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#16 部屋でレオンとふたりきり!?
しおりを挟む淫夢から飛び出してきたようなレオンと一緒に暮らすようになって、早いものでもうじき一月を迎えようとしている。
こちらの世界に来たとき、元いた現実世界と同じ季節の春だったことで、こちらでの暮らしにも意外と早く慣れることができた。
あれからもうとっくに三ヶ月は過ぎているというのに、その時と変わらず麗らかな春の季節が続いている。
さすがに可笑しいと気づいて聞いたところ、この世界には四季という概念はなく、常春だそうだ。
それを聞いた私は、すっと腑に落ちるのだった。
ーーあぁ、なるほど。
だから、皆穏やかでのんびりとしているんだ、と。
そんなわけで、毎日、春のあたたかな風がそよそよと吹き抜けるなか、心に靄がかかったようなスッキリとしない心情を抱えつつも、レオンと一緒に仕事に勤しんでいた。
朝は皆そろって、前日の夕食時に多めに作っておいた野菜ときのこたっぷりのスープに、ルーカスさんが近くの村に薪や薬草を売りに行った折に買ってきてくれたバゲットのような少し固めのパン。
それらを元精霊使いだったルーカスさんがかまどに起こしてくれた火で温めて食べるところから一日がはじまる。
そこに、家の裏手にいつの頃からか住みついていたという山羊のミルクが加われば完璧だ。
はじめは、チートな能力のお陰で利きすぎる鼻では、臭みが気になって飲めたものではないだろうと、飲むのを躊躇していた。
けれど皆があんまり美味しそうに飲むので試してみると、これが牛乳よりも美味しくて飲みやすく、それ以来山羊のミルクを毎日欠かさず飲んでいる。
そのせいか体調は今日も絶好調。
異性に免疫がない私のことを揶揄ってくるレオンのことなんて意識しないぞ。
ここ最近の私は、仕事に行くのに、そんな挑むような心持ちでいた。
今日も、いつものように、可憐な花を見つけたレオンに、
「ほら、見て見て。ノゾミ。とっても愛らしい花を見つけたよ」
相変わらず甘やかな声音をかけられ意識を足下に向けると、薄紫色のスズランのような可愛らしい花が風にゆらゆらと揺らめいている。
またその花を手折って髪飾りにでもするつもりなのだろう。
そうはさせまいと、ぷいっと顔を背けた私は薬草探しを再開しつつ。
「……そうね。けど、また手折る気だったらやめてよね。花が可哀想だから」
極力素っ気ない声でそう言って突き放した。
一瞬、レオンの王子様然とした見目麗しい顔に悲しげな色が滲んだ気がして、ドキリとさせられたけれど。
「……ごめん。可憐で愛らしいノゾミの雰囲気によく似ていたものだから、つい嬉しくなって。けど、そうだね。花が可哀想だよね。あー、参ったなぁ。どんなものにも等しく愛情を注ぐノゾミの慈悲深さに、ますます心を奪われてしまったよ」
めげるどころかますます甘ったるい台詞を恥ずかしげもなく炸裂させるレオンの様子に、ますます戸惑いつつも、薬草探しに意識を集中することでなんとかやり過ごしたのだった。
その甲斐あってか、午前中には、今日のノルマだった薬草を探し終え、午後からは自室にこもって下着の開発に取りかかることができている。
一つしかない貴重な下着を手に取り、フェアリーに以前教えてもらった、王族をはじめとする貴族の女性が愛用しているという、リネン製のコルセットのことを思い浮かべていた。
中世のヨーロッパなどで使われていたというのは、何かの本でも読んで知ってはいたが。
私のイメージでは、一人では着用できない上に、締め付けがきつくて、とてもじゃないが普段着としては不向きに思えた。
けれどもその材料を使ってブラジャーに近いものが作れるかもしれない。
ただ問題なのは、追放された聖女ということで、追われる身である私には、この精霊の森から出ることはできないということだ。
ルーカスさんに買ってきてもらう手もあるが、そうすると、追放された聖女をかくまっているんじゃないかと、豪商らに勘ぐられてしまうだろう。
ただでさえ、精霊の森に住んでいることで、これまでも私のことを幾度となく聞かれているらしい。
なので一向に下着の開発は進んではいなかった。
ーーあーあ、レオンみたいに『変身魔法』とやらが使えたらいいのに。
私に使える能力ときたら、チープなものばかりだ。
頭を抱えた私は丸テーブルに突っ伏したまま項垂れていた。
コンコンコンーー
ちょうどそのタイミングで部屋の扉をノックする音が鳴り響く。
こんな風に律儀にノックなんてするのはレオンくらいだ。
ガバッと顔を上げた私は、ブラを両手でお腹に抱え込むことで隠してから、「な、なに?」慌てて返事を返した。
それに対してレオンからは、意外にも深刻そうな声が戻ってきたために、
「ノゾミに話しておきたいことがあるんだけど、少しいいかな?」
「ど、どうぞ」
そう言って応えるほかなかった。
それに、その『話しておきたいこと』というのは、おそらく、レオンが隠している事についてに違いない。
だっから、聞いてスッキリさせたい。そう思った。
そうして現在は、部屋に入ってきたレオンと丸テーブルを挟んで対峙しいるところである。
ほとんど毎日のように薬草探しを一緒にしてはいるが、こうして部屋にふたりきりというのは、初めてかもしれない。
そう思ってしまったせいか、これまで連日のように耳にしてきた甘い台詞が脳裏に次々に蘇ってきてしまう。
私の胸の鼓動と緊張感は最高潮に達しようとしていた。
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