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3章 初恋と失恋 ~オム玉丼~

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 こんなによく話す人なのか、双葉って……いつも明るいイメージだけど、今日は特に上機嫌に見える。

 笑っている顔も可愛い。眼福、ヒーリング効果のある笑顔。出来上がった空気感になかなか入れなくても、双葉を見ているだけで得をしている。

 黒島は、酒をまずいとは思わなかった。先輩の真似をして、安い焼酎をレモン炭酸水で割って飲む。何杯飲んだのだろう。

 黒島は思った。自分は酒が強いタイプなのだと。話すターンがないので、飲むしかないし、何杯でもいけそうだ。

 すると段々と焦点が合わなくなって、気がつけばそのまま眠りについてしまった。そこからの記憶がパッタリ途絶えた。

 ……先輩の部屋にはカーテンがなかった。信号の点滅の光が、室内に入ってきてチカチカする。

 その邪魔くさい光で、目が覚めた。すぐに首は動かない。薄目だけ開けて、周囲を確認してみる。

 どうやら、みんな飲み潰れてしまったみたいだ。黒島は雰囲気でそれを理解した。部屋のほとんどを覆っているタフテッドのカーペットに、参加した全ての先輩たちが横たわっている。

 もうひと眠りするか……さすがに頭が痛い。もう一度意識を遠のかせようと脱力した瞬間に、一定のテンポで何かの音がするのに気づいた。黒島はよく耳を澄ませてみる。

 すぐ近くで、その音がする。

 ネチ、ネチッと、粘膜と粘膜が触れ合っている音だった。少しの興奮と興味が黒島を襲う。この音、キスをしている音だ。

 想像していた大学生像は、これだった。こういうのを、大学生の青春と呼ぶんだと思っていた。

 このまま寝過ごすわけにはいかないと思えた黒島は、その音の方にゆっくり寝返りを打つ。このタイミングで目が覚めてラッキーだ。

 寝返りを打った黒島に、誰も気づいていない。薄目だった目を、ちょっとずつ開けてみる。

 どの先輩と先輩がキスをしているのか……その当事者たちを捉えた瞬間、黒島の頭が急激に冴えた。冷や汗が出てくる。

「ちょっと、ダメだよ。みんな起きちゃうよ」
「いいじゃん、もうちょっとだけ」
「もうー、バカなんだから」

 うふふと笑いながら、だけどもちゃんと応えるように唇を重ねている。その女の子は、ベージュのセーターを着ていた。紛れもなく、双葉だ。相手は……北沢だった。

 双葉はまんざらでもないように手を北沢に絡ませていて、それが目に入った黒島は、心臓が握られるほど痛く思えた。

 目が覚めた瞬間は頭が痛かったけど、一瞬で吹き飛んだ。酔いも醒めたし、瞼も重くなんかなくなった。

 どうして双葉が北沢と……黒島が丁寧に積み重ねていった高級な積み木を、雑に蹴とばされたみたいだった。
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