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4章 バツイチ男の後悔 ~カレー丼~

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 則宏が今日言った、『俺の父さんは、父さんだから』というセリフが、脳内に響いてくる。

 そう……岩関は今、切り替えようと必死に思考を回していた。その中で、則宏の存在が光って広がった。

「マキコの幸せが、則宏の幸せですもんね」

 岩関はサオの顔を見ながら、涙目で薄っすらと笑った。サオはその強がっている要素が含まれている切ない顔を見つめながら、「奥様だけではないですよ。お父様の幸せも願っています」と返した。

「俺の幸せも……か」

 今度こそ泣きそうになっている。岩関は天井を見るように首を傾け、「そうだよなぁ」と呟いた。

「奥様に認めてもらおうと自分を見つめ直して、人格を変える努力をしたことは、紛れもない事実です」
「あ、ありがとうございます。褒めてもらっちゃって」
「いえいえ。だからきっと、息子様もお父様を気にかけるのだと思いますよ。昔のままだったら、どうだったかはわかりません」

 岩関は「確かに」と苦笑し、過去の自分を思い出した。傲慢で家庭を顧みなかったダメな父親から、今は他人のことを考えて生きるようにしている。

 その違いが、則宏の優しさに繋がっているのかもしれない。そう思うと、ここまで希望を持って生きてきて良かったと思えた。

「則宏に安心してもらえるように、自分も動き出さないと……か」

 うんうんと、自分に納得するように頷いて、また豪快に蕎麦を吸い込んだ。岩関は一点見つめしながら咀嚼して、飲み込んだ後に「もう、過去には戻れないしな」と、遠くの方に語りかけるように呟いた。

 自分に言い聞かせて、そして踏ん切りがついたのか、サオに「ありがとうございます」を言ってから残りの麺をつゆの中に落とし、そして最後の一口を平らげた。

 あとはカレー丼だけだ。

 岩関はスプーンを持って、カレー丼と一対一の勝負に徹することにした。

 頭の中で、マキコが作ってくれたカレーライスを食べているところを思い出しながら、かき込んでいく。

 どうしてあの時、『美味しい』とか『もっと食べたい』とか言わなかったのか。どうして仏頂面で、仕事のことを考えながら食べていたのか。

 過去のダメな自分を払拭するように、サオ特製のカレー丼を頬張っていく。
 
 スプーンで、残っている米粒を一粒残さず口に入れた。空になった丼鉢を置いて、力強く咀嚼する。

 思い残すことのないように味わってから、「ごちそうさまでした」と手を合わせた。そのまま丼鉢をサオに渡す。

 良い食事をすると、心が晴れ晴れする……岩関はそう感じていた。サオのカレー丼セットのおかげで、また一から自分で頑張ろうと決心できたのだ。
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