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4章 バツイチ男の後悔 ~カレー丼~

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「お客様、登山帰りですか?」

 フロントの綺麗な女性に聞かれた。岩関はフロントの宇垣の問いに、たじろぎながら「ええ」と返した。

 まあ分厚いレインウェアを見たら、登山帰りというのは容易に想像できるだろう。このホテルには登山帰りのお客がよく利用されているみたいだった。

 小雨で湿っている紺碧色のレインウェアをじーっと見ている宇垣は、「あ、ご予約はしていますか?」と続けて聞いた。

「いいえ、していません。部屋は開いていますでしょうか」

 四十肩の岩関にはだいぶ堪えるアウトドアリュックを降ろして、宇垣に聞く。宇垣は予約リストを確認するまでもなく、「もちろん、ご用意できます」と言ってくれた。岩関はホッと肩を撫でおろす。

 宇垣に『こんなおじさんが一人で泊まるなんて、なんか訳アリだろうな』とか思われているんだろうなと、岩関は被害妄想を立てていた。しかもこんな真夜中に泊まるなんて、不審者と思われても仕方ない……岩関は自分のことを悲観している。

 土曜日のホテルは予約で一杯なはずなのに、このホテルは違った。営業しているかどうかも、一見判断がつかないような古いホテルだったから、大丈夫だとは踏んでいたけど、まさか余裕で入室できるとは。

 それにしても、こんな若くて綺麗なお姉さんがフロントをやっているなんて……岩関はチェックイン手続きをしてくれている宇垣をチラチラ見ながら、このホテルの不思議さについて考えていた。

 狭いロビー、フロントの前には自動販売機が一台。あとはロビーチェアがちょこんとある。エレベーターは一基だけあるみたいだけど、雑居ビルのエレベーターみたいに動く度に大きな音がしそうだ。

 フロントの照明も暗めで、若干のホラー感を覚える。今年四十五歳になる岩関も、さすがに泊まることに躊躇いがないわけでもない。

 でも、ここまで手続きをしてしまったし、帰るわけにはいかない。それにもう終電はないのだから、ここに泊まる以外に選択肢がないのは知っている。

 手続きを待っているまでの間、自販機の横の壁にある全身鏡が岩関を映しているのが目に入った。

 小太りで顔も真ん丸。背の小ささを補うために、髭を伸ばして威厳を見せている。何だか惨めに思えてきた。

 もう少し、男としてカッコ良かったら、こんな時間に一人でホテルに泊まることなんてないだろうに……宇垣に気づかれないように、ハァーと溜息をついた。

「あれ、何かお悩みですか?」
「は、はい?」
「今溜息をつかれたので、何かあったのかと」

 ちゃんと小さくやったのに、宇垣にバレていたみたいだ。思ったよりも敏感に反応してくる宇垣に、岩関は「まあ……色々と」と言って苦笑いした。
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