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割り振られた部屋で、何もせずにひたすら背筋を伸ばして待ち続ける。

今日からここが私の部屋となるらしい。
住んでいた家の敷地面積よりも広いその部屋は、前に使っていた人の趣味なのか、煌びやかな調度で揃えられていて目に眩しい。

貧乏暮らしに満足していたのに、何をどう間違ってこんなところにいるのか。

今の自分よりもよほど地位が高いだろう娘たちに、頭のてっぺんから足の先まで磨かれて、こうしてバカでかいベッドの上にたった一人。

自分の置かれた状況に呪詛の言葉を吐きたくなる。

望まない後宮入りでただでさえイライラしているのに、これから私は王様と寝なければならない。
王という存在自体が大嫌いなのに、なぜ貴重な初体験を捧げなければいけないのか。

半年前までこの国に君臨していた先王は、絵に描いたような暴君だった。
自分の享楽のために国庫を開けさせ、苦言を呈すまともな役人を処刑し、甘い汁を吸いたいだけの愚かな貴族を重用した。
結果、国は見事に荒廃し、一部の特権階級を除き国民のほとんどは困窮するハメになった。

贅沢が祟って半年前に急死したと聞いた時は町を上げてのお祭り騒ぎだったが、結局今も何も変わらないままだ。
代替わりしたのは知っているが、なにせ先王と血の繋がった息子だ。どうせ新王も似たようなもんだろう。

セックスが下手だったら鼻で笑ってやろうか。
激昂した王に刺し殺されて、この悪趣味な部屋を血塗れにしてやれたらいっそ清々しいかもしれない。

昏い考えが浮かぶが、別れ際の悲壮感漂う養父の顔を思い出して唇を噛む。

父のためにも生きて帰らねばならない。

この絶望に彩られた、女だらけの後宮から。


ノックもなしにドアが開く。
思わず身を固くして、ともすれば全力で睨みつけてしまいそうなのを堪えて、この後宮の主が入ってくるのを待った。

冴えない顔だ。

薄暗い明かりの中、幽鬼のようにふらりと侵入した男は、ベッドの前に立つと無感動な目で私を見下ろした。

「……初めて見る顔だな」

掠れた声は張りがなく、今にも消え入りそうだった。
これは本当に王様なのだろうか。
使用人の一人が間違えて入り込んでしまったのではないのか。

「シア・レゾナントと申します」

不審に思いながら、もう捨てたはずの家名を名乗る。

「ああ……レゾナント卿の……」

思い当たったようにつぶやいて、不景気そうな顔を改めもせずに小さく頷いた。
自分でレゾナント家の娘を要求したくせに、どうしてこんなに興味がなさそうなのか。

名前での指定はなかったらしいから、私でも問題はないはずだ。

「では始めるか……」

億劫そうに言って、ベッドに乗り上げ私の服の裾に手を掛ける。
ムードもクソもないが、これは私が盛り上げてやるべきなのだろうか。

はっきり言ってそんなの無理だ。
だって経験がない。

元婚約者のトーザは十個も年上で、ロリコンの気はないと当時十五の私に手を出さなかった。
そもそも生意気で気が強い私を煙たがっていたから、十八だったとしても手は出されなかっただろうが。

さすがに震えだすほどか弱くないが、それでもなんの説明もなく始められると対処に困る。
手順やマナーがわからないのだ。

下手なことをしたくなくて動けないでいると、王様の不景気な顔が怪訝そうに歪められた。

「……もしやと思うが、生娘か?」

うるせー馬鹿。処女で何が悪い。

心の中で言い返す。

三年間のスラム生活ですっかり口が悪くなってしまった。
だけどこんな不躾な物言い、ストリートキッズでさえしなかった。

「ええ、まぁ」

イラつきながらも正直に答える。
こんなところで嘘を吐いたってどうせすぐバレる。

答えた後に妙な間があった。
そうしてただでさえ冴えなかった顔色がさらに曇って。

物凄く面倒臭そうな、長い長いため息がその口から漏れ出したのだった。
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