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4章 バツイチ男の後悔 ~カレー丼~

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 ケーブルカー駅周辺にまで来た。沢の水を横目に、ところどころ話しながら歩いたら、ここまであっという間だ。

 則宏にお腹が空いたかを確認したけど、実際は岩関自身が空いていたのだった。それを見透かしているかのように、則宏が「父さん空いたでしょ?」と聞いてきた。

「ああ、朝から何も食べてなくてな」
「俺は別に食べてもいいよ。ちょうどあそこに食べるところありそうだし」

 則宏の方がよっぽど大人なんじゃないかと、父親の威厳がなくなったことに笑いたくなる。岩関は「じゃあ寄っていこう」と、休憩施設を指差した。

「蕎麦でいいよな?」

 岩関はそう聞いた後に、そもそも本格的な昼飯を食べられるところは蕎麦屋しかないことに気がついた。則宏が「まあ、それしかなさそうだね」と冷静な口調で返答する。

 感情の起伏を感じられない則宏に困惑しつつも、「そのようだな」と落ち着いているように見せて蕎麦屋に入った。

「何でも好きなの食べろよ? 則宏、体細いからな。いっぱい食べろ」
「……じゃあ、これ」

 則宏が指差したメニューはかけそばだった。他にも天ぷらそばやとろろそばなどがいっぱいあるのに、一番安いノーマルのものだ。さすがに岩関が「それだけじゃ足りないだろ」と目を細めると、「あと……」と何かを付け足そうとし出した。

「あと、これも」

 特別丼セットの中から、カレー丼をチョイスする。遠慮がなくなったことにホッとして、岩関も「じゃあ俺もそれにしよう」とにこやかに手を挙げた。店員に同じセットを二つ注文する。

「カレーといえば、母さんが作ってくれたカレー、美味しかったな」

 僅か三分ほどで、二人分のセットが運ばれてきた。カレーライスとは違った軽やかさを感じるカレー丼。和の香りが漂う、蕎麦屋の出汁の風味を感じさせるサラサラのルーが、ホカホカ白ご飯にかかっていた。

 それを一口食べた後、カレー丼の感想よりも、マキコが作ってくれたカレーライスの話が口から出ていた。

 離婚の話が出たあの夜、あの日の夕ご飯もカレーライスだった……岩関が懐かしむように話すと、則宏は返す言葉に困りながらも、「今も時々作ってくれるよ」とだけ言った。

 岩関は則宏を困らせてしまったと即座に反省し、それからはしばらく無言で食べ進めることになった。

 ものの十分ほどで二人共完食し、蕎麦屋を後にする。

 トイレ休憩だけしてから、また上り始めた。マキコのカレーライスの話から、微妙な空気感が流れてしまっている。岩関は心の中で、マキコの話をしたことを少しだけ悔やんでいた。
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