6月20日、午後3時

祖母の突然の死。遺品整理の最中、17歳の菜月が見つけたのは一枚の古い紙切れだった。そこには祖母の筆跡で「6月20日 午後3時 教室で待っています」と記されている。翌日がまさにその日付であることに気づいた菜月は、祖母がかつて教鞭をとっていた廃校寸前の椿野小学校へ向かう。
人気のない校舎、きしむ廊下、そして止まったままの古い時計。三年松組の教室に足を踏み入れた菜月を待っていたのは、透けた姿で静かに座る五人の子どもたちだった。彼らは言葉を発することなく、ただじっと前を向いている。
午後3時の鐘が鳴る時、教室に現れたのは若き日の祖母の姿。そこで明かされる昭和43年の豪雨災害の真実、50年間語られることのなかった約束、そして教師と教え子たちの深い絆——。
この作品は、一般的なホラーとは一線を画す「じんわり系ホラー」です。恐怖要素を含みながらも、最終的には深い感動で心が満たされる新感覚の物語。廃校となる木造校舎、山間の過疎化した村という日本人の心に響く舞台設定で、古き良き時代への郷愁と失われゆくものへの愛おしさが溢れています。
教師という職業の尊さ、子どもたちとの絆の美しさを幻想的でありながら現実味のある筆致で描写し、「人の記憶は愛によって継がれていく」というメッセージが物語の根底に流れています。
ホラーは苦手だけれど少しドキドキする話を読んでみたい方、感動的な物語で心を癒やされたい方、祖父母との思い出を大切にしている方、教育現場に関わりのある方に特におすすめです。
読み終えた後は、きっと大切な人への感謝の気持ちでいっぱいになることでしょう。記憶とは何か、愛とは何か、そして生きるとは何かを静かに心に問いかけてくる珠玉の一編。「ありがとう」という言葉の重みを改めて感じられる、心温まる物語です。
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