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駅に向かう。
遠目にノクトが見えて自然と笑顔になった。
すぐに気付いた。だってオーラが違う。
彼は駅周辺の通行人たちから注目を集めていて、それは私の欲目でも何でもなく事実だった。
逆ナンしようとしてる女子が声をかけるも、軽くあしらわれているのが見えた。
しつこく食い下がらない辺り、次元の違う美に腰が引けているのだろうか。
やっぱりノクトは本当に存在しているんだな。
改めて思って、少し離れたところでしばし足を止めて見惚れる。
――私のようなつまらない人間が、彼の側に寄っていいのかな。
「あかり」
今更なことを考えていると、ノクトが私に気付いて超絶かわいい笑顔で片手を上げて近付いてくる。
キュンキュンしながら走り寄ると、ノクトの笑みが濃くなった。
「おかえり」
「た、ただいま……」
外で言われたことに、さらに胸が高鳴る。
帰る場所は家ではなく、ノクトなのだと思うと悶えたくなるほどの幸福を感じた。
さっきまでの焦燥じみた不安はあっさり吹き飛んでいった。
ノクトが笑ってくれるなら、私がなんであろうと関係ない。
「うわー! 本気ですげぇイケメン出た!」
「これは貢いでもしょうがない……」
「私も騙されたい……」
背後から聞きなれた声がして反射的に振り返る。
「うわぁ!」
振り返ると、さっきまで一緒に飲んでいたメンバーが勢ぞろいしていた。
「どうも初めましてあかりの同僚の清田です」
「上司の藤下です」
「所長の加藤です」
めいめいが勝手に自己紹介を初めてノクトの前に並ぶ。
みんなめちゃくちゃにいい笑顔だ。
「カルナティオだ。あかりの家に住んでいる」
「日本語お上手ですね!」
「どちらのご出身ですか?」
「イタリア辺境の小さな町だ」
ノクトが戸惑いつつ、適当な嘘を混ぜてそつなく挨拶を返す。
さすがです魔王様。
「どうも、上司その2の篠宮です」
一拍遅れて篠宮が前に進み出る。
「篠宮……」
名前を聞いてノクトが小さく呟いた。
少し目つきが鋭くなったような気がした。
「この前電話でお話しましたよね」
篠宮はにこやかに言って、握手を求めるように右手を差し出した。
「……二人でじゃなかったんだな」
それに応じながら、ホッとしたような口調でノクトが言う。
「ああ、なるほど」
何かに気付いた表情になって、篠宮が愛嬌たっぷりに笑う。
「ご安心を。大切な人がいる女性を二人きりの場に誘ったりしません」
茶目っ気の滲むウインクを見せてノクトの手を放す。
「すまない。誤解があったようだ」
「いえいえ」
何故か詫びるノクトに、篠宮が余裕の表情で答えた。
「若宮。お前すごいな」
「え? 何がです?」
それから妙に感心したように言われて首を傾げるしかない。
すごいというなら篠宮だ。ノクト相手に少しも物怖じせず、むしろ少し強気な態度で。
飄々とした食えないおじさんだと思っていたけれど、その印象はさらに強まった。
遠目にノクトが見えて自然と笑顔になった。
すぐに気付いた。だってオーラが違う。
彼は駅周辺の通行人たちから注目を集めていて、それは私の欲目でも何でもなく事実だった。
逆ナンしようとしてる女子が声をかけるも、軽くあしらわれているのが見えた。
しつこく食い下がらない辺り、次元の違う美に腰が引けているのだろうか。
やっぱりノクトは本当に存在しているんだな。
改めて思って、少し離れたところでしばし足を止めて見惚れる。
――私のようなつまらない人間が、彼の側に寄っていいのかな。
「あかり」
今更なことを考えていると、ノクトが私に気付いて超絶かわいい笑顔で片手を上げて近付いてくる。
キュンキュンしながら走り寄ると、ノクトの笑みが濃くなった。
「おかえり」
「た、ただいま……」
外で言われたことに、さらに胸が高鳴る。
帰る場所は家ではなく、ノクトなのだと思うと悶えたくなるほどの幸福を感じた。
さっきまでの焦燥じみた不安はあっさり吹き飛んでいった。
ノクトが笑ってくれるなら、私がなんであろうと関係ない。
「うわー! 本気ですげぇイケメン出た!」
「これは貢いでもしょうがない……」
「私も騙されたい……」
背後から聞きなれた声がして反射的に振り返る。
「うわぁ!」
振り返ると、さっきまで一緒に飲んでいたメンバーが勢ぞろいしていた。
「どうも初めましてあかりの同僚の清田です」
「上司の藤下です」
「所長の加藤です」
めいめいが勝手に自己紹介を初めてノクトの前に並ぶ。
みんなめちゃくちゃにいい笑顔だ。
「カルナティオだ。あかりの家に住んでいる」
「日本語お上手ですね!」
「どちらのご出身ですか?」
「イタリア辺境の小さな町だ」
ノクトが戸惑いつつ、適当な嘘を混ぜてそつなく挨拶を返す。
さすがです魔王様。
「どうも、上司その2の篠宮です」
一拍遅れて篠宮が前に進み出る。
「篠宮……」
名前を聞いてノクトが小さく呟いた。
少し目つきが鋭くなったような気がした。
「この前電話でお話しましたよね」
篠宮はにこやかに言って、握手を求めるように右手を差し出した。
「……二人でじゃなかったんだな」
それに応じながら、ホッとしたような口調でノクトが言う。
「ああ、なるほど」
何かに気付いた表情になって、篠宮が愛嬌たっぷりに笑う。
「ご安心を。大切な人がいる女性を二人きりの場に誘ったりしません」
茶目っ気の滲むウインクを見せてノクトの手を放す。
「すまない。誤解があったようだ」
「いえいえ」
何故か詫びるノクトに、篠宮が余裕の表情で答えた。
「若宮。お前すごいな」
「え? 何がです?」
それから妙に感心したように言われて首を傾げるしかない。
すごいというなら篠宮だ。ノクト相手に少しも物怖じせず、むしろ少し強気な態度で。
飄々とした食えないおじさんだと思っていたけれど、その印象はさらに強まった。
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