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作りました

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しばらくして、アルベールに殴られたナタンが正気を取り戻したけど、怪しい魔導士についてはポッカリと忘れていた。

そして、泣きながらずっとみんなに謝り続けている。
どうやら魔導士がかけた魔法は忘却の魔法だけでなく、欲望を増長させるような、気を大きくさせるような精神操作魔法を、ナタンはかけられていたみたいだった。

「まあ、魔法をかけられていて正常な判断ができなかったとなれば、少しは減刑されるだろう」

ギルドマスターのヤンはブリジット様にそう教えていた。
ナタンはブリジット様にローズさんに使用人たちに謝りながら、「あの時に戻ったらこんなことは絶対にしない」とか「親父の言うことを守っていれば・・・」としきりに後悔を口にしていた。

その言葉に私の胸がヒヤリと冷える。

実は・・・。
ゴダール男爵邸の大広間をめちゃくちゃにしたのはリュシアンの雷魔法のせいと聞いて、こっそり修理をしようと思ったのだ。
清掃魔法じゃ焦げた壁とか床とかは直らないので、時間を戻せばいいのでは?と企んだ私にアルベールが待ったをかけた。

「ダメですよ、ヴィー。時間魔法は禁術中の禁術です。行使した者は問答無用で死罪です」

「へ?そんなに?」

だって「無限収納」には「時間停止」が付いている。
魔法鞄には時間停止や時間の流れが緩やかになる効果がある物も存在する。
なのに、時間魔法がそんな危ない取扱いになっているなんて!

「空間魔法とセットで使う場合はいいのです。でも時間魔法として使う場合は罪に問われます。・・・そもそも純粋な時間魔法が使える能力者なんていたことないですけど」

チラッとアルベールが嫌な目付きで私を見下ろす。
確かに、私なら・・・前世の言葉の詠唱で時間魔法が使えるかもしれない・・・よね?

「時間魔法を使って過去に戻りやり直す。そのやり直しも気に入らなくてまたやり直す。そんなことをしていたら世界の秩序が乱れます。それは・・・神の領域です」

神の領域・・・。
そのときは、使える便利な力を取り上げられたような不満があったけど、ナタンの嘆きを聞いていると確かに神の領域だと気づかされる。

今、ナタンに時間魔法で過去に戻れることを教えたらどうなるだろう。
彼は間違いなく悪魔に魂を売ってでも、過去に戻るだろう。
そして戻った世界でやり直しても、また間違えれば時を遡ることを欲するだろう。

「・・・満足することがない、望み」

アルベールが悲し気に微笑んで、黙って私の頭を撫でてくれた。







男爵邸をお暇した私たちとギルドマスターは、ナタンをギルドの馬車に押し込んだ。

「なあ、アルベール。どうしても受けてくれないか?アラスの冒険者ギルドまで奴らを護送する仕事?」

「嫌ですよ。なんでまたアラスの町に戻らないといけないんですか?こちらにも目が離せない子供がいますしね」

つーんと顔を背けて依頼をあっさり断る高ランク冒険者のエルフ。

「じゃあ、そっちの。お前も冒険者だろ?」

ギルドマスターに指差されたリュシアンは、嫌な顔をして首を振った。

「うがあああっ。ナタンの仲間の人数が多くて、アラスの町と何往復すればいいのかわからんのに、使える冒険者がいないんだよーっ!これ以上ギルド運営に支障があったら、俺も懲罰ものなのにぃぃ」

頭を抱えて座り込むギルドマスターにびっくりしたが、その嘆きの内容にちょっと呆れる。

「いっぺんに運べばいいじゃん」

「はあ?何言ってんだ、お嬢ちゃん。馬車に何人詰め込めると思ってんだよ。歩かせて移動したら日にちもかかるし、護送の人数もかかるし・・・」

あっそうか。
こっちの世界には、バスとか電車とか大勢を移動させるすべがないんだもんね。

うーん・・・。
腕を組んで考えること暫し。
アルベールとリュシアンの胸に縋っているおじさんの絵面を、冷めた目で見ながら考えた。

「じゃあ、一度に大勢運べたらいいんだよね?」

にっこりと笑って言ったあと、とことことガストンさんのところに行き、上目遣いでおねだりしてみる。

「ガストンさんたち鍛冶師さんに作って欲しい物があるんだけど?」

「ん?」

ふふふ、私がまたまた大活躍するときがきたようね!






翌日。
冒険者ギルドの裏庭で。

「お嬢ちゃん。これなんだ?」

「護送用の荷車よ」

コンテナのようにいくつかの荷車を連結させてみました。
荷車の囲いは私とゴーレムの共同作業で造り、その荷車の車の部分はガストンさんたちに作って貰いました。
荷車同士を連結する部分も作って貰ったのよ。
なんでもそれらは珍しい物だったらしく、ガストンさんたちドワーフの鍛冶師たちは、ルンルンで作ってくれた。
そう、製作日数1日もかからずに。

ひとつの荷車に20人ぐらい乗せて移動できるようにして、全部で10台作りました。
箱型にすると護送中の罪人の様子を確認することができないから、上半分は何もなし。
でも逃げられることはないように、魔道具を台車の四隅につけて魔法の檻状態にしてますので、逃げようとするとそこそこ強い電撃に襲われます。

「いや、仕様はすごいし有難いけども・・・。こんな重い荷車を牽く馬がいないんだが・・・」

ヤンは頭を掻いて申し訳なさそうに告げる。

そりゃそうだ。
ギルド職員を乗せる馬車とは別に護送用の荷車をいくつも牽く馬なんて、何頭用意すればいいのか?て問題だよね?

「大丈夫です。私たちの馬を貸してあげます。カヌレとブリュレです」

可愛い名前を裏切る私たちの魔獣馬を見て、ヤンは顔が引きつりギルド職員は雄叫びを上げた。
ちなみに護送される罪人の中には悪夢再びとばかりに泡を吹いて倒れる人もいました。

「これで、問題解決だよね!」

胸を張って自慢する私に、アルベールとリュシアンは疲れた顔でため息を吐いた。


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