どうして許されると思ったの?

わらびもち

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システィーナの描いた絵図

「奥様、ただいま戻りました」

「お帰りなさい、サリバン夫人。を届けてくれてありがとう、助かりました」

「いいえ、とんでもございません。先方は奥様からのお心遣いを大変喜んでおりました」

「そう……。それは、よかったです」

 わずかに目を細めたシスティーナは静かに安堵した。

「お疲れさま。そうそう――よろしければ、一緒にお茶でもいかがですか?」

「よろしいのですか?」

「ええ、もちろん。どうぞ、そちらにおかけになって」

 システィーナはは手元のティーポットに手を伸ばし、もう一客、空いていたカップに紅茶を注ぐ。
 その仕草は優雅で洗練されており、見る者の目を奪う。

 サリバンはその様子を眺めつつ椅子に腰を下ろし、差し出されたカップを受け取る。

「ありがとうございます、奥様」

「いえ、お口にあえば嬉しいです」

 琥珀色の液体がカップの中でゆらめき、鼻先に清涼な香りがふわりと届く。
 サリバンはそっと深呼吸し、その香りを静かに味わった。

「……よい香りですね」

「気に入っていただけたならよかったですわ」

 優雅にティーカップを口元に運ぶシスティーナをサリバンは静かに見つめていた。
 ふっくらとしてきたお腹を包むように、彼女はゆったりとした服を纏っている。 

「……夫も奥様のお心遣いに大変感謝しておりました。どうやら王宮は大変だったようでして……」

 サリバンが夫から聞いた話を伝えると、システィーナは目を見開き、小さく息を呑んだ。

「叔母様が大使様に見初められた……? まさか、一国の王の妃に目をつけるなんて。ずいぶんと大胆な方なのですね」

「ええ、ほんとうに。陛下との間には一触即発の緊張感が漂っていたようで、夫も、このまま両国関係が悪化しないかと心配していたそうです。ですが、奥様からののおかげでそれも解決するだろうと申しておりました」

「状況としては、ちょうどよかったということかしら」

 お茶を一口飲み、システィーナは何気なく呟いた。

「あの……奥様は、いかほど前よりこのを描いておられたのですか?」

「……それは、わたくしが『ミスティ子爵夫人エルザを大使殿に献上する』という筋書きをいつから仕組んでいたかという問いであっておりますか?」」

「はい、そうです。偶然にしては出来すぎております。あらかじめ、こうなることを見越していたとしか考えられません」

「偶然にも帝国の大使が我が国を訪問し、偶然にもわたくしが大使の理想の女性像に当てはまるミスティ子爵夫人の処遇に悩んでいた。……というのは無理がありますか?」

「ええ、無理があります。どこかで予めその計画を立てていた、と考える方が自然ですもの」

 システィーナは目を伏せると、静かにカップをソーサーへ戻し、「先生にはかないませんね」と呟いた。

「実は、この計画の大半は父が考えてくれたものなのです」

「侯爵閣下が?」

「はい。以前、パメラ嬢の横領分の回収が難しいと申し上げた件、覚えておりますか?」

「ええ、もちろん。フレン伯爵閣下の幼馴染である二人の令嬢からは回収できたというのに、パメラ嬢に関しては金額があまりにも大きく、対応が難航している、と」

「そうなのです。アリー嬢とメグ嬢はご自身を労働力としてことで資金は問題なく回収出来ました。ですが、パメラ嬢が使った金額は他の二人とは比べものにならず、回収の目途も立たなかったのです。そこで父に相談したところ、原因となったミスティ子爵夫人に責任を取らせるべきだと助言をいただきました」

「それが今回の件に繋がった、というわけですか?」

「ええ、そうです。頭は少々残念な方ですが、見た目はすこぶるよろしいので。父が彼女をを探してくださいました。それが皇帝陛下の弟君です。父は、あの御方と旧知の仲だったようで、嗜好もよくご存じでいらしたそうです。当初は、ミスティ子爵夫人を帝国まで同行させるつもりでしたが、折よく大使として我が国を訪問されると伺い、その機会にお引き合わせしようと考えました」

「では、最初からミスティ子爵夫人を大使様に献上なさるおつもりでいらしたのですか?」

「そうです。……とは言いましても、ミスティ子爵夫人のでしたらそれも叶わぬことでした。元、がついたことで成立したのです。ミスティ子爵が夫人と離縁なさらないのでしたら、子爵に資金の返済を求めようとは思っていました」

「たしかに……流石に他家の夫人を勝手に他者に献上するわけにはいきませんからね」

「ええ、離縁しないのであれば、わたくしは彼女を大使様に献上することはしませんでしたわ。どちらにしても資金の回収は出来ますし、大使様にはまだ話を通していなかったので、どちらでもよかったのです。子爵は夫人を切り捨てることはしないと思っていたのですが、流石に別の男性に惚れこんでいる妻を庇うことはしなかったようで……」

 そこまで話すと、喉が渇いたのかシスティーナは再びカップのお茶に口をつけた。

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