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「愛してるわ、エディ。あなたに夢中なの」
「君が全てだよ、ノーラ。僕は世界一の幸せ者だ」
「私もよ。とても幸せ」
「ノーラ、愛してる」
結婚式は素晴らしかった。
私がエディの結婚相手だということを義母ティルダが鬱陶しいほど喜んでくれたおかげもあり、姉から妹へ相手を変えた件についてまったく批判が持ち上がらなかったのもよかった。
愛の勝利だ。
私とエディが幸せの真っ只中というのは誰の目にも明らかだっただろう。
更には、自分の元婚約者と自分の妹が結ばれる結婚式に平気な顔をして出席していた姉は、誰の目にも奇妙な存在として映っただろう。
「イーリスはちょっとお高くとまりすぎて、温厚なエディには似合わないわ」
「あなたの方がお似合いよ」
招待客は皆そう言ってくれたのだ。
そして、義父となった妖精伯爵も同じことを言った。
「息子には不愛想な姉よりも、美人で明るい妹の方がお似合いだった」
物静かを通り越して無音で微笑んでいる老人の声が、想像していたよりずっとしっかりしていたのには驚かされたものの、認められるのは嬉しく、とても心地よい。
「おめでとう、ノーラ」
「ええ。どうもありがとう。お姉様もお幸せに」
姉妹で交わした会話だけは、凄まじい居心地の悪さだったことは言うまでもないだろう。
勝利を収めた今、長年苦しめられた完璧風の姉とは一刻も早く決別し、二度と顔も見たくなかった。私の愛するエディを一度は所有していた女だ。金輪際、関わりたくはない。
そんなわけで誰からも祝福された私はエディの妻としてノルドマン伯爵家に転居した。
義父の妖精伯爵が高齢のため、エディは私との結婚を機に爵位を継承し、正式にノルドマン伯爵となった。私も当然、ノルドマン伯爵夫人となる。
「難しいことは全部エディに任せておけばいいわ。あなたは私の言う通りにすれば大丈夫。可愛いノーラ、私がなんでも教えてあげる。あなたみたいな子がエディと結婚してくれて本当によかったわ」
あっさり隠居してくれるのを心の底から望んでいる私に、義母ティルダは執拗につきまとってくる。エディが当主として領地経営などに勤しみ忙しく過ごしている日中、ティルダはこれでもかと私に纏わりついているのだ。
まったく。
これでは、誰と結婚したのかわからない。
エディと同じように、ティルダも姉のイーリスより私の方が好みなのだとすぐに納得できた。
あの決定的な晩餐会でも口を滑らせた通り、義母は姉から堂々と口答えされるのが嫌だったのだろう。ティルダは我儘だ。息子の妻には、自分の望む息子の妻でいてほしいのだ。
「あなたのためになんでもしてあげる。朝からエディは忙しいでしょうから、あなたは私と一緒にお散歩よ。でも十時からは日に当たっちゃ駄目。お肌によくないわ。昼食の後はお昼寝しましょうね。あなたのためにベッドを誂えたのよ。二人並んで寝ても余るくらい大きいの。昼寝用の部屋なんて初めてだろうけど気にしないで」
「……」
どうしてくれようか。
私の新婚生活は、夫のエディより義母のティルダとばかり共に過ごす最悪な展開になりかけている。
「あと、新婚旅行の前に爵位継承のパーティーを開くから、それが済むまで初夜は待ってね」
「はい?」
とりあえず正気を疑った。
ティルダは間髪入れずに真顔で言った。
「ノルドマン伯爵家の後継者を生むんだもの、子作りはしっかり準備して。大丈夫、緊張しなくていいわよ。私がしっかり教えてあげる」
「…………」
ぞっとした。
しかしこれは、ほんの始まりに過ぎなかった。
「君が全てだよ、ノーラ。僕は世界一の幸せ者だ」
「私もよ。とても幸せ」
「ノーラ、愛してる」
結婚式は素晴らしかった。
私がエディの結婚相手だということを義母ティルダが鬱陶しいほど喜んでくれたおかげもあり、姉から妹へ相手を変えた件についてまったく批判が持ち上がらなかったのもよかった。
愛の勝利だ。
私とエディが幸せの真っ只中というのは誰の目にも明らかだっただろう。
更には、自分の元婚約者と自分の妹が結ばれる結婚式に平気な顔をして出席していた姉は、誰の目にも奇妙な存在として映っただろう。
「イーリスはちょっとお高くとまりすぎて、温厚なエディには似合わないわ」
「あなたの方がお似合いよ」
招待客は皆そう言ってくれたのだ。
そして、義父となった妖精伯爵も同じことを言った。
「息子には不愛想な姉よりも、美人で明るい妹の方がお似合いだった」
物静かを通り越して無音で微笑んでいる老人の声が、想像していたよりずっとしっかりしていたのには驚かされたものの、認められるのは嬉しく、とても心地よい。
「おめでとう、ノーラ」
「ええ。どうもありがとう。お姉様もお幸せに」
姉妹で交わした会話だけは、凄まじい居心地の悪さだったことは言うまでもないだろう。
勝利を収めた今、長年苦しめられた完璧風の姉とは一刻も早く決別し、二度と顔も見たくなかった。私の愛するエディを一度は所有していた女だ。金輪際、関わりたくはない。
そんなわけで誰からも祝福された私はエディの妻としてノルドマン伯爵家に転居した。
義父の妖精伯爵が高齢のため、エディは私との結婚を機に爵位を継承し、正式にノルドマン伯爵となった。私も当然、ノルドマン伯爵夫人となる。
「難しいことは全部エディに任せておけばいいわ。あなたは私の言う通りにすれば大丈夫。可愛いノーラ、私がなんでも教えてあげる。あなたみたいな子がエディと結婚してくれて本当によかったわ」
あっさり隠居してくれるのを心の底から望んでいる私に、義母ティルダは執拗につきまとってくる。エディが当主として領地経営などに勤しみ忙しく過ごしている日中、ティルダはこれでもかと私に纏わりついているのだ。
まったく。
これでは、誰と結婚したのかわからない。
エディと同じように、ティルダも姉のイーリスより私の方が好みなのだとすぐに納得できた。
あの決定的な晩餐会でも口を滑らせた通り、義母は姉から堂々と口答えされるのが嫌だったのだろう。ティルダは我儘だ。息子の妻には、自分の望む息子の妻でいてほしいのだ。
「あなたのためになんでもしてあげる。朝からエディは忙しいでしょうから、あなたは私と一緒にお散歩よ。でも十時からは日に当たっちゃ駄目。お肌によくないわ。昼食の後はお昼寝しましょうね。あなたのためにベッドを誂えたのよ。二人並んで寝ても余るくらい大きいの。昼寝用の部屋なんて初めてだろうけど気にしないで」
「……」
どうしてくれようか。
私の新婚生活は、夫のエディより義母のティルダとばかり共に過ごす最悪な展開になりかけている。
「あと、新婚旅行の前に爵位継承のパーティーを開くから、それが済むまで初夜は待ってね」
「はい?」
とりあえず正気を疑った。
ティルダは間髪入れずに真顔で言った。
「ノルドマン伯爵家の後継者を生むんだもの、子作りはしっかり準備して。大丈夫、緊張しなくていいわよ。私がしっかり教えてあげる」
「…………」
ぞっとした。
しかしこれは、ほんの始まりに過ぎなかった。
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