになった。

よく我慢できているなと自分を褒め称えたい。
体の一部は我慢できていないけど、それでも理性はギリギリで生きながらえている。

一応は『婚約者』なのだが。
でもこれはお互いの勘違いのせいで起きた事故だと、彼は思っているだろう。

この誘惑に負けてを出してしまったら、そのまま結婚までは簡単かもしれない。
だが一生心は手に入らない。

子供の頃からラブラブな両親に憧れていた。
大恋愛の末の結婚だったといつも自慢げに話聞かせる両親に、いつか自分もこんな伴侶を娶りたいと強く思うことが自分を募って拗らせていった。

人からはロマンチストだと揶揄われたことが多かったのだが、そこの信念は曲げるつもりがなかった。

だからこそ、この年まで独身だった。
正直軽い付き合いや言い寄られたりすることも多かったが、どの恋愛も心を動かされることはなかった。

恋愛に関して慎重だったはずの自分だったのに、ハヴィのあのプレゼントに、いとも簡単に心を捉えられてしまったのだ。
少し不格好だったが手作りのカフス。
そこに自分への想いが見えた気がしたのに。全ては勘違いだったなんて。
だがそんな事言われてももう止められなかった。
一度愛を知ってしまうと、この気持ちは止められない。

勘違いだと分かった後も、婚約解消をあの手この手で引き延ばしている現状。
彼はもう自分のことを呆れたかもしれない。
好きな人がいると彼は言っていた。
反対になぜその好きな人が自分じゃないかと、怒りも湧いた。
ここまで人に心を動かされたのは、自分史上初めてだったから。

そんな相手が今無防備に手の届くところにいると言う誘惑。
罠に嵌められたのだから仕方ないんじゃないか?

いやだめだ、好きだからこそ我慢して信頼回復だ。
でも、もう我慢は限界じゃない?
いいじゃんいいじゃん、こんなご馳走、もう食べちゃえよ。
そんなのダメに決まっている。

閉じ込められて、どれだけ時間がたっただろう。
こんな葛藤をもうずっと頭の中で繰り返している。

ハァと大きく息を吐くと、ベッドの上の『婚約者』はびくりと体を震わせる。
きっとこの現状や自分のことが怖いのだろう。その度に申し訳ない気持ちで、胸が痛んだ。

彼は自分に触れられたくないのだ。
こんな状況にしても、だ。

そんな『拒絶』に泣きたくなってくる。
またハァと息を吐くと、シスルは片手で頭を抱えた。



徐にベッドからオルトは起き上がった。
下半身に溜まっていく熱に理性を失いかけていた。

もうダメ苦しい何これもうだめ。

体が火照り、一生懸命上着を脱ごうとしている。

「ど、どうした?暑いのか?」

シスルの言葉にコクコクと何度も頷き、ローブを脱ごうとしているが手に力が入らない。
うまくいかない自分が嫌になり、オルトは小さく呻きながら小さな子供のように手足をバタバタとさせた。

頭の中が『カワイイ』という四文字に支配され始め固まるシスルだが、バタバタ小さく暴れながら鼻をグズグズ言わせてるのに気がつき、再び声をかけた。

「脱ぐの手伝おうか?もちろん余計に触れたりはしないから……」

シスルの声に一瞬体をビクつかせたが、ゆっくりと頷いた。

怖がらせないように、と静かに彼に近づいていく。
そして慎重に、なるべく触れないようにとローブに手をかける。

指先が上着に触れただけで、彼は甘い吐息を漏らした。

こんなん我慢できるかい!
シスルの理性が完全に振り切った瞬間。

シスルは彼を押し倒し、首元に顔を埋める。

その時、はだけたローブから出てきたのは、思い焦がれていた『彼』ではなく、『部下』の方だった。
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