18 / 18
SS
【書籍化記念SS】シャンパンの泡のように
しおりを挟む
皆様のおかげでレジーナブックス様から3月末に書籍化することが決定いたしました。
本当にありがとうございます!
=====================
晩餐の用意が整いましたとメイドに呼ばれ、食堂へと降りていく。
「待ってミシェルお姉さま。一緒に行きましょう」
階段の途中で妹のソフィアが追い付いてきて、私の隣に並んだ。
「ねえ、ヴィンセント様ってとっても素敵な方ね。お姉さまったらいつお知り合いになったの?」
ワクワクした顔のソフィアが、婚約の挨拶で顔合わせをしたばかりのヴィンセントのことを聞いてくる。
「どこって……その、パーティーよ」
昼間から庭で飲んだくれていたなんて可愛い妹に言うわけにもいかず、当たり障りない嘘をつく。
「嘘でしょう。私、パーティーでヴィンセント様をお見掛けしたことありませんもの」
「あなたはデビューしたばかりでしょうソフィア。たまたまタイミングが合わなかっただけよ」
ちっとも信じてない顔でソフィアが唇を尖らせる。
少し前までは簡単に騙されてくれる素直な子だったのに、成長したものだ。
「私もあんな素敵な方と出会えるかしら」
「そうね。ソフィアなら選び放題よきっと」
「そんな……」
誇張ではなくそういうと、ソフィアが頬を染めて恥じらうようにうつむいた。
急造品の淑女だった私と違って、ソフィアは生まれつき可憐で可愛らしい。
デビュー後間もないにもかかわらず、すでに何人もの男性から打診がきているらしい。
その中から父が良い縁談を吟味している最中だ。
評判のよくない男性も混ざっているから、またソフィアの耳に入らないようにしているのだ。
食堂に着くと、使用人がドアを開けてくれた。
先に席についていたヴィンセントが、立ち上がってにこりと私に笑いかける。
両親のいる前だからか、それとも素面だからか。
いつもよりおすまし顔の彼に、心臓が高鳴るのを抑えられない。
「やっぱり素敵」
ソフィアが私にこっそり囁く。
それには完全に同意だけど、姉の威厳を保つために「そうね」と冷静なフリで答えた。
執事に誘導され、ヴィンセントの隣に座る。
「すごく綺麗だ」
晩餐用のフォーマルスタイルドレスに着替えた私を見て、ヴィンセントがさらりと言う。
「……ありがとう」
そっけなく礼を言う。
真顔を保つことにはなんとか成功したが、じわりと頬が熱くなるのは止められなかった。
前から思っていたけれど、ヴィンセントは女性の扱いがかなりスマートだ。
「昼間から飲む気満々のゆるい服装も好きだけど」
小声で付け足して、揶揄うような顔をこちらに向ける。
「あれは飲む気だからじゃなくて自宅の庭だから!」
言い返して睨むけれど、ヴィンセントは涼しい顔だ。
「さて、皆揃ったようだから始めようか」
なおも言い返そうとしたところで、父がグラスを持って立ち上がる。
それを合図に使用人たちがグラスに飲み物を注ぎ始めた。
「本日は我が家まで足を運んでくれてありがとう。知っての通り、娘のミシェルがヴィンセント王子と婚約いたしました」
親しい招待客たちに感謝の言葉を述べて、父が私たちのことを紹介する。
一斉に視線が集まって、つい気後れしてヴィンセントを見てしまう。
彼は優しい目で私を見ていた。
その目に励まされ、背筋を正してみんなの視線を受け止める。
注目されるのはあまり得意ではないけれど、彼らが私に向ける目は一様に温かい。
ナルシスとの一件で同情的だった人たちばかりだ。心からヴィンセントとの婚約を祝福してくれているのが伝わってくる。
「二人の幸せがこのシャンパンの泡のように長く続くことを願って」
乾杯、と父が言うのに合わせて全員が唱和する。
和やかな晩餐の始まりだ。
父の秘蔵のシャンパンはとても美味しくて、一口だけのつもりが一気に半分までいってしまった。
すかさず使用人が注ぎ足してくれる。
「君のとこの使用人、訓練され過ぎじゃない?」
「素直に有能だと褒められないわけ?」
「飲み過ぎないようにね」
「あなたこそ」
招待客たちからの祝福の言葉に笑顔で応えながら、ヴィンセントとコソコソ囁きを交わし合う。
「俺はミシェルに注がれなければそんなに飲まない」
「よく言うわ。ほっといても自分で勝手に注ぐくせに」
「ミシェルのペースに合わせてるんだよ」
いつもの調子で言い合う間にも、後ろに控えている使用人が私たちのグラスが空にならないようお酒を注ぎ足していく。
自分たちで注がないせいで、どれくらい飲んだかすぐに分からなくなってしまった。
「おまえたち……もう少しゆっくりシャンパンの味を楽しみなさい」
ハイペースで飲まれていく特級品のシャンパンに、切なそうな顔で父が言う。
「とても美味しいです、ぺルグラン公爵」
「今まで飲んだ中で一番よ」
二人揃っていい笑顔で答える。
事実、今まで飲んだ中で一番だ。
あまりに美味しくて、人前だから飲むペースを控えようとした決意が泡のように消えてしまったほどに。
「私たちのために素敵なお酒を用意してくれて本当にありがとう、お父様」
「そうか。おまえたちが気に入ってくれたならよかった」
心からの言葉を伝えれば、父は涙ぐんで笑ってくれた。
隣国にお嫁にいっても、こまめに里帰りをしよう。
父のために、いいお酒を携えて。
ありのままの私を愛してくれた父への感謝を胸に、心に固く誓った。
本当にありがとうございます!
=====================
晩餐の用意が整いましたとメイドに呼ばれ、食堂へと降りていく。
「待ってミシェルお姉さま。一緒に行きましょう」
階段の途中で妹のソフィアが追い付いてきて、私の隣に並んだ。
「ねえ、ヴィンセント様ってとっても素敵な方ね。お姉さまったらいつお知り合いになったの?」
ワクワクした顔のソフィアが、婚約の挨拶で顔合わせをしたばかりのヴィンセントのことを聞いてくる。
「どこって……その、パーティーよ」
昼間から庭で飲んだくれていたなんて可愛い妹に言うわけにもいかず、当たり障りない嘘をつく。
「嘘でしょう。私、パーティーでヴィンセント様をお見掛けしたことありませんもの」
「あなたはデビューしたばかりでしょうソフィア。たまたまタイミングが合わなかっただけよ」
ちっとも信じてない顔でソフィアが唇を尖らせる。
少し前までは簡単に騙されてくれる素直な子だったのに、成長したものだ。
「私もあんな素敵な方と出会えるかしら」
「そうね。ソフィアなら選び放題よきっと」
「そんな……」
誇張ではなくそういうと、ソフィアが頬を染めて恥じらうようにうつむいた。
急造品の淑女だった私と違って、ソフィアは生まれつき可憐で可愛らしい。
デビュー後間もないにもかかわらず、すでに何人もの男性から打診がきているらしい。
その中から父が良い縁談を吟味している最中だ。
評判のよくない男性も混ざっているから、またソフィアの耳に入らないようにしているのだ。
食堂に着くと、使用人がドアを開けてくれた。
先に席についていたヴィンセントが、立ち上がってにこりと私に笑いかける。
両親のいる前だからか、それとも素面だからか。
いつもよりおすまし顔の彼に、心臓が高鳴るのを抑えられない。
「やっぱり素敵」
ソフィアが私にこっそり囁く。
それには完全に同意だけど、姉の威厳を保つために「そうね」と冷静なフリで答えた。
執事に誘導され、ヴィンセントの隣に座る。
「すごく綺麗だ」
晩餐用のフォーマルスタイルドレスに着替えた私を見て、ヴィンセントがさらりと言う。
「……ありがとう」
そっけなく礼を言う。
真顔を保つことにはなんとか成功したが、じわりと頬が熱くなるのは止められなかった。
前から思っていたけれど、ヴィンセントは女性の扱いがかなりスマートだ。
「昼間から飲む気満々のゆるい服装も好きだけど」
小声で付け足して、揶揄うような顔をこちらに向ける。
「あれは飲む気だからじゃなくて自宅の庭だから!」
言い返して睨むけれど、ヴィンセントは涼しい顔だ。
「さて、皆揃ったようだから始めようか」
なおも言い返そうとしたところで、父がグラスを持って立ち上がる。
それを合図に使用人たちがグラスに飲み物を注ぎ始めた。
「本日は我が家まで足を運んでくれてありがとう。知っての通り、娘のミシェルがヴィンセント王子と婚約いたしました」
親しい招待客たちに感謝の言葉を述べて、父が私たちのことを紹介する。
一斉に視線が集まって、つい気後れしてヴィンセントを見てしまう。
彼は優しい目で私を見ていた。
その目に励まされ、背筋を正してみんなの視線を受け止める。
注目されるのはあまり得意ではないけれど、彼らが私に向ける目は一様に温かい。
ナルシスとの一件で同情的だった人たちばかりだ。心からヴィンセントとの婚約を祝福してくれているのが伝わってくる。
「二人の幸せがこのシャンパンの泡のように長く続くことを願って」
乾杯、と父が言うのに合わせて全員が唱和する。
和やかな晩餐の始まりだ。
父の秘蔵のシャンパンはとても美味しくて、一口だけのつもりが一気に半分までいってしまった。
すかさず使用人が注ぎ足してくれる。
「君のとこの使用人、訓練され過ぎじゃない?」
「素直に有能だと褒められないわけ?」
「飲み過ぎないようにね」
「あなたこそ」
招待客たちからの祝福の言葉に笑顔で応えながら、ヴィンセントとコソコソ囁きを交わし合う。
「俺はミシェルに注がれなければそんなに飲まない」
「よく言うわ。ほっといても自分で勝手に注ぐくせに」
「ミシェルのペースに合わせてるんだよ」
いつもの調子で言い合う間にも、後ろに控えている使用人が私たちのグラスが空にならないようお酒を注ぎ足していく。
自分たちで注がないせいで、どれくらい飲んだかすぐに分からなくなってしまった。
「おまえたち……もう少しゆっくりシャンパンの味を楽しみなさい」
ハイペースで飲まれていく特級品のシャンパンに、切なそうな顔で父が言う。
「とても美味しいです、ぺルグラン公爵」
「今まで飲んだ中で一番よ」
二人揃っていい笑顔で答える。
事実、今まで飲んだ中で一番だ。
あまりに美味しくて、人前だから飲むペースを控えようとした決意が泡のように消えてしまったほどに。
「私たちのために素敵なお酒を用意してくれて本当にありがとう、お父様」
「そうか。おまえたちが気に入ってくれたならよかった」
心からの言葉を伝えれば、父は涙ぐんで笑ってくれた。
隣国にお嫁にいっても、こまめに里帰りをしよう。
父のために、いいお酒を携えて。
ありのままの私を愛してくれた父への感謝を胸に、心に固く誓った。
121
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(167件)
あなたにおすすめの小説
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います
菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。
その隣には見知らぬ女性が立っていた。
二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。
両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。
メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。
数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。
彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。
※ハッピーエンド&純愛
他サイトでも掲載しております。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」
ここは私の邸です。そろそろ出て行ってくれます?
藍川みいな
恋愛
「マリッサ、すまないが婚約は破棄させてもらう。俺は、運命の人を見つけたんだ!」
9年間婚約していた、デリオル様に婚約を破棄されました。運命の人とは、私の義妹のロクサーヌのようです。
そもそもデリオル様に好意を持っていないので、婚約破棄はかまいませんが、あなたには莫大な慰謝料を請求させていただきますし、借金の全額返済もしていただきます。それに、あなたが選んだロクサーヌは、令嬢ではありません。
幼い頃に両親を亡くした私は、8歳で侯爵になった。この国では、爵位を継いだ者には18歳まで後見人が必要で、ロクサーヌの父で私の叔父ドナルドが後見人として侯爵代理になった。
叔父は私を冷遇し、自分が侯爵のように振る舞って来ましたが、もうすぐ私は18歳。全てを返していただきます!
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
シャンパンの泡のように🥂初期化かと合わせておめでたい‼️🎉✨😆✨🎊シャンパンの泡のように後からあとから立ち上る泡のように良い時が続きますように🥂。
ありがとうございます!シャンパンの泡のようにってすごく素敵な言葉ですよね🥳🍾
書籍化おめでとうございます🎉🎉🎉
ありがとうございます!
表紙がとにかく最高なので、書影が公開されましたらご覧いただけると嬉しいです☺
書籍化おめでとうございます。大好きな作品なので自分のことのように嬉しいです。
これはいいお酒で祝わなければ!
飲まれっぱなしのパパンにもいいお酒を補充してあげてください…笑
ありがとうございます!そう言っていただけてとても嬉しいです!😆
きっと結婚後は里帰りのたびミシェルが選んだお酒とヴィンセントが選んだお酒で保管庫が潤うことでしょう…✨