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予期せぬ出来事とほころび
#22
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昨日はパニックになっちゃってたけど、要さんのお陰で、いっぱい泣いて、泣き疲れて、ぐっすりと眠ることもできて、今日は穏やかな気持ちで目覚めることができた。
お祖母ちゃんを亡くした悲しみはすぐには癒えないだろうけど、
『要さんと支えあいながら、無理して焦らずゆっくり前に向かって歩いていけたらなぁ』
なんて、ホテルの窓から夏の爽やかな青空を眺めながら思ったりなんかして。
自分でも、本当にゲンキンだなって思う。
そんな穏やかな日曜の昼下がり、要さんの希望で私の両親の眠るお墓へと立ち寄ったり、道中見かけた道の駅に寄ってみたりして、帰りの飛行機に乗るまでの時間をゆっくりと過ごした。
その間。
要さんが見た私の小さい頃の写真に混じって、中学高校の頃の写真もいくつかあったらしく。どういう訳か、それらを不意にほじくりかえしてきた要さん。
不機嫌モードマックスで、雲行きが怪しいことこの上ないご様子だ。
そんな要さんに、私と一緒に写っていた数名の男の子のことを執拗に訊かれたりもして……。
「あぁ、これは、近所の高岡さんとこの伊吹くんっていう二歳上のお兄ちゃんで。これには写ってませんが、芽依《めい》さんっていうお姉ちゃんもいるんですけどね。その芽依さんは今は結婚して東京に住んでいるらしくて……」
「……で、その伊吹って男は元カレなのか?」
「いえいえ、とんでもない。よく遊んでもらってた、ただの幼馴染みですよ」
「……ふうん、じゃぁこっちの男は誰なんだ?ずいぶん仲が良さそうだが……」
「……えぇっと、そ、その人は、ただの、そう、ただの高校の先輩です。はいっ、そうです。わー!要さん、見てくださいよ!あれが県の鳥の白鷺《しらさぎ》ですよー。こんな近くで見られるなんて、さっすが要さん、ついてますねー!」
「フン、俺に嘘をついて誤魔化そうなんて、美菜はいい度胸してるんだな。なんなら今すぐここでお仕置きしてやろうか?」
「……いやいや要さん。ここはタクシーの中なんですから、運転手さんにも迷惑になりますから……」
「あぁ、大丈夫っすよ。オレ、新婚さんの観光案内するの慣れてるんで、好きにやっちゃってください!つっても気になりますよね? オレ、ちょっとタバコ吸って時間潰してくるんで、どうぞごゆっくり~」
「せっかくの厚意を無下にする訳にもいかないよな~? で、その男にキスはされたのか?」
「……え、////」
「されたんだな」
「やっ、あの、キスって言っても輕ーくですよ。ちょっ、あっ、やん……ダメ~」
「キスだけでそんな声を出すな!止められなくなるだろう?」
「////」
中学の頃憧れてた先輩と高校生になって奇跡的にお付き合いすることになった頃の写真に狼狽えてしまった私に、どうやら嫉妬してくれているらしい要さんは、いつもの如く可笑しなスイッチが入ってしまったらしい。
それに加えて。
余計な気をきかせてくれたタクシーの優しい運転手さんのお陰で、少しだけ刺激的なアクシデントに見舞われつつも、何度もいうが、ゆっくりとした時間を過ごしたのだった。
そうして、その日の夜には、無事東京のマンションへと帰りついたのだが……。
次の日出勤した私を取り巻く周囲の雰囲気は、それまでのものとはどこか少し違っていて。
けれど、それはきっと気の所為に違いない、そう思ってしまった私は、その理由が一体なんなのかも知らないまま八月が過ぎて。
ここ数週間の色々な疲れが貯まっていたらしい私は、体調を崩して夏バテモードとなってしまっていた。
まぁ、もともと昔から、十二月三日という冬生まれのお陰で、私は夏の暑さに滅法弱く。
毎年この時季になると必ずと言っていいほど、食欲も減って、そうめんなどの麺類しか胃が受け付けなくなってしまうから、仕方がないことなのだけれど。
「美菜、最近食欲がないようだが、本当に大丈夫なのか?」
「あぁ、はい。ただの夏バテですから大丈夫です」
「美菜の『大丈夫です』はあてにならないからなぁ……」
「んな力になんないような葉っぱばっか食ってるから夏バテになるんだろう? ほら、美菜ちゃん、もっと肉食わないとダメだよ!ほらほら、少しでいいからさぁ」
「……夏目さん、ホント無理です。見てるだけで気持ち悪くなっちゃいますから……」
「……それ、もしかしてツワリじゃないのか!?」
「……それ、もしかしてツワリだったりしてー!?」
そんなある日の夕食時、このやり取りの末に飛び出してきた要さんと夏目さんの、この見事なハモリによって、なにやら可笑しなことになってしまい。
「いやいや、ただの夏バテですから……」
とはいいながらも……。
そういえば今月まだキテなかったなぁ、
そういえばここ最近、寂しいとか悲しいとか思っている暇がないくらい、毎晩のように要さんに可愛がってもらってたし、
でも、避妊はちゃんとしてくれていたし、
そもそもツワリってそんなすぐになったりするものなんだろうか?
それに、まだキテないといっても予定を一週間も過ぎてる訳でもないんだし、毎年恒例の夏バテだと思うんだけどなぁ。
でも、別に、赤ちゃんが来てくれてもいいんだけどなぁ。
要さんの赤ちゃん、メチャクチャ可愛いんだろうなぁ。
……てことは、要さんがパパで、私がママ?
ーーキャッ、なんか恥ずかしいし、くすぐったいよー!
……なんて、この時の私は、そんな呑気なことを思って、ひとり妄想に興じてしまっていた。
お祖母ちゃんを亡くした悲しみはすぐには癒えないだろうけど、
『要さんと支えあいながら、無理して焦らずゆっくり前に向かって歩いていけたらなぁ』
なんて、ホテルの窓から夏の爽やかな青空を眺めながら思ったりなんかして。
自分でも、本当にゲンキンだなって思う。
そんな穏やかな日曜の昼下がり、要さんの希望で私の両親の眠るお墓へと立ち寄ったり、道中見かけた道の駅に寄ってみたりして、帰りの飛行機に乗るまでの時間をゆっくりと過ごした。
その間。
要さんが見た私の小さい頃の写真に混じって、中学高校の頃の写真もいくつかあったらしく。どういう訳か、それらを不意にほじくりかえしてきた要さん。
不機嫌モードマックスで、雲行きが怪しいことこの上ないご様子だ。
そんな要さんに、私と一緒に写っていた数名の男の子のことを執拗に訊かれたりもして……。
「あぁ、これは、近所の高岡さんとこの伊吹くんっていう二歳上のお兄ちゃんで。これには写ってませんが、芽依《めい》さんっていうお姉ちゃんもいるんですけどね。その芽依さんは今は結婚して東京に住んでいるらしくて……」
「……で、その伊吹って男は元カレなのか?」
「いえいえ、とんでもない。よく遊んでもらってた、ただの幼馴染みですよ」
「……ふうん、じゃぁこっちの男は誰なんだ?ずいぶん仲が良さそうだが……」
「……えぇっと、そ、その人は、ただの、そう、ただの高校の先輩です。はいっ、そうです。わー!要さん、見てくださいよ!あれが県の鳥の白鷺《しらさぎ》ですよー。こんな近くで見られるなんて、さっすが要さん、ついてますねー!」
「フン、俺に嘘をついて誤魔化そうなんて、美菜はいい度胸してるんだな。なんなら今すぐここでお仕置きしてやろうか?」
「……いやいや要さん。ここはタクシーの中なんですから、運転手さんにも迷惑になりますから……」
「あぁ、大丈夫っすよ。オレ、新婚さんの観光案内するの慣れてるんで、好きにやっちゃってください!つっても気になりますよね? オレ、ちょっとタバコ吸って時間潰してくるんで、どうぞごゆっくり~」
「せっかくの厚意を無下にする訳にもいかないよな~? で、その男にキスはされたのか?」
「……え、////」
「されたんだな」
「やっ、あの、キスって言っても輕ーくですよ。ちょっ、あっ、やん……ダメ~」
「キスだけでそんな声を出すな!止められなくなるだろう?」
「////」
中学の頃憧れてた先輩と高校生になって奇跡的にお付き合いすることになった頃の写真に狼狽えてしまった私に、どうやら嫉妬してくれているらしい要さんは、いつもの如く可笑しなスイッチが入ってしまったらしい。
それに加えて。
余計な気をきかせてくれたタクシーの優しい運転手さんのお陰で、少しだけ刺激的なアクシデントに見舞われつつも、何度もいうが、ゆっくりとした時間を過ごしたのだった。
そうして、その日の夜には、無事東京のマンションへと帰りついたのだが……。
次の日出勤した私を取り巻く周囲の雰囲気は、それまでのものとはどこか少し違っていて。
けれど、それはきっと気の所為に違いない、そう思ってしまった私は、その理由が一体なんなのかも知らないまま八月が過ぎて。
ここ数週間の色々な疲れが貯まっていたらしい私は、体調を崩して夏バテモードとなってしまっていた。
まぁ、もともと昔から、十二月三日という冬生まれのお陰で、私は夏の暑さに滅法弱く。
毎年この時季になると必ずと言っていいほど、食欲も減って、そうめんなどの麺類しか胃が受け付けなくなってしまうから、仕方がないことなのだけれど。
「美菜、最近食欲がないようだが、本当に大丈夫なのか?」
「あぁ、はい。ただの夏バテですから大丈夫です」
「美菜の『大丈夫です』はあてにならないからなぁ……」
「んな力になんないような葉っぱばっか食ってるから夏バテになるんだろう? ほら、美菜ちゃん、もっと肉食わないとダメだよ!ほらほら、少しでいいからさぁ」
「……夏目さん、ホント無理です。見てるだけで気持ち悪くなっちゃいますから……」
「……それ、もしかしてツワリじゃないのか!?」
「……それ、もしかしてツワリだったりしてー!?」
そんなある日の夕食時、このやり取りの末に飛び出してきた要さんと夏目さんの、この見事なハモリによって、なにやら可笑しなことになってしまい。
「いやいや、ただの夏バテですから……」
とはいいながらも……。
そういえば今月まだキテなかったなぁ、
そういえばここ最近、寂しいとか悲しいとか思っている暇がないくらい、毎晩のように要さんに可愛がってもらってたし、
でも、避妊はちゃんとしてくれていたし、
そもそもツワリってそんなすぐになったりするものなんだろうか?
それに、まだキテないといっても予定を一週間も過ぎてる訳でもないんだし、毎年恒例の夏バテだと思うんだけどなぁ。
でも、別に、赤ちゃんが来てくれてもいいんだけどなぁ。
要さんの赤ちゃん、メチャクチャ可愛いんだろうなぁ。
……てことは、要さんがパパで、私がママ?
ーーキャッ、なんか恥ずかしいし、くすぐったいよー!
……なんて、この時の私は、そんな呑気なことを思って、ひとり妄想に興じてしまっていた。
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