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ある日のこと。
エリオットさまが我が家に来た。
話がある、と。
お父さまはエリオットさまを歓迎した。「待っていたよ」と上機嫌だった。
私はエリオットさまがいらしても、自分の部屋に引きこもっていた。侍女が困った顔をしていた。
「誰も通さないで。具合が悪いの」
でも、それは守られなかった。
「お嬢さま、エリオットさまが……」
「どうして!」
ピシャリと強い言葉を発してから、私は慌てて口を抑えた。侍女は悲しい顔をしていた。
「申し訳ございません、どうしてもと、仰られていて」
「わかっています、ごめんなさい。怒鳴ってしまって」
「エリオットさまは、どうしても、お話しされたいことがあるそうです。ご当主さまから命じられてしまい、私ではお嬢さまの命をお守りできませんでした」
「いいの、あなたは悪くないわ。お父さまと、エリオットさまにお願いされたら、しょうがないわ」
エリオットさまは、中庭で私を待っているらしい。侍女はとてもとても丁寧に髪を結い、軽く化粧をしてくれた。ドレスも着替えた。派手ではないが、私のお気に入りのドレス。身なりを整えたら、ちょっとだけ、元気が出た。
祝福をしなくてはいけない。
無事に帰ってきた事。
特別な位をいただき、聖女さまと結ばれる事。
大丈夫、何度だって、お二人のお幸せを祈ってきた。本人を目の前にしたって、伯爵令嬢たる私は祝福することができる。
(もうとっくに、私は彼を諦めている)
私は背筋を伸ばし、しっかり前を向いて、エリオットさまの元へ向かった。
季節の花の咲く中庭には、背の高い男が立っていた。
「お久しぶりでございます、お嬢さま」
背の高い男。聖騎士エリオットさまが、私に頭を垂れる。
久しぶりに見たエリオットさまは、記憶の中の彼よりも頬が痩せていて、目があうと思わずドキリとしてしまった。
大変な旅だったのだわ。労わなければ。讃えなければ。
心臓の音がうるさくて、なかなか頭の中で言葉がまとまらなかった。
口の中に溜まった唾をごくりと、飲み下して、なんとか口を開いた。
「またお会いできて、うれしいです。エリオットさま」
「わたくしも、お嬢様のお顔を拝見できて、幸福でございます」
「大変な旅だとお伺いしております。魔王を討伐してくださり、ありがとうございました」
「もったいないお言葉です。お恥ずかしながら、実のところ、わたくしは魔王の元まで聖女さまをお護りしていただけで、魔王を討てたのはひとえに聖女さまのお力なのです」
エリオットさま。控えめに微笑む姿が変わらず、懐かしくて私は胸が痛くなってきた。
エリオットさまが、聖女さまのことをお話されている。
聖女さま。世界中から待ち望まれていた聖なる力を持った女性。お生まれも、公爵家の高貴な血筋で、とてもお美しいお方。
エリオットさまが惹かれるのも無理ないこと。高貴なこの方と婚姻を結ぶために、危険に挑まれたのならば、納得できる。
むしろ、彼の他に誰があの美しき聖女と結婚する事ができようか。
ああ、何年も前に彼を諦めたのに。
わかっているのに、どうして目元が熱くなっていくのだろう。
「お嬢さま、どうか、お顔を見せてはいただけませんか」
「……申し訳ございません」
知らず知らずのうちに、私はみっともなく、俯いてしまっていた。
凛とあらねば。醜い執着心を露呈するなどあってはならない。
「大切なお話をしにきたのです。あなたのお顔を見て、話したい」
いやだ、聞きたくない。顔を見せたくないし、顔を見たくもない。
今だけ、小さな小さな幼い私に戻りたかった。そうであれば、彼のお腹に顔を埋めてイヤイヤをできたし、彼もそれを受け入れてくれたのに。
私は誇り高きルクスブル家令嬢としてあらねばならない。
静かに、ゆっくりと顔を上げ、エリオットさまのお顔を見上げた。
エリオットさまは、はにかんでおられた。整った眉はやや下がり、目はとろけるように細められていて、口元は小さく微笑んでいた。
愛しいものを想う表情ということは、すぐにわかった。
彼のこんな顔、見たくなかった。
私はきっとこれから、彼が一生を添い遂げる相手の名を聞くのだ。
愛おしくてたまらないと、とろけた顔と、甘い声で、彼が己の恋を語る姿を、私は見届けなくてはいけない。
でも、これで、最後だ。
彼の口から、彼の愛するものの名前を聞いて、私の初恋と失恋は終わる。諦めたと言い聞かせて、ずっと胸のなかに燻り続けている妄執は、終焉を迎える。
私は、まっすぐ、エリオットさまを見つめた。
けして、何があろうと目は逸らさないと心に決めて。
エリオットさまの形の良い唇が動くのが、ひどくゆっくりに見えた。
「マーガレットさま、お慕い申し上げております」
「はい?」
令嬢としてはあまりにもはしたない、間抜けな声。
私はぱちくりと、何度も瞬きをした。彼はそんな私をにこやかにみつめている。
──愛おしげに。
「エリオットさまは、聖女さまと結ばれるのでは」
「そういう噂があるとは聞き及んでおります」
「そのために、我が家を出て、危険な旅に行かれたのでは」
「いいえ。報酬が目当てであったのは真実ですが」
「では、やはり、聖女さまのためでは……」
「マーガレットお嬢さまのためです」
混乱する私を諭すように、エリオットさまは優しい声でゆっくりとお話しされていた。
その甘やかな声に、口説かれているような錯覚を覚えて、余計にクラクラした。
「わたくしは、ルクスブル家に仕える騎士。主君の大事なお嬢さまに恋心を抱くなど、許されません。私の生まれは小金を持っているだけの商人の家。あなたに相応しい血筋ではありません」
「その通りです」
だから、私は諦めた。
「ですが、わたくしにはどうしてもお嬢さまのことが愛らしくて、諦められませんでした」
もう、何がなんだかわからない。
まるで、エリオットさまが、私のことを愛していると聞こえる。そんなわけがないのに。
「魔王を討伐し、あなたとつりあう栄誉をいただくために、わたくしはこの家を出たのです」
「そのような理由で……?」
「はい。わたくしは、卑しい男です」
エリオットさまは、いっそ私の前に近づき、そして跪いた。
「マーガレットさま、どうかわたくしと結婚してください」
心臓が止まるかと思った。
エリオットさまは跪いて、私に手を差し伸べたまま、動かない。
うれしい。夢のよう。
泣いてしまいそう。
でも、それではしゃいで我を忘れてはいけない。だって、私には家のため婚約した相手がいる。私は誇りあるルクスブル伯爵令嬢なのだから。
「いまのわたくしは、"聖騎士爵"の爵位をいただきました。あなたとの身分の差はありません」
「それでも、いけません。私には、婚約者がおります」
「はい。ですので、お選びください。このまま婚約相手とご結婚なされるか、婚約を破棄なさるか」
「そんな事、できません」
私はふるふると首を振った。
「ルクスブル家ご当主さまの許可はいただいております」
「お相手の方に、なんの非もないのに、そんなことはできません」
なんてひどいことをこの男はするんだろう。
憧れの騎士は、私のことを何も考えてくれていない。
私がどれだけあなたのことを好きだったか、ご存知のはずなのに。
私がどれほど心を痛めて、あなたを諦めたのかはご存知ないようだ。
少しでも、考えてくださればわかるでしょうに。
恋した男がこんなにひどい男だなんて、思いもしなかった。
私のことを顧みないこの男。
どれだけ私が、この手を掴んで、その胸に飛びつきたくてたまらないというのが、わからないのか。
「お、お嬢さま!」
侍女の叫ぶ声でハッとする。
「ご婚約者のオスカーさまが! 婚約を破棄されたいと──」
「なんですって?」
どうして、なぜ、このタイミングで。
エリオットさまは、未だ跪いたまま、動こうとはしなかった。
侍女は手紙を持ってきていた。
『親愛なるマーガレット・ルクスブル伯爵令嬢へ
突然の手紙を許して欲しい。
君との婚約を白紙に戻したいと思う。君も知っての通り、僕には愛した女性が別にいた。その人と、結ばれることができるようになった。
君にも、想い人がいることを僕は知っている。虫のいい提案だが、お互いに真実の愛を求めないか? なにしろ。こんなに平和な世の中になったのだから。
また後日、改めて正式に手続きをするために伺うが、まずはとり急ぎ筆をとった。どうか、幸せになろう』
「そんな……」
信じられない。こんなタイミングで。
何か仕組まれているのでは。
疑う気持ちで、私はエリオットさまを見つめた。
ずっと跪いたままの男は、慌ただしくなった中庭の様子にも、微動だにしない。
本当に、この手をとっていいの?
手紙を運んでくれた侍女を振り向くと、彼女は頷いた。
エリオットさまに向き直り、私は一歩一歩ゆっくりと彼に近づいた。
とうとう手を伸ばせば届く距離にまできて、私は立ち止まる。
そこまで来て、固まってしまった私にダメ押しとばかりに、エリオットさまは困ったような顔で微笑んだ。私の大好きな表情だ。
「わたくしと結婚してください、マーガレットさま」
私は、憧れの騎士の手を取った。
◆ ◆ ◆
私たちの結婚はみんなから祝福された。
英雄の結婚ということで、式は国で一番大きな王都の教会で挙げられ、パレードまで行われる予定だ。
参列席の中には、オスカーさまもいらっしゃった。婚約を解消することになったオスカーさまの隣には、聖女さまが幸せそうに微笑んでいらした。
「マーガレット、愛している」
「私も、ずっと、愛しております」
一生添い遂げる誓いをして、口付ける。
エリオットさまは少し屈んでくださって、私は少し背伸びをした。
初めて触れた彼の唇は少しかさついていたけれど、柔らかくて、温かった。
感極まって抱きつくと、私の顔はエリオットさまの肩に埋もれた。
私の背はこんなにも高くなっていた。
エリオットさまのお腹にしがみついて、すんすん鼻を鳴らしながら甘えていた幼い日の私はもういない。
大きくなった私を迎えに来てくれた憧れの騎士さまと、私の幸せな時間はこれからも続いていく。
エリオットさまが我が家に来た。
話がある、と。
お父さまはエリオットさまを歓迎した。「待っていたよ」と上機嫌だった。
私はエリオットさまがいらしても、自分の部屋に引きこもっていた。侍女が困った顔をしていた。
「誰も通さないで。具合が悪いの」
でも、それは守られなかった。
「お嬢さま、エリオットさまが……」
「どうして!」
ピシャリと強い言葉を発してから、私は慌てて口を抑えた。侍女は悲しい顔をしていた。
「申し訳ございません、どうしてもと、仰られていて」
「わかっています、ごめんなさい。怒鳴ってしまって」
「エリオットさまは、どうしても、お話しされたいことがあるそうです。ご当主さまから命じられてしまい、私ではお嬢さまの命をお守りできませんでした」
「いいの、あなたは悪くないわ。お父さまと、エリオットさまにお願いされたら、しょうがないわ」
エリオットさまは、中庭で私を待っているらしい。侍女はとてもとても丁寧に髪を結い、軽く化粧をしてくれた。ドレスも着替えた。派手ではないが、私のお気に入りのドレス。身なりを整えたら、ちょっとだけ、元気が出た。
祝福をしなくてはいけない。
無事に帰ってきた事。
特別な位をいただき、聖女さまと結ばれる事。
大丈夫、何度だって、お二人のお幸せを祈ってきた。本人を目の前にしたって、伯爵令嬢たる私は祝福することができる。
(もうとっくに、私は彼を諦めている)
私は背筋を伸ばし、しっかり前を向いて、エリオットさまの元へ向かった。
季節の花の咲く中庭には、背の高い男が立っていた。
「お久しぶりでございます、お嬢さま」
背の高い男。聖騎士エリオットさまが、私に頭を垂れる。
久しぶりに見たエリオットさまは、記憶の中の彼よりも頬が痩せていて、目があうと思わずドキリとしてしまった。
大変な旅だったのだわ。労わなければ。讃えなければ。
心臓の音がうるさくて、なかなか頭の中で言葉がまとまらなかった。
口の中に溜まった唾をごくりと、飲み下して、なんとか口を開いた。
「またお会いできて、うれしいです。エリオットさま」
「わたくしも、お嬢様のお顔を拝見できて、幸福でございます」
「大変な旅だとお伺いしております。魔王を討伐してくださり、ありがとうございました」
「もったいないお言葉です。お恥ずかしながら、実のところ、わたくしは魔王の元まで聖女さまをお護りしていただけで、魔王を討てたのはひとえに聖女さまのお力なのです」
エリオットさま。控えめに微笑む姿が変わらず、懐かしくて私は胸が痛くなってきた。
エリオットさまが、聖女さまのことをお話されている。
聖女さま。世界中から待ち望まれていた聖なる力を持った女性。お生まれも、公爵家の高貴な血筋で、とてもお美しいお方。
エリオットさまが惹かれるのも無理ないこと。高貴なこの方と婚姻を結ぶために、危険に挑まれたのならば、納得できる。
むしろ、彼の他に誰があの美しき聖女と結婚する事ができようか。
ああ、何年も前に彼を諦めたのに。
わかっているのに、どうして目元が熱くなっていくのだろう。
「お嬢さま、どうか、お顔を見せてはいただけませんか」
「……申し訳ございません」
知らず知らずのうちに、私はみっともなく、俯いてしまっていた。
凛とあらねば。醜い執着心を露呈するなどあってはならない。
「大切なお話をしにきたのです。あなたのお顔を見て、話したい」
いやだ、聞きたくない。顔を見せたくないし、顔を見たくもない。
今だけ、小さな小さな幼い私に戻りたかった。そうであれば、彼のお腹に顔を埋めてイヤイヤをできたし、彼もそれを受け入れてくれたのに。
私は誇り高きルクスブル家令嬢としてあらねばならない。
静かに、ゆっくりと顔を上げ、エリオットさまのお顔を見上げた。
エリオットさまは、はにかんでおられた。整った眉はやや下がり、目はとろけるように細められていて、口元は小さく微笑んでいた。
愛しいものを想う表情ということは、すぐにわかった。
彼のこんな顔、見たくなかった。
私はきっとこれから、彼が一生を添い遂げる相手の名を聞くのだ。
愛おしくてたまらないと、とろけた顔と、甘い声で、彼が己の恋を語る姿を、私は見届けなくてはいけない。
でも、これで、最後だ。
彼の口から、彼の愛するものの名前を聞いて、私の初恋と失恋は終わる。諦めたと言い聞かせて、ずっと胸のなかに燻り続けている妄執は、終焉を迎える。
私は、まっすぐ、エリオットさまを見つめた。
けして、何があろうと目は逸らさないと心に決めて。
エリオットさまの形の良い唇が動くのが、ひどくゆっくりに見えた。
「マーガレットさま、お慕い申し上げております」
「はい?」
令嬢としてはあまりにもはしたない、間抜けな声。
私はぱちくりと、何度も瞬きをした。彼はそんな私をにこやかにみつめている。
──愛おしげに。
「エリオットさまは、聖女さまと結ばれるのでは」
「そういう噂があるとは聞き及んでおります」
「そのために、我が家を出て、危険な旅に行かれたのでは」
「いいえ。報酬が目当てであったのは真実ですが」
「では、やはり、聖女さまのためでは……」
「マーガレットお嬢さまのためです」
混乱する私を諭すように、エリオットさまは優しい声でゆっくりとお話しされていた。
その甘やかな声に、口説かれているような錯覚を覚えて、余計にクラクラした。
「わたくしは、ルクスブル家に仕える騎士。主君の大事なお嬢さまに恋心を抱くなど、許されません。私の生まれは小金を持っているだけの商人の家。あなたに相応しい血筋ではありません」
「その通りです」
だから、私は諦めた。
「ですが、わたくしにはどうしてもお嬢さまのことが愛らしくて、諦められませんでした」
もう、何がなんだかわからない。
まるで、エリオットさまが、私のことを愛していると聞こえる。そんなわけがないのに。
「魔王を討伐し、あなたとつりあう栄誉をいただくために、わたくしはこの家を出たのです」
「そのような理由で……?」
「はい。わたくしは、卑しい男です」
エリオットさまは、いっそ私の前に近づき、そして跪いた。
「マーガレットさま、どうかわたくしと結婚してください」
心臓が止まるかと思った。
エリオットさまは跪いて、私に手を差し伸べたまま、動かない。
うれしい。夢のよう。
泣いてしまいそう。
でも、それではしゃいで我を忘れてはいけない。だって、私には家のため婚約した相手がいる。私は誇りあるルクスブル伯爵令嬢なのだから。
「いまのわたくしは、"聖騎士爵"の爵位をいただきました。あなたとの身分の差はありません」
「それでも、いけません。私には、婚約者がおります」
「はい。ですので、お選びください。このまま婚約相手とご結婚なされるか、婚約を破棄なさるか」
「そんな事、できません」
私はふるふると首を振った。
「ルクスブル家ご当主さまの許可はいただいております」
「お相手の方に、なんの非もないのに、そんなことはできません」
なんてひどいことをこの男はするんだろう。
憧れの騎士は、私のことを何も考えてくれていない。
私がどれだけあなたのことを好きだったか、ご存知のはずなのに。
私がどれほど心を痛めて、あなたを諦めたのかはご存知ないようだ。
少しでも、考えてくださればわかるでしょうに。
恋した男がこんなにひどい男だなんて、思いもしなかった。
私のことを顧みないこの男。
どれだけ私が、この手を掴んで、その胸に飛びつきたくてたまらないというのが、わからないのか。
「お、お嬢さま!」
侍女の叫ぶ声でハッとする。
「ご婚約者のオスカーさまが! 婚約を破棄されたいと──」
「なんですって?」
どうして、なぜ、このタイミングで。
エリオットさまは、未だ跪いたまま、動こうとはしなかった。
侍女は手紙を持ってきていた。
『親愛なるマーガレット・ルクスブル伯爵令嬢へ
突然の手紙を許して欲しい。
君との婚約を白紙に戻したいと思う。君も知っての通り、僕には愛した女性が別にいた。その人と、結ばれることができるようになった。
君にも、想い人がいることを僕は知っている。虫のいい提案だが、お互いに真実の愛を求めないか? なにしろ。こんなに平和な世の中になったのだから。
また後日、改めて正式に手続きをするために伺うが、まずはとり急ぎ筆をとった。どうか、幸せになろう』
「そんな……」
信じられない。こんなタイミングで。
何か仕組まれているのでは。
疑う気持ちで、私はエリオットさまを見つめた。
ずっと跪いたままの男は、慌ただしくなった中庭の様子にも、微動だにしない。
本当に、この手をとっていいの?
手紙を運んでくれた侍女を振り向くと、彼女は頷いた。
エリオットさまに向き直り、私は一歩一歩ゆっくりと彼に近づいた。
とうとう手を伸ばせば届く距離にまできて、私は立ち止まる。
そこまで来て、固まってしまった私にダメ押しとばかりに、エリオットさまは困ったような顔で微笑んだ。私の大好きな表情だ。
「わたくしと結婚してください、マーガレットさま」
私は、憧れの騎士の手を取った。
◆ ◆ ◆
私たちの結婚はみんなから祝福された。
英雄の結婚ということで、式は国で一番大きな王都の教会で挙げられ、パレードまで行われる予定だ。
参列席の中には、オスカーさまもいらっしゃった。婚約を解消することになったオスカーさまの隣には、聖女さまが幸せそうに微笑んでいらした。
「マーガレット、愛している」
「私も、ずっと、愛しております」
一生添い遂げる誓いをして、口付ける。
エリオットさまは少し屈んでくださって、私は少し背伸びをした。
初めて触れた彼の唇は少しかさついていたけれど、柔らかくて、温かった。
感極まって抱きつくと、私の顔はエリオットさまの肩に埋もれた。
私の背はこんなにも高くなっていた。
エリオットさまのお腹にしがみついて、すんすん鼻を鳴らしながら甘えていた幼い日の私はもういない。
大きくなった私を迎えに来てくれた憧れの騎士さまと、私の幸せな時間はこれからも続いていく。
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とても素敵なお話でした
オスカーは何の障害があってお相手を諦めていたのか分からないけど、お互いに思う方と一緒になれて良かった!
お読みいただき、ご感想までありがとうございました! オスカーについては短編にまとめるためにだいぶ描写削ってしまったのですが、彼は聖女さんと幼馴染で恋していたのですが、彼女には世界を救う使命があるので恋心を封印しており、晴れて平和な世の中になって彼女と結ばれることができた、という流れでした。作中で説明不足という印象になってしまいもうしわけありません。よかった!と言っていただけて嬉しいです!ありがとうございました!