幸せを見付けたので、お姉様に婚約者を差し上げます。

プラネットプラント

文字の大きさ
16 / 36

逃げてはいけない理由

しおりを挟む
「逃げてもいいの?」

 逃げてもおかしくはない、と聞いてクリフトン卿に訊いてしまった。

「では逆に逃げてはいけない理由は?」
「! わたしたちは領民に生かされてる。着るものも食べるものも、領民が作ったもので買っているわ。それなのに、逃げてもいいの?」
「そうだな。その代わりに領主は農業の指導をしたり、家や畑を貸したり、要望を叶えている」
「え?」

 逃げてはいけない理由に頷かれて驚いた。

「領主とは、元々、領民が安全に暮らせるように保障する能力の持ち主のことだ。武力がなくとも、王や権力者の覚えが目出度ければ、領を攻めた相手は権力者の不興を買って自滅する。その為に権力者に富を捧げる。今は武力より領地を富ませることが主な仕事だ。富ませた分から報酬をもらう為に利益が出るように領地を経営しなければならない。武力が不要となった今、領主は他の領主と協力する必要が出てきた。政略結婚はその協力関係を裏切らせない為におこなうものだ。領民の為におこなうものではない」
「領民の為ではない?」

 領主という仕事についてクリフトン卿は語った。

「君は領民の為に命を投げ出せるか? 何人の領民で命を投げ出せる?」
「・・・」
「パッと思い付かないなら、領民の為の政略結婚は無理だ。王子や王女のように、貴族は民の為に結婚はできない」
「何故?」
「国王一家は誕生日に民衆を前に姿を現すだろう? 毎回人々は王宮前の広場に犇めき合うように集まる。あれを見て、王子や王女は自分たちの守るものを確認しているのだ。誰に命じられたわけでもないのに、誕生日を祝おうと集まってくれた人々を」
「・・・」

 孤児院への慰問で、並ばされて挨拶をさせられた子どもたち。
 領地での領民との触れ合いはこれくらいだった。
 たった一つの触れ合いなのに、子どもたちの目に浮かぶ感情は良いものではなかった。

 国王一家の誕生日は地方からも人が集まる一大イベントだ。
 わたしも見に行ったことがあるが、熱狂する民衆の姿に驚かされた。
 慕われていると思った。
 王都に出てきて、王家が民衆に何かをしている姿は見ていない。それなのに、王家が姿を現す祝賀行事に民衆は集まって、歓声を上げる。

 民が自発的に集まってくれるから、彼らを守ろうと考えた王族は生贄のような政略結婚でも受け入れる。受け入れられないのは、民よりも大事なものがある者だけだろう。

 我が家の領地では、領主一家が通っても、誰も歓声を上げない。王家と同じように何をしているのか、わからないというのに、集まることもない。

 ああ。だからか。
 クリフトン卿は言った。逃げてはいけない理由は? と。
 逃げてはいけない理由なんて、領民に生かされていると、わたしが思い込んでいるだけだった。

 領民はわたしを見ても集まって来ない。
 王家のように我が家は民に好かれていない。

 好かれていない民の為に生贄になるよりも、わたしはフェルナンドとの結婚から逃れたかった。

「答えは出たか?」
「はい」
「迷いがなくなったのなら戻ろう。あまり外に出ていると、噂になる」

 差し出された手はダンスにエスコートするものではなく、友達のところまでエスコートするものだった。
 だけど、これは新たな未来への選択肢だった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

初恋のひとに告白を言いふらされて学園中の笑い者にされましたが、大人のつまはじきの方が遥かに恐ろしいことを彼が教えてくれました

3333(トリささみ)
恋愛
「あなたのことが、あの時からずっと好きでした。よろしければわたくしと、お付き合いしていただけませんか?」 男爵令嬢だが何不自由なく平和に暮らしていたアリサの日常は、その告白により崩れ去った。 初恋の相手であるレオナルドは、彼女の告白を陰湿になじるだけでなく、通っていた貴族学園に言いふらした。 その結果、全校生徒の笑い者にされたアリサは悲嘆し、絶望の底に突き落とされた。 しかしそれからすぐ『本物のつまはじき』を知ることになる。 社会的な孤立をメインに書いているので読む人によっては抵抗があるかもしれません。 一人称視点と三人称視点が交じっていて読みにくいところがあります。

婚約破棄が国を亡ぼす~愚かな王太子たちはそれに気づかなかったようで~

みやび
恋愛
冤罪で婚約破棄などする国の先などたかが知れている。 全くの無実で婚約を破棄された公爵令嬢。 それをあざ笑う人々。 そんな国が亡びるまでほとんど時間は要らなかった。

私を裁いたその口で、今さら赦しを乞うのですか?

榛乃
恋愛
「貴様には、王都からの追放を命ずる」 “偽物の聖女”と断じられ、神の声を騙った“魔女”として断罪されたリディア。 地位も居場所も、婚約者さえも奪われ、更には信じていた神にすら見放された彼女に、人々は罵声と憎悪を浴びせる。 終わりのない逃避の果て、彼女は廃墟同然と化した礼拝堂へ辿り着く。 そこにいたのは、嘗て病から自分を救ってくれた、主神・ルシエルだった。 けれど再会した彼は、リディアを冷たく突き放す。 「“本物の聖女”なら、神に無条件で溺愛されるとでも思っていたのか」 全てを失った聖女と、過去に傷を抱えた神。 すれ違い、衝突しながらも、やがて少しずつ心を通わせていく―― これは、哀しみの果てに辿り着いたふたりが、やさしい愛に救われるまでの物語。

【完結】結婚しておりませんけど?

との
恋愛
「アリーシャ⋯⋯愛してる」 「私も愛してるわ、イーサン」 真実の愛復活で盛り上がる2人ですが、イーサン・ボクスと私サラ・モーガンは今日婚約したばかりなんですけどね。 しかもこの2人、結婚式やら愛の巣やらの準備をはじめた上に私にその費用を負担させようとしはじめました。頭大丈夫ですかね〜。 盛大なるざまぁ⋯⋯いえ、バリエーション豊かなざまぁを楽しんでいただきます。 だって、私の友達が張り切っていまして⋯⋯。どうせならみんなで盛り上がろうと、これはもう『ざまぁパーティー』ですかね。 「俺の苺ちゃんがあ〜」 「早い者勝ち」 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結しました。HOT2位感謝です\(//∇//)\ R15は念の為・・

妹が私の婚約者を奪った癖に、返したいと言ってきたので断った

ルイス
恋愛
伯爵令嬢のファラ・イグリオは19歳の誕生日に侯爵との婚約が決定した。 昔からひたむきに続けていた貴族令嬢としての努力が報われた感じだ。 しかし突然、妹のシェリーによって奪われてしまう。 両親もシェリーを優先する始末で、ファラの婚約は解消されてしまった。 「お前はお姉さんなのだから、我慢できるだろう? お前なら他にも良い相手がきっと見つかるさ」 父親からの無常な一言にファラは愕然としてしまう。彼女は幼少の頃から自分の願いが聞き届けられた ことなど1つもなかった。努力はきっと報われる……そう信じて頑張って来たが、今回の件で心が折れそうになっていた。 だが、ファラの努力を知っていた幼馴染の公爵令息に助けられることになる。妹のシェリーは侯爵との婚約が思っていたのと違うということで、返したいと言って来るが……はあ? もう遅いわよ。

最近彼氏の様子がおかしい!私を溺愛し大切にしてくれる幼馴染の彼氏が急に冷たくなった衝撃の理由。

佐藤 美奈
恋愛
ソフィア・フランチェスカ男爵令嬢はロナウド・オスバッカス子爵令息に結婚を申し込まれた。 幼馴染で恋人の二人は学園を卒業したら夫婦になる永遠の愛を誓う。超名門校のフォージャー学園に入学し恋愛と楽しい学園生活を送っていたが、学年が上がると愛する彼女の様子がおかしい事に気がつきました。 一緒に下校している時ロナウドにはソフィアが不安そうな顔をしているように見えて、心配そうな視線を向けて話しかけた。 ソフィアは彼を心配させないように無理に笑顔を作って、何でもないと答えますが本当は学園の経営者である理事長の娘アイリーン・クロフォード公爵令嬢に精神的に追い詰められていた。

9年ぶりに再会した幼馴染に「幸せに暮らしています」と伝えたら、突然怒り出しました

柚木ゆず
恋愛
「あら!? もしかして貴方、アリアン!?」  かつてわたしは孤児院で暮らしていて、姉妹のように育ったソリーヌという大切な人がいました。そんなソリーヌは突然孤児院を去ってしまい行方が分からなくなっていたのですが、街に買い物に出かけた際に9年ぶりの再会を果たしたのでした。  もう会えないと思っていた人に出会えて、わたしは本当に嬉しかったのですが――。現状を聞かれたため「とても幸せに暮らしています」と伝えると、ソリーヌは激しく怒りだしてしまったのでした。

平民ですが何か?私、貴族の令嬢ではありません…

クロユキ
恋愛
「イライザお前と婚約破棄をする」 学園の朝の登校時間にルーカス・ロアン子息子爵から婚約破棄を言われたイライザ。 彼の側には彼女のロザンヌ男爵令嬢がいた。 ルーカスから一方的に婚約破棄を言われたイライザ、彼とは婚約はしていないのに「先に言っておく」と婚約破棄を言われたイライザ、その理由がルーカスの母親が腹痛で動けない時イライザと出会いイライザは持っていた自分の薬をルーカスの母親に渡し名前も言わずにその場を離れた。 ルーカスの母親は、イライザの優しさに感動して息子のルーカスに婚約を考えていた。 誤字脱字があります更新が不定期です。 よろしくお願いします。

処理中です...