魔王と勇者の珍道中

藤野 朔夜

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俗に言う俺のステータス

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「まぁ、そう言うな。たしかに身勝手だと思うがな。だから俺は国に仕えるのが嫌で、ギルドマスターなんてやってんだよ。で、ワタルだったか?ここに必要事項書き込めるか?しゃべるのは大丈夫みてぇだが、文字を読んだり書くのはどうだ?」
 紙を渡されて、見てみる。
 文字が二重に見えるのは、この世界の文字の上に、日本語が出て来てるからだ。
「読むことは出来るけど……。多分、書けない」
 こっちを見ていた男二人が、ふむと頷いた。
 絶世の美人と、筋骨隆々のたくましいオッサンでもイケメン。が同じ動作をする。なんだか笑える光景だと思った。
「一度書いてみてくれるかな?ワタルの書く文字が俺たちに読めたら、処理できるだろう?」
 イシュさんはそう言って、机に有ったメモ用紙を渡してくる。
 書類に試し書きはやっぱまずいよね。読めなかったら、ただの落書きだし。
「そうだな。読めるなら、問題なく処理が出来る」
 そうギルドマスターさんも言ってる。だから、俺はそのメモ用紙に、自分の名前を書いてみた。漢字で。平仮名と迷ったけど、読めるんだったら、漢字も平仮名も変わらないか、と思ったから。
「ワタルの名前はこう書くんだね」
 イシュさんはそのメモ用紙を見て、うんうんと頷いている。
「は?俺には読めねぇぞ。俺に読めなきゃ登録は出来ねぇから、イシュバール、お前が書け」
 ギルドマスターさんには読めなかったみたい。イシュさんに命令口調って、すごいなぁ。
「魔力量とかが関係するのかな。ワタルも読めるのは、そういう理由ならわかるね」
 そう言いながら、イシュさんは書類にペンを走らせていく。
 書いてたのは、俺の名前と年齢だけ。数字は元の世界と変わりないみたい。
「書けるのはここくらいかな。他にワタルは何かあるかな?」
 イシュさんに聞かれて、書類を一通り見るけれど。
「格闘技とかやってないし、経歴なんてないから。これだけでも、登録出来るの?」
 俺が答えて、ギルドマスターさんを見ると、頷いていた。
「問題はねぇな。あと必要なのは、ワタルの血だが。ここに一滴垂らしてくれたら良い」
 血?なんで血?
「ギルド発行の冒険者証に、本人の血での登録で、他者に悪用されないとは言え、ワタルを傷付けるのは、嫌だなぁ」
「しょうがねぇだろ。本人の持ってる魔力の質ってのは、血が一番わかるんだ。他人の魔力を通しても、冒険者証が本人じゃねぇって判断すんだから。ギルド発行の身分証明書にもなんだから、そこは仕方ねぇ、って思えよ」
 豪快なギルドマスターさんに、良いか?と問われて頷いたら、小刀で小指の先をほんの少しだけ切られた。
 ポタリと血が、書類の所定位置に落ちる。
「ん、よし。って、ほんのちょびっと切っただけだぞ?過保護過ぎだろ」
 苦笑してるギルドマスターさんの言葉はよくわかる。
 だって、切れた小指を即座に手に取って、イシュさんが魔法で治してくれたから。
 そんなことに、魔法が使えるのもびっくりだけど、本当にちょっと切っただけなのに。痛みとかさえあんまりなかったのに。
「ほんの少しだろうと、ワタルの傷は見たくないんだよ。それで、冒険者証は?」
「おう、ちょっと待っててくれや。あ、んで、これがさっき頼まれてた金を通貨にした分。あと外套も頼みてぇとか言ってなかったか?席外すついでに、それも預かる」
 イシュさんの言葉に、ギルドマスターさんがさらに苦笑する。
 俺も曖昧に笑ってみるしか出来ない。
 やっぱりイシュさんは過保護だった……。
「あぁ、そうそう。登録に必要なのは銀貨三枚だが、今持ってるか?無けりゃ、この外套の値段から引くが」
 今ここで、登録に必要なお金が有ると教えてくれたのは、イシュさんに払わせない為だろう。助かった。それまでイシュさんに払わせちゃうのは、やっぱり嫌だ。
「有ります!」
 あわてて、さっきの道具屋さんでサービスとしてもらった財布を出す。
 あの時アイテムボックスも買ったけど、銀貨は何枚か出来てたんだよね。
 イシュさんが何か言いたそうにしてたけど、俺が渡した外套と銀貨を持って、ギルドマスターさんは部屋から去って行った。
「まったくもう、ワタルに登録料払わせる気無かったのに」
 やっぱり!
「でも、俺の身分証なんでしょ?なら、俺自身で払うよ。まぁそのお金も、王宮に支給されたの売ったお金だけど」
「それはもう、ワタルがもらった物なのだから、ワタルがどうしようと良いんだよ。それよりも、財布も買ったのかい?」
 あ!言い忘れてた。
「この財布、道具屋さんがおまけしてくれたんだ。お金そのまま鞄に入れたから。また来てねって言われて」
 俺が笑いながら言ったら、イシュさんも笑ってくれた。
「あの店は、俺もよく行くんだ。良い客だと思えば、また来てもらえるように、そうやって必要だと思う物をくれるんだよ。フードを取らなくても、対応は良かったでしょう?」
 そうなんだ。やっぱりあの道具屋さんは優しいんだな。
「すごい優しかったよ」
 気楽で居られたと思う。だから俺もあの道具屋さんは好きだって、また行きたいなぁと思えた。
 ニコニコ笑ってたら、イシュさんも笑っててくれる。
「冒険者証出来たぞー」
 と入って来たギルドマスターさんに、俺は早い!とか思ってしまった。
「今のワタルの魔力量とか、どんな数値になってる?」
「あぁ、他人に見えても良い状態にいじるだろ?だから俺もまだ見てない。ワタル本人に見せるのが先だとも思ったからな」
 血を垂らしたからなのかな。魔力量とか、数値化されるの?
 他人に見せられない状態って、どういうの?あ、俺魔法の属性が全部有るんだった。それも駄目だからって、精霊が抑えてくれてるんだった。
 そうか。そういうの、出ちゃうから駄目なんだ。
「ほれ、持ってみな」
 と渡されたカードを、持った瞬間に、フワリと浮きがる情報。
「おぉ、まだ魔力操作出来てなさそうだとは思ったが。持った瞬間出ちまうなら、イシュバールに当面の間管理してもらえ」
 ふ、普通はこんな風にはならないんだね。ギルドマスターさんも、イシュさんもわかってたみたいで、何でもないって顔してるけど。
 これ下の人目の多い場所でやるもんじゃないよな。と俺だってわかる。
 で、情報は……俗に言う、ステータス?

*名前:ワタル・ハセ
*種族:人族
*職業;冒険者 ランクF
*魔力:SSS
*体力:D
*知力:AA
*称号:勇者(孵化したばかり)・魔王の庇護・水の精霊の加護・風の精霊の加護・土の精霊の加護・火の精霊の加護

「うん。魔力量が半端ないことはわかった。SSSなんざ、魔族でもそうそう居ねぇぞ。俺が見たのはイシュバールだけだ。しっかし、勇者で魔王の庇護ってのは、笑い話にしていいのか?」
 しっかり勇者って書いてあった!カッコに孵化したばかりとか有るけど。
 精霊の加護が付きまくってるのに、ギルドマスターさんが突っ込んだのは、魔王の庇護についてだった。
「詳しい情報は、魔力を操作出来るようになってから、この部分って見れば見れるようになるからな。とりあえず、魔力のSSSはAくらいにしとくとして。精霊の加護はどうすんだ?」
 情報欄に触れたギルドマスターさんの指が、魔力量をAに変えた。
 そんな簡単に変わるの?
「冒険者ランクは、最初だからFだね。あぁ、これは力有れば変えれるから、そのうちワタルにも教えるね。魔力操作さえ出来ればやれるよ。普通にワタルと俺が見る分には、問題ないんだけれど。他の人に簡単にこれが見えちゃうと、まずいからね。書き換えてるだけだから、本来のを見たいって、自分が思えば見えるからね。そうだねぇ。称号は、魔王の庇護と水の精霊の加護以外は消しとけるかな?」
「了解了解。で、ランクは他も同じだが、Fから始まって、一番上がSSS。まぁ、SSSなんざ、そこに居るイシュバールくらいなもんだが。俺は一応ランクはSSの冒険者でもある。ここに居るのは、この国がなにかと面倒を起こすからな。で、まぁその噂が王都からすぐに届くここに居るわけだ」
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