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「オリヴィア。リカードが来てくれたよ」
「え……?」
寝室に現れた父は久しぶりに笑顔を浮かべ、私に信じられない言葉を伝えた。
「嘘。リカードは王子様の側近になったのよ。私になんか構うわけない」
「そう思うかもしれないが、本当なんだ。どうする?小さな頃はお互いのパジャマ姿も見慣れていただろうが、今日もそのまま会うかい?」
「……」
父があまりにも言い募るので、仕方なく私は着替えることにした。
気分が優れず身支度に時間がかかったけれど、私はなんとか身形を整え居間に向かった。
怠い。
怠くて仕方ない。
居間の扉を開けると、そこには本当に幼馴染のリカードがいて驚いた。
「……」
「オリヴィア!」
リカードは私を見るなりソファーから立ち上がり、こちらに駆けて来て抱きしめてくれる。
「ああ……!よかった……!思ったより元気そうだね」
「私に触らない方が身のためよ。病気がうつる」
リカードの腕の中で私は鬱蒼と呟いた。
幼馴染はすぐ抱擁を解いたが、完全に私を離しはしなかった。リカードは私の肩を掴み、私の目を覗き込んだ。
「安心して、オリヴィア。人から人へうつるような病気じゃないんだ。あの辺の虫が持つ毒素のせいだよ」
「嘘よ」
「本当だ。君の御両親だって元気だし、使用人もみんな元気だろう?」
「……」
言われてみればそうかもしれない。
「……リカード。あなたは、私に嘘はつかないわね」
「そうだよ」
「お城の役目はどうしたの?」
「テオフィルス殿下も君を心配してる。快く僕を送り出してくれたよ」
「……本当にそうかしら。とても信じられないけれど」
私はリカードを押してその手から逃れ、居間のソファーへと腰掛けた。立っていると疲れてしまう。
「リカード。ありがとう。やはり娘は君の言葉なら信じられるようだ」
「おじさん……」
父と幼馴染の囁き合う声が聞こえる。
ああやって、聞こえていないと思って悪口を言うのだ。
私はソファーから二人を睨んだ。
すると二人は慌てて笑顔を浮かべ、リカードの方は私の隣に座った。
「食欲はあるのかな?」
「ええ」
「よかった」
「よくないわ。毒かもしれないのに食べずにはいられない。だって、お腹は空くもの。あの時に死んでいればこんな思いはしなくても済んだのに」
憎い。
憎い。憎い。
忌々しいあの男。
暑くて、痛くて、頭の中がぐちゃぐちゃ……
私は蹲って頭を抱えた。
「オリヴィア……可哀相に……」
リカードが私の体を支える。
両親やメイドにそうされる時よりは幾分ましだった。
リカードは信用できる。
「ねえ、オリヴィア。そうしたら僕が先に口をつけるよ。それなら君も安心だろう?」
「……あなた、暇なの?」
「結婚しよう」
「は?」
蹲って頭を抱える私を覆うように抱きしめてリカードは泣き始めた。
「僕が一生、君を守る。愛しているんだ。本当は、ずっと前から愛していた。だけど、僕は、自信がなかったから……君の傍を離れてしまった。君が他の男に恋をするなら、結婚するなら、僕は祝福すべきだと思った」
「リカード……?」
「だけど僕が間違っていた。本当は君の傍にいるべきだったんだ。君を愛してる。オリヴィア……愛してるんだ……っ」
リカードが泣いていると、私の嫌な頭痛が僅かに弱まった気がした。
「……」
大切な幼馴染のリカード。
悲しそうに泣いている。
可哀想。
「……」
私はリカードの手をそっと叩いた。
「私と結婚したいの?」
「うん……」
「いいわよ」
それでリカードが泣き止むなら正しいと思った。
リカードが悲しんでいるのは、可哀相だから。
「え……?」
寝室に現れた父は久しぶりに笑顔を浮かべ、私に信じられない言葉を伝えた。
「嘘。リカードは王子様の側近になったのよ。私になんか構うわけない」
「そう思うかもしれないが、本当なんだ。どうする?小さな頃はお互いのパジャマ姿も見慣れていただろうが、今日もそのまま会うかい?」
「……」
父があまりにも言い募るので、仕方なく私は着替えることにした。
気分が優れず身支度に時間がかかったけれど、私はなんとか身形を整え居間に向かった。
怠い。
怠くて仕方ない。
居間の扉を開けると、そこには本当に幼馴染のリカードがいて驚いた。
「……」
「オリヴィア!」
リカードは私を見るなりソファーから立ち上がり、こちらに駆けて来て抱きしめてくれる。
「ああ……!よかった……!思ったより元気そうだね」
「私に触らない方が身のためよ。病気がうつる」
リカードの腕の中で私は鬱蒼と呟いた。
幼馴染はすぐ抱擁を解いたが、完全に私を離しはしなかった。リカードは私の肩を掴み、私の目を覗き込んだ。
「安心して、オリヴィア。人から人へうつるような病気じゃないんだ。あの辺の虫が持つ毒素のせいだよ」
「嘘よ」
「本当だ。君の御両親だって元気だし、使用人もみんな元気だろう?」
「……」
言われてみればそうかもしれない。
「……リカード。あなたは、私に嘘はつかないわね」
「そうだよ」
「お城の役目はどうしたの?」
「テオフィルス殿下も君を心配してる。快く僕を送り出してくれたよ」
「……本当にそうかしら。とても信じられないけれど」
私はリカードを押してその手から逃れ、居間のソファーへと腰掛けた。立っていると疲れてしまう。
「リカード。ありがとう。やはり娘は君の言葉なら信じられるようだ」
「おじさん……」
父と幼馴染の囁き合う声が聞こえる。
ああやって、聞こえていないと思って悪口を言うのだ。
私はソファーから二人を睨んだ。
すると二人は慌てて笑顔を浮かべ、リカードの方は私の隣に座った。
「食欲はあるのかな?」
「ええ」
「よかった」
「よくないわ。毒かもしれないのに食べずにはいられない。だって、お腹は空くもの。あの時に死んでいればこんな思いはしなくても済んだのに」
憎い。
憎い。憎い。
忌々しいあの男。
暑くて、痛くて、頭の中がぐちゃぐちゃ……
私は蹲って頭を抱えた。
「オリヴィア……可哀相に……」
リカードが私の体を支える。
両親やメイドにそうされる時よりは幾分ましだった。
リカードは信用できる。
「ねえ、オリヴィア。そうしたら僕が先に口をつけるよ。それなら君も安心だろう?」
「……あなた、暇なの?」
「結婚しよう」
「は?」
蹲って頭を抱える私を覆うように抱きしめてリカードは泣き始めた。
「僕が一生、君を守る。愛しているんだ。本当は、ずっと前から愛していた。だけど、僕は、自信がなかったから……君の傍を離れてしまった。君が他の男に恋をするなら、結婚するなら、僕は祝福すべきだと思った」
「リカード……?」
「だけど僕が間違っていた。本当は君の傍にいるべきだったんだ。君を愛してる。オリヴィア……愛してるんだ……っ」
リカードが泣いていると、私の嫌な頭痛が僅かに弱まった気がした。
「……」
大切な幼馴染のリカード。
悲しそうに泣いている。
可哀想。
「……」
私はリカードの手をそっと叩いた。
「私と結婚したいの?」
「うん……」
「いいわよ」
それでリカードが泣き止むなら正しいと思った。
リカードが悲しんでいるのは、可哀相だから。
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