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2章 倦怠期の夫婦 ~ロコモコ丼~

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 ――それから、二人の思い出の味は、あの洋食屋さんのハンバーグになった。

 共通の好きな食べ物、ハンバーグを食べている時が幸せ。二人は順調な愛を育み、付き合うことになってから一年後に、籍を入れた。

 新婚生活というのは、まさに絶頂期だった。

 優秀な営業マンの妻なんて鼻が高いし、何より安定性もある。何一つ憂いのない生活が続いていく。

 ひろ美は結婚と同時に会社を辞め、フルタイムのパートに切り替えた。少しでも家事に専念するため、シフトの融通が利くパートにした。スーパーのレジ打ちの仕事は、ストレスが何一つない。

 経理の仕事に比べたら、何百倍もマシだった。
 
 このまま幸せな生活がずっと続いていくと思っていた……。

 しかし、思わぬところで意見の食い違いが発生してしまった。

「晴彦さんとの子供だったら、きっとカピバラに似るでしょうね」
「あ、ああ」
「晴彦さん、ずっと気になっていたんだけど……子供はいつ作りたい?」

 デリケートな話。ひろ美は結婚する前からその話をしたかったけど、晴彦がしたがらなそうだったから聞かなかった。

 結婚したら、勝手に話題が上がるだろうと思っていたのに、待てど暮らせどやってこない。

 我慢できずに、ひろ美から聞いてみる。晴彦の反応は、ある意味予想通りではあった。興味がなさそうな空返事。少しカチンときて、ひろ美は踏み込む。

「晴彦さん、子供欲しくないの?」

 リビングのソファーで、雑誌を読んでいた晴彦。ひろ美の言葉を聞いて、雑誌を閉じた。晴彦は立ち上がって、ボソッと「俺らは二人でいいっしょ」と吐き捨てた。

 気怠そうに頭を掻きながら、自分の部屋に戻っていく。一人リビングに残されたひろ美は、どんよりとした気持ちに覆い尽くされてしまった。

 やっぱり、晴彦は子供を望んでいない。ショック過ぎて、ひろ美の瞼が痙攣を起こす。ひろ美の中の、ライフプランが崩れた。

 反論できないひろ美は、その日から我慢することが多少なりとも増えていった。

 子供は作らないと決められた新婚生活から、時はあっという間に過ぎていく。

 毎日代わり映えのない生活が、こんなにも長く続いていくとは思わなかった。

 子供がいないことによって、ひろ美の両親から心配されるし、渇望もされる。子供は作らないと説明して、納得はしてもらったけど、両親の老後の楽しみを奪ってしまったという罪悪感がひろ美の中にあった。

 子供がいない閉塞感と世間体が邪魔をして、年々喧嘩も多くなっていく。

 細かな喧嘩は日常茶飯事だったけど、爆発したことは一度もない。

 あーだこーだ言い合っていたけど、所謂仮面夫婦と言われるような冷え込み方をしているわけではなかった。まあまあ楽しいと思える瞬間もあった。

 そんな日々の中でついにひろ美がぶち切れることになったのは……結婚生活十周年目の時だ。
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