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2章 倦怠期の夫婦 ~ロコモコ丼~

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 我を忘れて食べられる。食べるのに夢中になっていると、横から視線を感じた。

「美味しい? 良ければ、俺のも食べる?」
「え? いや、そんなそんな! すいません、がっついてましたよね」
「そんなことはないよ。よく食べる女性、俺は好きです」

 お世辞だとはわかっているけど、ひろ美の顔は紅潮していた。「またまた」と言って受け流したけど、自分でも照れ笑いしているのは理解している。

 そろそろ、今日の本題に入るはずだ。バッグの中から領収書を取り出して、ひろ美に申請するはず。ひろ美はそのことばかり考えるようになってしまった。

 晴彦の魂胆が見えてしまっていることで、逆にソワソワしてしまう。他愛もない話も好きだけど、早く本題に入ってスッキリさせたかった。

 話が一区切りした時、ついに晴彦がシリアスモードに入った。真剣な眼差しに変わっている。

「あ、あのさ…… 」

 手を膝の上に置いて、何やらモジモジしている。ひろ美は「どうしましたか?」と、棒読みで聞いた。

 晴彦が畏まっているのを見て、言いづらくしているのを感じたひろ美は、アシストしてあげることに決めた。

「経費、出し忘れたのがあるんですよね?」
「……え?」
「先月の経費、申請は昨日までのはずです。それを忘れたから、私をここに誘ったんですよね?」

 雲行きが怪しくなる空間。晴彦は口をポカンと開けていた。ひろ美はピンと来ていない晴彦を見て、「あれ、違いました?」と聞き直す。

「あ……先月の経費はなかったんだ。内勤ばっかりだったから」
「そ、そうなんですか?」

 ひろ美の読みが外れた。あれ、それじゃあ、ひろ美をこんな高級洋食屋さんに誘った本当の目的は、何なのか。

 遅れて頼んでいたスパークリングワインを一口だけ口に含んだ。ゆっくりと噛むように、風味を楽しむ。シュワシュワ感が舌の上で転がって、ちょっとは落ち着きそうだった。

 ひろ美は味わうように舌を動かして飲んで、しばらく無言でいた。

「今日、俺が誘ったのはね……話があったからなんだ」
「話? 何の話ですか?」

 おや? ひろ美は危うく声に出すところだった。晴彦がひろ美に話す内容とは……ちょっと察することができる。何の話か聞いた途端、晴彦はしどろもどろになって「えーっと……」だけを言って下を向いた。

 話すのを躊躇っている晴彦を見ても、ひろ美は助けることができない。晴彦が話を進めてくれないと。

 緊張で、すぐに口が乾く。それを誤魔化すために、十五秒に一度はスパークリングワインを口に運んでいた。

 何にも言わずに黙っていると、意を決した晴彦が告白をした。

「俺、ずっとひろ美さんのことが好きで……でも、それをずっと言えなくて……いつか言おうと思ってたけど、踏ん切りがつかなくて……。だけど、今日は言おうと思えたんだ! あの、良かったら、付き合ってくれませんか?」
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