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「…………」
「…………」

 胸の高鳴りが止まらない。
 雪の中だというのに、汗が止まらない。
 マークから目が離せない。

 彼は少し頬を染め、真っ直ぐ私を見つめている。
 私も顔を赤くし、マークの顔を見つめていた。

 正直……嬉しい。
 マークのことはなんとも思っていなかったと思っていたけど、こうして言葉にされると、彼のことを意識してしまう。
 ああ。
 私は、マークのことが好きだったのかもしれない。

「……大事なものって、案外いつも傍にあるものだ。お前は都会にいけば何かが見つかると思っているかもしれないが……多分、都会に行っても見つかりはしない」
「…………」
「俺が断言する。お前の大事なものは、全部あの村にある。お前は時折つまらなそうにしているが、本当はあの村が好きなはずだ。何か理由をつけて、逃げ出そうとしていただけだろ」
「……そうなのかな?」

 何もない村が嫌だった。
 でも、本当は好きだったのか?
 何もないけど……温かい村。
 雪に囲まれていたも、温もりに満ちている村。

 何もないわけじゃなったのか。
 自分では気づかないだけで、本当は全部あったんだ。 
 自分の大事なものは。

「……それで、返事は?」
「え?」
「……あの男のところに行くのか?」
「……行かないよ」

 私は起き上がり、マークの前に腰を下ろす。
 二人で焚火を見つめる体勢となり、彼は少し戸惑っているようだった。

「私のことを温めて。都会のことなんか忘れるぐらい温めてくれたら、あんたとずっといてあげる」
「…………」

 後ろからマークが私を抱きしめる。
 温かい……この人なら、きっと私を守ってくれる。
 何があろうと見捨てたりはしない。
 雪の中で取り残されても、きっと助けてくれる。
 実際、助けに来てくれた。

 大丈夫だ。
 マークは信じて大丈夫だ。

 ああ。本当に大事なものって、すぐ傍にあったんだ。

 私はマークの服をギュッと掴み、彼の顔を見上げる。

「……もっと早く気づけばよかった。この気持ちに」
「……今からだって遅くはない。これからも俺はずっと傍にいる」
「ん……」

 私が目を閉じるとマークは息を呑み、そしてキスをする。

 長い長いキスだった。
 この寒い雪を溶かしてしまうような熱いキス。

 ついさっきまでは死んでしまうのかもという不安もあったが、もう大丈夫。
 どんな時も、マークがいれば私はそれでいい。
 
 彼の温かい胸の鼓動を感じながら、私は幸福感に包まれていた。
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