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婚約破棄ですか?
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煌びやかな人々が集う夜会会場。
貴婦人方が身に纏う色とりどりのドレスはまるで大輪の華が咲いているように美しいわ。
今宵、私もその花の一輪となります。
愛しい人のお色である深い海色のドレスを纏ってーーー。
「アリスティア、緊張しているかい?」
私をエスコートしてくださったお兄様がそう訊ねてきました。
あの人に会える嬉しさで朝からソワソワし通しの私をからかっているんだわ。
「緊張するに決まっているではありませんか。今宵は初めてあの方とダンスを踊れるんですもの……。私、上手く踊れるかしら? 万が一にもあの方の足を踏んでしまったらどうしましょう……」
「大丈夫だよ、あの方ならお前が足を踏んでも笑って許してくださるさ。あの方はお前が可愛くて仕方ないのだから。その証拠にその贈られたドレス、あの方の独占欲が丸出しじゃないか?」
深い青色の生地に金糸の刺繍を施したドレスは愛しい人からの贈り物。
あの方の髪と瞳のお色が入ったもの。
これを着ているとまるで私があの方のモノになったようで気分がいいです。
「もう、お兄様ったら……あら?」
「ん? どうした?」
「あそこにいるのはラウロ様じゃなくて? なんだかすごいお顔でこちらに向かってきますわ……」
怒った顔でこちらに向かってくるのは私の婚約者のラウロ・オレガノ伯爵子息様。
その腕には派手に着飾った女性をぶら下げています。
ただならぬ雰囲気を感じたお兄様がとっさに私を庇うように前に出ました。
「これはこれはオレガノ伯爵子息、夜会にそぐわぬ怖いお顔をされてどうされましたかな?」
「ふんっ! 今日はそこの女に用があってな!」
え……!? もしかして私のこと?
とても紳士とは思えぬ乱暴な物言いに驚き、思わず呆けた顔をしてしまいました。
そんな私にラウロ様は人差し指をビシッと突き付け大声で叫んだのです。
「アリスティア・ヴァージル! 僕はお前との婚約を破棄する!」
「えっ!?」
思わず淑女らしからぬ声を出してしまいました。
それくらいラウロ様の発言は衝撃的だったのです。
「いきなり何を言いだすんだオレガノ伯爵子息!? 君は自分が何を言っているのか分かっているのか?」
驚いて声が出ない私に代わり、お兄様がラウロ様に反論しました。
それに対しラウロ様はニヤニヤと厭らしい笑みをこちらに向けてきます。
「ふん、当然だ! いいかアリスティア、僕には真に愛する女性がいる! それがこのジェシーだ! 僕は彼女以外と生涯を共にする気はない! よってお前との婚約は破棄する!」
舞台俳優のように大袈裟な身振り手振りで勝手なことを捲し立てるラウロ様。
まるで自分に酔っているかのような話しぶりですね。
「……君は何を言っているんだオレガノ伯爵子息。君がそちらの女性を愛そうが、生涯を共にしようが、アリスティアには関係ないじゃないか? 別に好きにしたらいいだろう?」
お兄様の言う通りだわ。
ラウロ様が誰を愛そうが私には関係ないのに、どうしてそれで婚約破棄になんて話になるのでしょう?
「なっ……!? 関係ないだと? ないわけないだろう! 僕とアリスティアは婚約している! しかも数か月後には結婚式も控えている!」
「はあ……そうですね。それが何か?」
お兄様が呆れた声で返します。
「それが何かだと!? アリスティアと結婚してしまえばもうジェシーを妻にできないじゃないか! 真実の愛で結ばれた二人が夫婦になれないなどあってたまるか!」
「いまさらそのようなことを言われましても困りますね……。それにこの婚約は王命ですよ? 今更そんな子供みたいな駄々をこねられて、オレガノ伯爵家は王家に叛意でもあるのですか?」
お兄様の言う通りです。本当にラウロ様は何を言っているんでしょうか……?
私との婚約は王命で決められたこと。それを勝手に破棄するだなんて、王家に反逆の意志有りと捉えられてしまうのに。しかもこんな大勢の人々がいる場所で……。
「ええいうるさい! とにかく僕はアリスティアとは結婚しない! 王命だろうが何だろうがこの婚約は破棄だ! 破棄!」
「そんな……」
結婚式を控えているのに破棄だなんて……。
この婚約を破棄されたら私はもうあの方と結ばれないのに……。
貴婦人方が身に纏う色とりどりのドレスはまるで大輪の華が咲いているように美しいわ。
今宵、私もその花の一輪となります。
愛しい人のお色である深い海色のドレスを纏ってーーー。
「アリスティア、緊張しているかい?」
私をエスコートしてくださったお兄様がそう訊ねてきました。
あの人に会える嬉しさで朝からソワソワし通しの私をからかっているんだわ。
「緊張するに決まっているではありませんか。今宵は初めてあの方とダンスを踊れるんですもの……。私、上手く踊れるかしら? 万が一にもあの方の足を踏んでしまったらどうしましょう……」
「大丈夫だよ、あの方ならお前が足を踏んでも笑って許してくださるさ。あの方はお前が可愛くて仕方ないのだから。その証拠にその贈られたドレス、あの方の独占欲が丸出しじゃないか?」
深い青色の生地に金糸の刺繍を施したドレスは愛しい人からの贈り物。
あの方の髪と瞳のお色が入ったもの。
これを着ているとまるで私があの方のモノになったようで気分がいいです。
「もう、お兄様ったら……あら?」
「ん? どうした?」
「あそこにいるのはラウロ様じゃなくて? なんだかすごいお顔でこちらに向かってきますわ……」
怒った顔でこちらに向かってくるのは私の婚約者のラウロ・オレガノ伯爵子息様。
その腕には派手に着飾った女性をぶら下げています。
ただならぬ雰囲気を感じたお兄様がとっさに私を庇うように前に出ました。
「これはこれはオレガノ伯爵子息、夜会にそぐわぬ怖いお顔をされてどうされましたかな?」
「ふんっ! 今日はそこの女に用があってな!」
え……!? もしかして私のこと?
とても紳士とは思えぬ乱暴な物言いに驚き、思わず呆けた顔をしてしまいました。
そんな私にラウロ様は人差し指をビシッと突き付け大声で叫んだのです。
「アリスティア・ヴァージル! 僕はお前との婚約を破棄する!」
「えっ!?」
思わず淑女らしからぬ声を出してしまいました。
それくらいラウロ様の発言は衝撃的だったのです。
「いきなり何を言いだすんだオレガノ伯爵子息!? 君は自分が何を言っているのか分かっているのか?」
驚いて声が出ない私に代わり、お兄様がラウロ様に反論しました。
それに対しラウロ様はニヤニヤと厭らしい笑みをこちらに向けてきます。
「ふん、当然だ! いいかアリスティア、僕には真に愛する女性がいる! それがこのジェシーだ! 僕は彼女以外と生涯を共にする気はない! よってお前との婚約は破棄する!」
舞台俳優のように大袈裟な身振り手振りで勝手なことを捲し立てるラウロ様。
まるで自分に酔っているかのような話しぶりですね。
「……君は何を言っているんだオレガノ伯爵子息。君がそちらの女性を愛そうが、生涯を共にしようが、アリスティアには関係ないじゃないか? 別に好きにしたらいいだろう?」
お兄様の言う通りだわ。
ラウロ様が誰を愛そうが私には関係ないのに、どうしてそれで婚約破棄になんて話になるのでしょう?
「なっ……!? 関係ないだと? ないわけないだろう! 僕とアリスティアは婚約している! しかも数か月後には結婚式も控えている!」
「はあ……そうですね。それが何か?」
お兄様が呆れた声で返します。
「それが何かだと!? アリスティアと結婚してしまえばもうジェシーを妻にできないじゃないか! 真実の愛で結ばれた二人が夫婦になれないなどあってたまるか!」
「いまさらそのようなことを言われましても困りますね……。それにこの婚約は王命ですよ? 今更そんな子供みたいな駄々をこねられて、オレガノ伯爵家は王家に叛意でもあるのですか?」
お兄様の言う通りです。本当にラウロ様は何を言っているんでしょうか……?
私との婚約は王命で決められたこと。それを勝手に破棄するだなんて、王家に反逆の意志有りと捉えられてしまうのに。しかもこんな大勢の人々がいる場所で……。
「ええいうるさい! とにかく僕はアリスティアとは結婚しない! 王命だろうが何だろうがこの婚約は破棄だ! 破棄!」
「そんな……」
結婚式を控えているのに破棄だなんて……。
この婚約を破棄されたら私はもうあの方と結ばれないのに……。
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