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週末は約束通り、ノクトと二人でのんびり過ごした。
仕事は持ち込まず、一緒に昼寝もして、並んで少し凝った料理に挑戦して。

それから夜にベッドに寄り掛かって映画鑑賞をした。

肩が触れ合う距離にノクトがいて、内容はちっとも頭に入ってこなかった。

戻る方法を考えながらぼんやりと画面を眺めていると、ふいに肩に重みを感じる。

「わひっ」

少し疲れたのか、ノクトの頬が私の肩に載っていた。
私の小さな奇声に、すっかり慣れたのかノクトは反応せず、画面に視線をやったまま無言でいた。

ドギマギしながら身動きできずにいると、いつの間にか映画が終わってエンドロールが流れ始めていた。

「……なんだかよくわからん話だったな」
「だ、だね、ちょっと難しかったかも」

挙動不審になりながらリモコンの停止ボタンを押す。
画面はホームに戻ったのに、ノクトは離れていかなかった。

「……狭苦しい家ですみません」

今更改めて詫びたくなる。
ノクトが近くにいてくれるのはこの部屋が狭いからだ。
同じベッドで寝てくれるのもきっとそう。

魔王として君臨していた頃は、あんなに豪華で広いお城に住んでいたのだ。
きっと息苦しくて疲れが溜まってしまうのだろう。
こんなことならノクトが来た日に広い家に引っ越せば良かった。
お金ならいくらでもあるのだし、ノクトがいなくなった後の生活を考える必要もないのだ。
最初からノクトの個室があれば、私の目をはばかることもなく調べものに没頭できただろうに。

「この家は、」

ノクトが目を閉じて、猫のように顔を私の肩にこすりつけた。

「あかりとの距離が近くて好きだ」

一瞬頭の中が真っ白になって何を言われたのかわからなくなる。

魔王というものは、身内と認めた存在に無償の愛を全力で注ぐものらしい。

勘違いしそうになるのを押さえて「私も」となんとか答える。

体温が急激に上昇して、じわじわと汗が滲んでいく。
心臓が速度を速めて、だけどウキウキとかワクワクとかそういうのじゃなくて、胸がぎゅっと引き絞られるような痛みを伴っていた。

それでようやく二次元の推しなんかではなく、生身の存在としてノクトを本気で好きになってしまったのだと気付く。
たぶんとっくに好きだった。

元の世界に帰りたがっている人に馬鹿なことを、と自虐的な気持ちで思って笑いそうになる。

「最初さ、ここのこと牢屋と間違えてたよね」

それを誤魔化すように茶化して言う。
ノクトが小さく笑いを漏らした。

「なんだと? 失礼なことを言う男がいるもんだ」
「ふふ。本当だね」

他人事のように言って、私の小指に自分の指を絡めた。
また鼓動が速度を増して、少し泣きそうになった。

もうこんな穏やかな時間はあと少ししか残されていない。
私が手掛かりを何一つ見つけられなくても、きっとこの人は辿り着いてしまう。

魔王が負けてしまったあの世界の行く末を想えば、平静ではいられないだろうから。

この穏やかな時間を、ノクトも少しは惜しんでくれているといいな。

そんなことを思いながら、指を絡め返して私もノクトの頭に頬を載せ目を閉じた。
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