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第六章
第五十六話 姫宮
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俺は葵に教えてもらった姫宮の家の住所を頼りに、姫宮の家の前にたどりついた。
普段からどこかお嬢様っぽい感じがしたので、それなりに豪華な家だと想像はしていたのだけれど、実物は俺の想像を遥かに超えた。
三階建ての広い白い建物に、その建物の面積の二倍くらいもある庭。そして、インターフォンは城のような階段を上がったところにある。
本物のお嬢様だったのか……
俺は遠慮がちにインターフォンを押すと、中から若い女の子のような声が聞こえてきた。
「あ、あの、姫宮さんの、同級生の、あ、秋月樹といいます」
俺はどもりがちにそういうと、インターフォンから歓喜にも似たような声が聞こえてきた。
「いつきくん? あのいつきくんなの! どうぞ、早く入って!」
柵のオートロックが解除されて、家のドアが開いた。
俺は恐る恐る玄関に足を踏み入れると、そこには若い女性が立っていた。女の子ではなく、女性だと判断したのは、服装がすごく大人っぽいからだ。
「あの、姫宮さんの、お姉さんですか?」
「えっ? いつきくんってお世辞とてもお上手ね! 私は愛ちゃんのお母さんよ~」
その軽い口調と若々しく綺麗な顔から、とても子供がいる母親だとは想像できない。なんとなく姫宮が学校一の美少女である理由が分かった気がする。遺伝だな……
にしても、もし、万が一、俺が姫宮と結婚したら、この人が俺のお義母さんになるのか……色々と複雑な気持ちだ。
「姫宮さんに話があって来たので、姫宮さんを呼んでいただけますか?」
「愛ちゃんに知らせずに、そのまま部屋に上がっちゃいな~」
「えっ?」
俺が戸惑った顔をすると、姫宮のお母さんが子供みたいに笑った。
「女の子はサプライズが大好きだよ! 彼氏なんだし堂々としなさい!」
いたずらごころのあるお母さんだな。
にしても娘の部屋にいきなり男を放り込んでいいものなのだろうか。もし、万が一、姫宮が今着替え中とかだったらアクシデントとかでは済まされないだろう。
それに、堂々と侵入しろということなのだろう。芽依に勝るとも劣らない天然ぶりだ。失礼しました。一応姫宮のお母さんなのだから。
内心で勝手に感想を浮かべて、そして謝りながら、俺は二階の姫宮の部屋に向かった。姫宮のお母さんがいうには、三階はプロジェクトで映画を見る部屋だという。贅沢極まりない、いや、羨ましい。
姫宮の部屋の前で、ゆっくりドアを叩くと、中から姫宮の声が聞こえてきた。
「お母さん、朝食はいらないって言ったでしょう? もうほっといてよ~」
姫宮って家の中ではこんなに甘える感じなのか。思わずそれを知ってしまった背徳感に苛まれた。
「あの、お母さんじゃなくてごめんね。俺なんだけど、入るね」
一応姫宮のお母さんにサプライズ云々言われたので、俺はしゃべると同時に姫宮の部屋に入った。
姫宮の長い綺麗な黒髪が少し外にはねて、目が眠たそうに閉じかかっている。姫宮は可愛らしい白のパジャマを着て、女の子座りで、うっとりとした目で俺を見つめた。
「誰~」
「俺だよ」
「オレオレ詐欺の方ですか~」
相当寝ぼけているな……にしても、姫宮の意外な一面を見れて、少し優越感と嬉しさを覚えた。姫宮って朝に弱いんだ……
「魔王」が家では甘えん坊で、寝起きは赤ちゃんみたいだって学校の連中が知ったらどういう反応するだろうね。まあ、いうつもりはないし、俺だけの秘密だから。
俺は姫宮に近づいて、ベッドの上に座った。少し図々しいかもしれないけど、こうでもしないと、姫宮に俺を認識してもらうのは困難だと判断したから。
近くで姫宮の顔を覗くと、姫宮の目じりが赤く腫れていて、前髪も、涙を拭くときに巻き込まれかのか少し湿っていて、曲がっている。これが俺のせいだと思うと、後悔と自責の念が何度も心に押し寄せてくる。
「い、いつきくん!」
急に姫宮が悲鳴を上げて、そして、涙がとめどなくあふれてきた。その一粒一粒が宝石のように輝いて、雫となって頬から落ちた。
「なんで、私の部屋にいるの……」
「お母さんに堂々と入ってって言われたから」
「お母さんったら、また勝手なことして……」
「びっくりした?」
「びっくり……なにしに来たのよ!」
俺に返事しかけて、昨日のことを思い出したのか、姫宮は少し怒っている顔になった。
「謝りに来た」
「謝る? 昨日そんなひどいこと言って私を振ったのに……?」
ごもっともです……でも、ここで引き下がるわけにはいかない。
「姫宮に告白したのは罰ゲームに負けたから」
「えっ?」
「そして、最初は姫宮のことおっかない、何か企んでいると思ってた」
「ひどすぎる……」
「結月とは中学校の恋人で、事情があって、色々なことがあった」
「私を懺悔室だと勘違いしてない?」
確かに、謝るといったのに、まだ自分の罪を懺悔しているようなことしか言ってない。だが、俺は姫宮にすべてを話すつもりだ。ほんとの恋人にために、俺はすべてを姫宮に話してから、謝らなければならない。
「結月には中学校で傷つけられた」
「……」
姫宮の言葉を無視したせいか、彼女は黙って俺の言葉を聞いてるだけになった。
「そして、三日前に結月が俺の部屋に今までのことを謝罪しにきた。でもとっさにそれを受け入れなくて、俺は結月を突っ返した。謝られても、中学校の傷が癒えなかったから、もう一生その傷は癒えることがないだろうと思い込んで、俺はやけくそになった」
「つまり、有栖さんと水族館に行ったのは自暴自棄で、私に怒鳴ったのも八つ当たりってこと?」
やはり、水族館に行ったのが姫宮にはわかっていたのか。そういえばGPSつけられていたね。
「うん」
「最低……」
姫宮は両手で拳を作って、ポンポンと俺の胸を叩いた。痛くはないが、姫宮の悲しい気持ちが伝わってきて、すごく切ない。彼女の拳は非力なのに、訴えてる感情そのものは激しいものだった。
「そうだね、俺はどうしようもなく最低だった」
俺は姫宮の両手をつかんで、そのまま優しく握った。姫宮抵抗せずにそのまま手を俺に預けた。
「過去形なの?」
「うん、これから、姫宮にとって最高の恋人になるつもりだから」
「私が許さないと言ったら?」
「毎日謝る……」
「しつこい……」
「だって仕方ないもん。姫宮のことが大好きなんだから」
そういうと、俺の顔に熱が籠ってきたのが分かる。そして、姫宮の顔も少し赤に染まりかけてる。
「なにを急に言い出すのよ……まだ謝ってないじゃない!」
「そうだね。今から謝るから聞いてくれる?」
「うん……」
「罰ゲームで嘘告白してごめん」
「……」
「姫宮の噂を聞いて、姫宮のことを疑ってごめん」
「……」
「姫宮のことをちゃんと信じてなくてごめん」
「……」
「結月のこと黙っててごめん」
「……」
「姫宮に怒鳴ってごめん」
「……」
「姫宮の気持ち考えずに、金目当てだなんて言ってごめん」
「……」
「そして、大好きになってしまってごめんなさい」
気づいたら、姫宮の頬を涙が伝っていた。彼女はまた静かに泣いていた。
「でも、ほんとに大好きになってしまった。どうしようもないくらい好きになってしまった。姫宮じゃないとダメって思ってしまった。姫宮となら絶対幸せになれると今はそう思う。いや、俺が姫宮を幸せにしたいんだ」
俺は中学校の結月と同じことをした。姫宮の気持ちを考えずに、話もせずに彼女を一方的に断定した。俺が結月を許したからって、姫宮に許せと強要できるものではない。だから、俺は一世一代の告白をした。
「愛してる、愛……」
普段からどこかお嬢様っぽい感じがしたので、それなりに豪華な家だと想像はしていたのだけれど、実物は俺の想像を遥かに超えた。
三階建ての広い白い建物に、その建物の面積の二倍くらいもある庭。そして、インターフォンは城のような階段を上がったところにある。
本物のお嬢様だったのか……
俺は遠慮がちにインターフォンを押すと、中から若い女の子のような声が聞こえてきた。
「あ、あの、姫宮さんの、同級生の、あ、秋月樹といいます」
俺はどもりがちにそういうと、インターフォンから歓喜にも似たような声が聞こえてきた。
「いつきくん? あのいつきくんなの! どうぞ、早く入って!」
柵のオートロックが解除されて、家のドアが開いた。
俺は恐る恐る玄関に足を踏み入れると、そこには若い女性が立っていた。女の子ではなく、女性だと判断したのは、服装がすごく大人っぽいからだ。
「あの、姫宮さんの、お姉さんですか?」
「えっ? いつきくんってお世辞とてもお上手ね! 私は愛ちゃんのお母さんよ~」
その軽い口調と若々しく綺麗な顔から、とても子供がいる母親だとは想像できない。なんとなく姫宮が学校一の美少女である理由が分かった気がする。遺伝だな……
にしても、もし、万が一、俺が姫宮と結婚したら、この人が俺のお義母さんになるのか……色々と複雑な気持ちだ。
「姫宮さんに話があって来たので、姫宮さんを呼んでいただけますか?」
「愛ちゃんに知らせずに、そのまま部屋に上がっちゃいな~」
「えっ?」
俺が戸惑った顔をすると、姫宮のお母さんが子供みたいに笑った。
「女の子はサプライズが大好きだよ! 彼氏なんだし堂々としなさい!」
いたずらごころのあるお母さんだな。
にしても娘の部屋にいきなり男を放り込んでいいものなのだろうか。もし、万が一、姫宮が今着替え中とかだったらアクシデントとかでは済まされないだろう。
それに、堂々と侵入しろということなのだろう。芽依に勝るとも劣らない天然ぶりだ。失礼しました。一応姫宮のお母さんなのだから。
内心で勝手に感想を浮かべて、そして謝りながら、俺は二階の姫宮の部屋に向かった。姫宮のお母さんがいうには、三階はプロジェクトで映画を見る部屋だという。贅沢極まりない、いや、羨ましい。
姫宮の部屋の前で、ゆっくりドアを叩くと、中から姫宮の声が聞こえてきた。
「お母さん、朝食はいらないって言ったでしょう? もうほっといてよ~」
姫宮って家の中ではこんなに甘える感じなのか。思わずそれを知ってしまった背徳感に苛まれた。
「あの、お母さんじゃなくてごめんね。俺なんだけど、入るね」
一応姫宮のお母さんにサプライズ云々言われたので、俺はしゃべると同時に姫宮の部屋に入った。
姫宮の長い綺麗な黒髪が少し外にはねて、目が眠たそうに閉じかかっている。姫宮は可愛らしい白のパジャマを着て、女の子座りで、うっとりとした目で俺を見つめた。
「誰~」
「俺だよ」
「オレオレ詐欺の方ですか~」
相当寝ぼけているな……にしても、姫宮の意外な一面を見れて、少し優越感と嬉しさを覚えた。姫宮って朝に弱いんだ……
「魔王」が家では甘えん坊で、寝起きは赤ちゃんみたいだって学校の連中が知ったらどういう反応するだろうね。まあ、いうつもりはないし、俺だけの秘密だから。
俺は姫宮に近づいて、ベッドの上に座った。少し図々しいかもしれないけど、こうでもしないと、姫宮に俺を認識してもらうのは困難だと判断したから。
近くで姫宮の顔を覗くと、姫宮の目じりが赤く腫れていて、前髪も、涙を拭くときに巻き込まれかのか少し湿っていて、曲がっている。これが俺のせいだと思うと、後悔と自責の念が何度も心に押し寄せてくる。
「い、いつきくん!」
急に姫宮が悲鳴を上げて、そして、涙がとめどなくあふれてきた。その一粒一粒が宝石のように輝いて、雫となって頬から落ちた。
「なんで、私の部屋にいるの……」
「お母さんに堂々と入ってって言われたから」
「お母さんったら、また勝手なことして……」
「びっくりした?」
「びっくり……なにしに来たのよ!」
俺に返事しかけて、昨日のことを思い出したのか、姫宮は少し怒っている顔になった。
「謝りに来た」
「謝る? 昨日そんなひどいこと言って私を振ったのに……?」
ごもっともです……でも、ここで引き下がるわけにはいかない。
「姫宮に告白したのは罰ゲームに負けたから」
「えっ?」
「そして、最初は姫宮のことおっかない、何か企んでいると思ってた」
「ひどすぎる……」
「結月とは中学校の恋人で、事情があって、色々なことがあった」
「私を懺悔室だと勘違いしてない?」
確かに、謝るといったのに、まだ自分の罪を懺悔しているようなことしか言ってない。だが、俺は姫宮にすべてを話すつもりだ。ほんとの恋人にために、俺はすべてを姫宮に話してから、謝らなければならない。
「結月には中学校で傷つけられた」
「……」
姫宮の言葉を無視したせいか、彼女は黙って俺の言葉を聞いてるだけになった。
「そして、三日前に結月が俺の部屋に今までのことを謝罪しにきた。でもとっさにそれを受け入れなくて、俺は結月を突っ返した。謝られても、中学校の傷が癒えなかったから、もう一生その傷は癒えることがないだろうと思い込んで、俺はやけくそになった」
「つまり、有栖さんと水族館に行ったのは自暴自棄で、私に怒鳴ったのも八つ当たりってこと?」
やはり、水族館に行ったのが姫宮にはわかっていたのか。そういえばGPSつけられていたね。
「うん」
「最低……」
姫宮は両手で拳を作って、ポンポンと俺の胸を叩いた。痛くはないが、姫宮の悲しい気持ちが伝わってきて、すごく切ない。彼女の拳は非力なのに、訴えてる感情そのものは激しいものだった。
「そうだね、俺はどうしようもなく最低だった」
俺は姫宮の両手をつかんで、そのまま優しく握った。姫宮抵抗せずにそのまま手を俺に預けた。
「過去形なの?」
「うん、これから、姫宮にとって最高の恋人になるつもりだから」
「私が許さないと言ったら?」
「毎日謝る……」
「しつこい……」
「だって仕方ないもん。姫宮のことが大好きなんだから」
そういうと、俺の顔に熱が籠ってきたのが分かる。そして、姫宮の顔も少し赤に染まりかけてる。
「なにを急に言い出すのよ……まだ謝ってないじゃない!」
「そうだね。今から謝るから聞いてくれる?」
「うん……」
「罰ゲームで嘘告白してごめん」
「……」
「姫宮の噂を聞いて、姫宮のことを疑ってごめん」
「……」
「姫宮のことをちゃんと信じてなくてごめん」
「……」
「結月のこと黙っててごめん」
「……」
「姫宮に怒鳴ってごめん」
「……」
「姫宮の気持ち考えずに、金目当てだなんて言ってごめん」
「……」
「そして、大好きになってしまってごめんなさい」
気づいたら、姫宮の頬を涙が伝っていた。彼女はまた静かに泣いていた。
「でも、ほんとに大好きになってしまった。どうしようもないくらい好きになってしまった。姫宮じゃないとダメって思ってしまった。姫宮となら絶対幸せになれると今はそう思う。いや、俺が姫宮を幸せにしたいんだ」
俺は中学校の結月と同じことをした。姫宮の気持ちを考えずに、話もせずに彼女を一方的に断定した。俺が結月を許したからって、姫宮に許せと強要できるものではない。だから、俺は一世一代の告白をした。
「愛してる、愛……」
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