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「クリス!来て!エスターが強がってる!」

まとまりかけた話を再び広げ直したミシェルに叔母が牙を剥いた。

「ミシェル。あなたいい加減にしてくださいな。エスターを振り回さないでちょうだい」
「突如として母親ぶらないでくださいな。私のかエスターのか知りませんけれど」
「母上、ミシェルは間違っていませんよ」

クリスが合流した。
怒っている。

「あいつはエスターだけでなく僕たちをも裏切った。今日は結婚式だぞ?よりによって今日だなんて、いちばん傷つける方法を選んだんだから。八つ裂きさ」
「はいはい。私を悪者にして済むならどうぞ」

叔母は私の肩を叩き、夫であるエルズワース伯爵の元へと歩いて行った。エルズワース伯爵は父と祭司と三人で話し込んでいる。
結婚式が台無しになったのだから、私が泣き止んで済む話は一つもない。

私が一つずつ片付けていかなくては。

「クリス。今日の事は悲しいし、とても恥ずかしい。だけど」
「自分を無理に納得させようとするな。絶対に許さない。誰も許してないんだぞ」
「だけど、行ってしまったのよ。追いかけても仕方ないわ」
「あいつを守りたいのか?」
「違う。早く忘れたいのよ」

クリスの表情が変わり、ミシェルも私の腕の中で大人しくなる。それから私に抱きついてきて、甘えるように慰め始める。

「エスター。あなたには他に運命の人がいるのよ」
「そうよね。真実の愛なんて軽々しく口にしちゃいけなかった」
「待ってくれ。なぜ君が反省してるんだ。君は怒るべきだ」

親子だから同じ事を言っている。

「だけど八つ裂きにしたいなんて思わないわ。そんな事をしても今日が完璧に戻るわけじゃないもの……っ」

気を許している相手に本音を洩らしたせいでまた涙が溢れてしまった。私を抱きしめながらミシェルがクリスを睨んだ。

私は愛に恵まれていた。だから、そうでないものを、そうであると信じ込んでしまったのだろうか。

こうして私の結婚式は悲惨な結末を迎え、私たちの中でも蒸し返す価値のない過去として片付けられた。少なくとも片付けようと努めた。

出会った日から、別れの日まで。
なかった事にするには長すぎる年月がそこに在るとしても、もっと長い年月を愛された記憶が私にはあったから。

だから、クリスとミシェルがいれば乗り越えられる。
私はそう信じた。

そしてそれは真実になった。
3年後、元々体の弱かった父がついに病に倒れ、呆気なく逝ってしまったのだ。もしかすると早く天国の母に会いたかったのかもしれない。

私は悲しみに引き裂かれ、壊れてしまうとさえ思った。
けれど私の隣にはいつもミシェルとクリスがいてくれた。叔母もいてくれた。葬儀の後、クリスを後見人としてエルズワース伯爵の監督下ではあるものの、私の手にウィンダム伯領が委ねられた。

人生は続いていく。
続いていく限り、愛する人と手を取り合って歩いていくしかないのだと思わずにはいられなかった。

クリスとミシェルだけではなく、父が守り続けたウィンダム伯領の民の暮らしを守りたい。その気持ちは真実だった。
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